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All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
5章 竜或いは戦士の未来
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54 : ボクの未来



 ジルヴァ、そう名乗った奴は俺の手を掴んだまま動かない。対する俺も、どう反応すればいいかがわからない。

 しばらく二人で固まっていたが、先に口を開いたのは俺だった。


「お前、ゼーゲンと関係が──!?」

「あるとも! ボクは、二十年前、ゼーゲンのみんなはボクらの住む集落に滞在してたんだ。そして、たくさんの話を聞き、たくさんのものを受け取った!」


 シュヴァルツの両親、ツュンデンさん、レーゲン(ババア)。二十年、伝説と呼ばれたギルド。そして、大罪人として国を追われたギルド。ババアもツュンデンさんもあまり自分から話そうとしない。


「地上の知識を、戦う力を、たくさんの物語を! そして、()()()()を! 幼いボクにとって、それはどんな体験よりも眩しかった!!」


 ゼーゲンの皆は、まつろわぬ民のことを知っていた。ましてやその集落に滞在……やはり、凄い連中だ。


「そしてボクは、彼らが五層の神霊を撃破する瞬間に立ち会った!」


 その言葉に驚く。二層で出会った役員の双子、彼らの言葉を思い出した。



 ──神話の時代から存在するこの迷宮、七体の神霊がおって、完全撃破されたのはたったの二体。一体は神話の時代に討たれた一層の神霊。んでもう一体が……。

 ──五層の神霊や。二つのギルドが手を組んでようやく完全撃破できたんよ。確か二十年前のことやな。



 二度と復活しないよう、完全に止めを刺したギルド。やっぱり、ゼーゲンだったのだ。もう一つのギルドとやらは知らないが、やはりゼーゲンは伝説だ。


「撃破の瞬間てお前……」

「もんのすごく怒られたけどね! 後悔は無いよ。そしてそのとき、ボクは未来を見たのさ!」


 彼女は目を閉じ記憶を手繰る。


「五層の神霊は倒される瞬間、その場にいたみんなに二つの未来を見せた」


 彼女は手を離し、指折り二本を指した。


「それからの楽しみを奪う為に最高の未来を、絶望を与えるために最悪の未来を。その場にこっそり隠れていたボクにも……その未来は見えていた」


 その「未来」とやらが、俺と関係しているわけか。


「見えた未来、その一つにボクは……夢を託した!」


 少し顔に影を落とし、振り払うように首を振って正面から俺を見た。


「どんな、未来だったんだ」

「ああ……そうだね。──その未来でボクは、地上にいた。地上で、『ソラ』を見ていた」


 顔を上げる。三層へと繋がる高い高い空。どこまでも青い空、その遠くにある輝き。地上の空によく似ているが、やはり別物だ。


「誰かがボクの隣にいる。隣でボクと共に景色を見ている。それが誰かはわからない。でも、その景色は目に焼き付いている」


 光に照らされて、彼女の銀の瞳がきらきらと輝く。


「ボクは、ずっと──その未来を、待ち続けていた。ボクは、外の世界に出る日を待っていた!」

「その隣りにいた奴ってのが、俺ってわけか?」

「いや、顔はよく見えてない」

「じゃあ違うんじゃねえの!?」


 それで何故お前は俺を「待っていた」などと言ったのか。訝しむ視線を浴びてジルヴァはたじろぐ。


「でも! キミは確かにボクの未来なんだよっ! ボクを地上に連れて行ってくれる、そんな存在なんだ! ボクの夢を叶えてくれる、鍵なんだ!!」


 まくし立てる彼女の様子に、やはり悪意はない。鍵、その言葉に、引っかかるものがある。


「……お前は、そんな未来とかのために、俺を助けたのか?」

「そうさ。たまたま狩りに出ていたらヨーグに引きずり込まれるキミをみてね」


 待つ人物が俺であるとは限らないのに、わざわざ飛び込んで俺をすくい上げたのか。……変なやつだ。


「ところで、あの気持ち悪いやつはヨーグつーのか」

「そーだよー。タコ型魔物、ヨーグ! キミらがどう呼んでいるのかは知らないけどね!」


 タコ、聞き慣れない名前だ。そんな生き物がいるのか。

 待てよ、シュヴァルツと共にゾディアックに来る以前、放浪していた期間に耳にしたことがあるような……。いや、思い出せない。


「まあいい。とりあえずお前が悪い奴じゃねえってのはわかったし」

「やった! ところで、キミの名前はなんていうの?」


 そういえば名乗ってはいなかった。こいつが「未来」を見ていたとしても、先程の情報を聞くに名前は知らないだろう。そこまで鮮明な「未来」ではなさそうだし。


「名乗りが遅れたな。俺の名はヴァイス。ヴァイス・アリエスだ」


 外のことを知らないのであれば、アリエスと名乗っても支障はあるまい。こいつは俺にまつろわぬ民だということを教えてくれた。ならば俺も、秘密を明かしてチャラにしておきたい。


「ヴァイス、ヴァイス……」


 彼女は口の中で二度三度呟く。それから顔を上げた。


「ヴァイス!」


 再び飛びつくようにして俺の手を掴み、顔をぐいと近づけた。彼女の瞳に俺の顔が映り込む。


「ボクを、キミの仲間に入れてくれ!!」

「は、やだ」


 俺の即答に彼女は沈黙。


「聞こえなかったんだけ──」

「無理っていってんだよ」


 その答えに彼女は頬を膨らましてむくれた。なんでなんでと吠え立てる。


「当たり前だろ出会ったばかりの奴を加えるとか!」

「冒険者はそんなもんだって聞いたもん! ゼーゲンのみんなはそんなかったよ!」

「そんなわけ──あるか……」


 ゼーゲンの人らは知らないが、そういえばロゼはすんなり入れたしな。しかし何故かこいつをあっさりギルドに入れるのは……反対なのだ。


「ほら、あー、他の仲間の確認が取れねえし」

「なら他の人達にも聞こう! 探そう!」

「引っ張んな! コラァテメェ!」


 意地になって腕を引っ張られる。肩外れる! なんちゅう力だ、ロートを超えているぞ。


「ボクは外に行きたいんだ! ボクは外の世界を、見たいんだ!」

「一人で一層まで上がって見に行きゃいーだろーが! 俺個人の判断でお前は連れていけな────」


 一人で一層まで行けば、その言葉を聞いた途端、彼女の力が弱まった。ぐっと何かを堪えるような表情を浮かべている。その時だった。迫る足音、風を切る音。茂みの枝葉が悲鳴を上げた。俺達二人の問答を、ある()が遮った。


「ヴァ・イィィィ────ッ!!」


 この声、呼び名。あ、と思わず声が出た。

 茂みから飛び出す黒衣の影。先程の声の主ではない。スカートを翻し、棺桶型の銃砲を背負って躍り出た。ロートだ。


「何してんのよあんたァ!!」


 こっちの台詞だが。


「探しましたよヴァイスさん!」


 すぐにひょこりと上空からロゼが顔を出した。それに続いて茂みから、ババアとシュヴァルツをかついだブラウが飛び出す。シュヴァルツは先程、ブラウの肩から俺を呼んだのか。


「────何してんだお前!?」


 羽根付き角付きの見知らぬ女、彼女に腕を掴まれる俺。二人共火の側にいたとはいえ、まだ髪も服も湿っている。シュヴァルツがそう叫ぶのも、無理はない状況だ。


「その子誰よ!?」


 ロートの疑問もまた無理はない。ジルヴァはある一点を見て動かない。その隙をついてまた手を振り払った。


「俺を助けてくれた『まつろわぬ民』の奴だ! 敵意はない以上!」

「簡潔すぎる!!」


 このままだと彼女がぼこぼこにされかねん。いや、もしかすれば彼女が皆をぼこぼこにしてしまうかもしれない。ブラウの腕から降りたシュヴァルツが、俺の首を掴んで前後に揺する。


「どれだけ苦労して僕らがお前を見つけたと思ってるんだこの馬鹿!!」

「あれはふかこーりょく、だろうがぁ! 誰が波に攫われると予測できんだよ!」


 話によればあの後、シュヴァルツの火の精とババアが協力して俺を探していたらしい。発見後、体力の無いシュヴァルツと脚の短い──幼い見た目のババアをブラウが担ぎ、最速で向かってきてくれたとか。


「まつろわぬ民か、よく小僧を救ってくれた。して頼みたいことが──」

「レーゲン?」


 ブラウの腕から降りたレーゲンに対し、ずっと黙っていた彼女が口を開いた。ロートが即座に銃砲を下ろし警戒態勢に移る。ジルヴァは、誰もその名を呼んでいないのにも関わらず、ババアの名を言った。


「なんでお前──」

「レーゲン、レーゲン! レーゲンだぁっ!!」


 俺の問いより早く、彼女は駆け出しレーゲンに飛びかかる。ブラウやロートの制止も間に合わぬ速度だった。そして飛びかかった彼女は、レーゲンに抱きついた。


「生きていた、生きてたんだ! 良かった、本当に……良かった!」

「うむむむ……、お、おぬし! 何故儂の名を──」


 そういえば先で彼女は言っていた。二十年前、ゼーゲンの皆と出会ったことがあると。ならば、ババアのことを覚えているのも納得だ。しかし今の反応を見るに、ババアは覚えていないようだ。


「ボクだよ! 二十年前のあの日──キミ達ゼーゲンに、()()()()()()ジルヴァだよ!!」


 その言葉に、ババアがぴくりと反応する。目を見開き、ジルヴァの顔を正面から見た。その金の瞳が緑に揺らめく。


「おぬし──まさか、あのときの小娘か!?」

「覚えていてくれたんだ! ボクも、みんなのことを忘れたことはなかったよっ!」


 ぶんぶんと振り回されるババアと、幸せそうに笑うジルヴァ。俺はまだ事情を知っているが、他四人からしたら意味がわからないだろう。


「それにしてもおぬしら、本当に成長が遅いんじゃな」

「キミには言われたくないね。不死身の魔女さん! でも、もうボクだって立派なもんだろ?」

「うむ、それは納得じゃ。色々とデカくなっとるし──」


 快談の最中、ババアが周りの目に気がついたのかはっとする。ジルヴァに下ろしてもらい、一つ咳払い。


「此奴は信用できる者じゃ。安心せい」

「信用できません!」

「信用できないわよ!」

「信用しかねます」

「信用できませんわ!」


 見事に四人揃って反対。ババアは参ったように俺に視線を寄越すが、俺だってまだ心の底から信用したわけじゃない。


「ジルヴァ、此奴らに説明をしてやれ」


 結局、ババアはジルヴァに全部投げた。ババアは手頃な岩場を探し、その上に座る。いつもの体制だ。


「それと、儂からの頼みじゃ」


 珍しい。傲慢不遜、唯我独尊命令するのは好きだが頼み事は一切拒否、そんなババアの癖に。


「用がある。おぬしらの集落に此奴ごと連れて行ってくれ」


 まつろわぬ民の──集落?



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