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All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
5章 竜或いは戦士の未来
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52 : RESTART!



 翌朝、俺達はいよいよ迷宮四層にむけて旅立とうとしていた。


 御役所の前で九人集まる。オランジェ達、別動隊鷹の目はそのまま迷宮の入口へ。


「んじゃ」


 俺達本隊は役所内へ。


「おう」


 昨日あんなにふらふらだったオランジェも、しゃきっとキメていた。傷跡の残る額には鉢金、武器も防具も新調したらしい。



 役所中に入れば慌ただしく職員の人々が歩き回っていた。


 そんな彼らに頭を下げつつ奥の部屋へ。無数の棚、楔が並ぶ部屋に入り、燕の旅団の名が書かれたプレートの前に。そこに置かれた針山のようなクッションに、昨日こっそり持ち出した楔を戻す。

 体が浮き上がって沈む感覚。俺達は目を開いた。




 差し込む光、遠い青空。靴底から伝わる草の感触。俺達はまた、三層最下層──神霊のエリアへと戻ってきた。


 神霊はある条件を満たさない限り、完全に倒すことはできない。今回俺達はその条件を満たしていないため、数ヶ月もすればまたハルピュイアは復活する。


「さ、あーて」


 神霊のエリアに他の魔物はいない。俺は伸びをし、座り込む。宿を出て半刻が過ぎるまでは来ないでくれと頼んだからだ。楔は地面に刺したままにする。




 半刻ほど過ぎた頃、地面に刺した楔が光を発し、目の前にババアが現れた。濃紺の長い髪は結ばれている。手には杖。ババアはきょろきょろとあたりを見回し、ふんと鼻で息をした。


「久しいの、この空気も」

「ホントに来やがったよババア……」


 このババア、昨日言った通りコピー品、自作の楔を用いて宿から飛んできやがった。手には袋。何を持っている?


「ああこれか、ハルピュイアの素材じゃ」

「持って帰れ!!」

「吠えるでないわ。これは必要じゃ。お主の短剣のためにもな」


 そんなもんが俺の短剣のため? 何を言ってるんだこのババアは。


「これバレたらやばいと思うけどねー」

「大丈夫なのでしょうか?」

「レーゲン女史、あまり無理はなさらぬよう」


 それぞれ言葉を述べるが、ババアは無視して肩をぐるぐる回す。


「さーて、では突入かの?」

「そうですね。まだ大穴の位置は確認してませんが」


 シュヴァルツの言うとおりだ。今いるのはハルピュイアと激闘を繰り広げた場所。頭上に島と島を結ぶ橋が見える。……あそこから飛び降りたんだよな、俺達。

 大穴はこの島のどこかにある。まずはそこを探さなくては。俺達は方位磁針を片手に歩き出す。



 階層を結ぶ大穴は、存外すぐに見つかった。木々のない広場があり、その奥に黒々とした穴が空いている。

 確か三層と四層は繋がっていると聞いた。四層の遥か上空に、無数の浮島が広がる三層があるのだと。今回はこの浮島から放り出されるようなものらしい。


「では行け」

「蹴落とす奴があるか馬鹿────ッ!!」

「ししょ──────ッ!!」


 蹴落とされた俺とシュヴァルツの絶叫の後、ロゼが飛び出しロートが飛び降り、ババアとブラウが飛び降りる。今までは真っ暗な時間が長かったが、今回はすぐに暗闇が途切れ視界が晴れた。


「まだ雲しか見えねえな!」


 地表は見えそうにない。ロゼがシュヴァルツに追いつきしがみつく。ババアは四層を「大母(たいぼ)絶海(ぜっかい)」と呼んでいた。つまりこの下は、海?

 雲に突入する。すぐに通り抜け、ようやく四層の全貌が見えてきた!


「────すっげえ……!」


 眼下に広がる青! そこにぽつりぽつりと浮かぶ緑の島々。あれが海? 海なのか?


「港以外では始めて見たわ……!」

(わたくし)もです! とっても綺麗!」


 ロートとロゼの歓喜の声。ゾディアックから出たことが無く、無骨な港しか見たことがないロート。銀月教の教祖として閉じ込められていたロゼ。


「俺達だって、こんな海、見たことない!」


 俺達の暮らしていた羊領、一応南の方に下り続ければ海はある。しかし俺は故郷の村からは殆ど出たことがないし、この街に来る際も陸路を選んだ。故にこんな海は見たことがない。


「白い砂浜!」

「綺麗な水面!」


 俺とロートは揃って声を上げる。こんなにも美しい景色があるのか!


「って今から僕達はそこに落ちるんだぞ──!!」


 シュヴァルツが叫ぶ。腹ァ括れ! 俺はゴーグルを押さえながら、笑いが止まらない。森、砂漠、空と来て、次は海だ。少しずつ体が熱を帯びる。──というか、暑い? 気温が高い?


「……なんか暑くないか?」

「坊っちゃん、奇遇ですね。私もです」


 冷静な態度でブラウが言う。まだまだ落下は止まらない。ババアの方に顔を向けると、落ち着いた様子でババアは言った。


「各層ごとに世界が変わる。三層と四層は繋がってこそあれ、異なる世界なのじゃ」

「……するってえと?」

「うむ。四層は海のエリア、そして、常夏の世界じゃ」


 そうこうしているうちに地面が近づく。見たこともない植物の茂る島、その白い砂浜に体が迫る。マシタから吹き上げる風、もうなれた!


「ぶえっ」

「うわっ」

「きゃっ」 


 もう恒例のように、俺シュヴァルツロゼの順に地面に叩きつけられる。それぞれ立ち上がり、砂を払った。

 見渡す限りの(あお)(あお)(あお)! 耳に届く潮騒、吹き付ける風、交じる匂いはなんだろう。


「海だあぁぁぁ────っ!!」

「飛び込むなヴァイス──!!」


 大はしゃぎでブーツを脱ぎ捨てズボンの裾を捲り上げた。ばしゃりばしゃりと飛沫を上げて、打ち付ける波間に足を踏み入れる。生暖かい水と足裏に伝わる砂。これが海なのだ。


「すっげ! すっげぇ!! これが海なんだ!」

「ちょっと! アタシが一番に飛び込もうとしてたのに!」

「シュヴァルツ様! 私達も行きましょうよ!」

「あっ、ちょっと! ……っておまっ!」


 ロートも脚の装甲、レッグガードを脱ぎ捨て飛び込む。

 視線をやれば、押しに負けたシュヴァルツが海に連れて行かれていた。ヘタレめ。


「お主はいかんのか」

「遠慮しておきます」


 ババアとブラウは木陰に下がり俺達を見ている。保護者か。まあ気にせず俺は海の水を手ですくい上げた。


「おらっ!!」

「何するんだヴァイス!」


 シュヴァルツの顔面に水をかける。即座にシュヴァルツも応戦した。その流れ弾──流れ水?──を受けたロートが水面を蹴り上げ参戦。はしゃいだロゼも加わり大混戦だ。


「若いのぅ」

「そうですね」

「本来ならば先に進みたいところじゃが……仕方ないの。若造共は止められん」

「私の苦労、わかっていただけたでしょうか」

「ふん、儂から言わせればお主も若造じゃ。自分はそういうタイプじゃない〜などと無関心ぶっているだけのな」

「……随分な言い草ですね」

「儂は人を見る目はあるんじゃ」







「いやー結局濡れちまったな!」

「ふざけんなよお前……」


 小一時間のんびり遊んでいた。全身びしゃびしゃ、というほどではないが服が湿る程度に濡れてしまった。ババアとブラウから呆れたような視線が向けられる。そういう目やめてくれ。


「あーもうやだお風呂入りたい!」

「まだ来たばっかりですよロートさん!」


 ロゼとシュヴァルツ、ロートが砂浜に上がりブラウ達のいる木陰に入る。俺も続こうと一本踏み出した途端、背後から音と飛沫。


「あ?」


 振り返ると目前にまで迫りくる波。俺の背丈程の高さ。一瞬で頭から波に飲まれた。



「ヴァイス────ッ!?」


 シュヴァルツとロートの声が聞こえた気がした。しかし今はそれどころじゃない! 鼻や口に入って来る水! 足元が取られ、波に攫われていく。


「これ! まずいって!!」


 川や泉で友人達と遊んだことは何度もある。しかしあそこは深くても足は届いたし、届かない場所には近づかないようにしていた。足が届かない場所、流される体。手を伸ばすがそれは空を切るだけ。

 まずい、まずい、まずい。さっと下を掠めた何か。何、何がいる? 必死に目を開いた。目が痛むので一瞬だけだ。


 その一瞬、視界に捉えた。暗い海の中を泳ぐ巨大な影。いや、魚と呼べるのだろうか。細長い腕? 脚? ぐねぐねした体、その中央に埋まるぎらぎらとした琥珀色の目が俺を見ていた。


「────!」


 細長い腕が俺の脚を絡め取る。顔が水中に沈んだ。がぼっ、と口から空気が漏れる。俺は咄嗟に腰から短剣を抜き出した。ツュンデンさんから貰った物。


 両腕を動かすほど余裕のない今、刃渡りのある一本で仕留めたほうが良い! 迫る本体。踏ん張る地面も、見極める時間もないが、やるしかない。

 接近する琥珀色の目に、両腕で握りしめた短剣を突き出す。確かな手応え。


「──────ッ!」


 まずい、と思った瞬間には遅かった。その目玉から紫色の血らしきものが染み出した直後、脚に絡みつくものの強さが増す。


 この海中では、魔力を貯めようと呪文の言葉を発せない。思うように体も動かず、練った魔力は力を発揮しない。

 もう無理だ、息が持たない。脚を縛る触手はずるずると俺を引き込む。いやだ、こんなところで、そんなのは──ごめんだ!!



 その刹那、俺を縛っていた触手が緩む。力を振り絞ってそれを振り払い、上を目指す。光が見える。しかし、息が持たない。あそこまで、届かない。水を吸った服が重い。誰か、誰か!


 せっかく四層を切り抜けたのに。せっかく生かしてもらったのに。せっかく仲間達ができたのに。せっかく屋敷を出たのに。せっかく冒険者になれたのに。せっかく、夢を向かって進みだしたばかりなのに────


 力強く押し上げられる体。体に回される腕、感じるぬくもり。遠のく意識の中、銀色の輝きを見た。



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