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All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
4章 愚か者或いは英雄の決意
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46 : 燕と鷹



 凄まじい風に目を開けることすら困難になる。腕でガードしながら薄目を開く。巻き上がる葉枝、その隙間から覗く──異形の魔物。

 鋭い爪を持つ鳥の下半身、そこから女性の上半身へ繋がり、顔も女性のもの。狂ったような笑みを浮かべて、けたたましい鳴き声を上げている。鳥の翼の腕を振り上げ、愉快そうに風を放つ。



 一週間前に大市を通過し、それから近くの浮島から丸五日こいつの生態を観察していた結果、夜間に島へ向かい潜伏するのが一番良いと判明した。


「クソ……!」


 夜目が効かないのか、夜間奴はあまり動かない。以前は島へ降り立った直後に襲撃されたため、今回は夜間に島へ移動し奴の寝床──中央部に向かい奇襲するのが良いと判断した。

 迷宮内独特の、突然明かりをつけたような夜明け。それと共に同時に斬り掛かった瞬間、奴は風を放ち始めたのだ。




 ナメやがって。あのように風を出し続ければ、俺達が近づけやしないことをわかってああしているのだ。


「前に出すぎるな! リーダー!」


 背後から響くグリューンの声。風に堪えながら弓を引き絞り、放つ。強風の中でも真っ直ぐに奴の喉笛へ向かい──翼で叩き落とされる。


「くっそ……!」

「お前はもっと引いて、溜め続けろ! 俺が削る!!」


 あの翼を貫通するような威力まで高めればいい。

 リラが壁を作り、グリューンを守る。それでいい。安全圏で限界まで力を溜めさせ、ここぞという瞬間に壁を解除する。それで、きっと矢は届く。


 俺は地面を踏みしめ、顔を覆っていた手を離し、背中に背負った剣へ手を伸ばす。鞘から抜き取り、地面を蹴った。

 地面を蹴り上げ、前へ、前へ! 強風と巻き上げられる枝葉によって、目を開けることは困難だ。ならば、目を開けなければいい!


 視界を閉ざしたまま、俺は走る。背後から声が聞こえた気がしたが、無視!

 薄目を開く、奴の足を捉える。力一杯、剣を振り上げて──振り下ろす!!


「オーバースライトォ!!」


 磨き上げた剣筋が、奴の足を切り裂く。効いた! 動揺に満ちた激しい鳴き声。至近距離で食らうのはまずい。耳を塞ぎ堪える。


 脚が持ち上げられ、俺を踏み潰そうと下ろされる。大人しく潰されてたまるか! 地面を転がり退避。


 気づく、風が止んでいる。攻撃を加えられた動揺のせいだろうか。だが好機! 俺が奴の攻撃を引き付けるうちに、あいつらに攻撃してもらう。声掛けなど必要ない。だってあいつらは、俺の仲間なんだから!


「『アーキテクチャ』!」


 地面から無数の槍が出現する。隆起した土塊に過ぎないが、突然足場が不安定になったことにより、ハルピュイアの体がよろめく。リラの技だ。錬金術師の力を使い、地面の構成を変質させた。


「『闇討ち』!」


 魔力を纏った見えない矢が奴の翼を貫く。風さえなければ、グリューンの矢は岩おも砕く!


「行ったァ!」


 思わず叫んだ。翼を封じれば、地上戦まで持っていける。風と超音波にさえ気をつければ、あとは削るだけだ。以前はこうもいかなかった。奇襲を受け、一瞬で壊滅にまで追い込まれた。

 今は違う。違うのだ。勝てる! 必ず、勝つ!!

 翼を射たれたハルピュイアが、上体を立て直し、俺を爪で切り裂こうと吠え立てる。


「オランジェ君から──」


 声、俺は剣で奴の爪を受け止める。以前の剣は折れてしまったが、新調したこの剣も悪くない。


「離れろクソ鳥がァ!」


 ゲイブの声とともに、奴のどてっ腹に蹴りが打ち込まれる。凄まじい勢い。ゲイブは投擲、近接の拳法、更には槍に剣まで使いこなす。医者にしておくには勿体無い逸材、スカウトした俺の目は伊達じゃねぇ!

 奴の体が浮いた。その脚を踏みつけ、体を駆け上がる。目指すは脳天! 剣を振り下ろす。


「『チャージオーバー』!!」


 限界まで込めた力をぶつける。その寸前、奴は口を開いた。その奥から覗く鋭い牙、そして、どこまでも深い闇の深淵──


「────────ッ!!」


 声と呼ぶには生温い破壊音。耳をつんざくだけでなく、明確な攻撃として俺達に放たれる。吹き飛ばされ、悲鳴の声もかき消される。




 かなり転がってきたが、剣を地面に突き立て、それ以上吹き飛ばされるのを堪えた。膝をつく。頭の中を直接揺さぶられているような痛み、耳の奥がじんと熱を持つ。

 目の前に土塊の壁が作られた。リラだ。


「耳を塞ぐんだオランジェ君! 直接聞き続ければ、鼓膜から脳を破壊される!」


 剣から手を離し、耳を覆う。壁のおかげでかなり勢いも殺されている。あと一歩だった。考えが甘かった。翼を封じ、風が無くとも、奴にはあの超音波がある。

 どうする、どうする! いつこの音は止む? 一旦この破壊音波が止まなければ、攻撃に転じることもできそうにない。


「ク……ソ、がぁ……!」


 鼻の奥がつんとして、赤い液体が地面に落ちる。耳を塞いでいても、振動は脳に伝わってくる。堪えるのも限界があるのだ。地面に肘を打ち付け、四つん這いになって叫ぶ。


「負けてたまるかァァ────ッ!!」


 自身を鼓舞するような叫び。凄まじい叫び声の中でも、俺の耳には俺の声しか聞こえない。






 その時ふと、上空が陰った気がした。顔を上げる。相変わらず破壊音波が吹き荒れる戦場、そのはるか上空に──影が、あった。



「──────ッ! ────!」

「──から────お前は──」

「ふざけてんじゃ────よ──!」

「────────ツ様────!」


 声が、たしかに耳に届く。遥か上空から、少しづつ近づいてくる。俺だけじゃなく、グリューンやゲイブ、リラ達も顔を上げた。


 徐々に迫りくる五つの影。大きな声で言い争いながら、確かにここへ近づいてくる。眩い陽射しを受け、風に吹かれながら落ちてくる。


「見えたぞ!!」


 明確な言葉が耳に届く。ハルピュイアの破壊音波が弱まった。奴も顔を上げ、上空からの突撃者を見る。

 翼を持つ女の子がしがみついている黒髪の少年と、背の高い男が前へ飛び出し、叫ぶ。


「重力調整! 衝撃緩和!」

「略式霊槍──真空波!」


 ハルピュイアの鼻先に突き付けられた槍の切っ先から、猛烈な風の刃が吹き出す。破壊音波が止み、ハルピュイアの体が倒れる。

 下に向かって吹いた風により、落ちていた五人の体は浮き上がる。そのままこちらへ向かってきた。



 一番に着地したのは、黒衣に身を包む槍を手にした長身の男。衝撃などまるで感じさせぬ優雅な着地。


 二番目は改造したシスター服を着た赤髪の少女。背丈程の大きな黒い箱を地面に叩きつけ、自身は一回転して着地。


 三番目四番目は共に。翼を持つ少女が、ぐったりした黒髪の少年を掴んでゆっくりと着地する。


 そして五人目、白髪にゴーグル、目の覚めるような青のマフラーをたなびかせ、力強く地面を踏みしめる。



「最悪だ!! やっぱり僕に、こいつを信頼するのは無理だ! 命がいくつあっても足りないじゃないか!」

「ホント馬鹿じゃないの!? 馬鹿じゃないの!? あそこから飛び降りるとか、シラフなら無理よ!」

「きゃ〜シュヴァルツ様! 怖かったです〜!」

「飛べるだけ君はマシで……ひっつくなって!!」

「……皆さん、ここは戦場です。あまり油断しないよう」


 先程まで生きるか死ぬかと瀬戸際のような緊張感だったのに、いきなり空気が壊された。戦場であることを忘れるようなのどかな会話。俺達は呆けて眺めることしかできない。


 皆からの批判を一斉に浴びた白髪の少年が、俺の方を振り返る。

 陽の光に照らされる、白磁の肌。透き通るような白い髪。風に吹かれる前髪、その下から覗く深い海のような、済んだ空のような、青い瞳。


「よぉ、追いついたぞ」


 まさか、こんな方法で追いついてくるなど、誰が思うのだ。()()()()()()()()()()()()()など──!



「この戦い、俺達、燕の旅団が預かった!!」



 燕の旅団──リーダー、ヴァイスは力強く、そう宣言した。


「お前らはそこで見てろ! 鷹の目ェ!!」


 こちらをちらりと見、余裕たっぷりに笑う。その顔に、心底イラッときた。

 足に力を入れ、立ち上がる。剣を掴み、切っ先を奴に向ける。


「何好き勝手抜かしてるんだ! 勝つのは俺達、鷹の目だァ!」


 俺の後ろにグリューン、ゲイブ、リラが集まる。四人と五人で向かい合う。


「満身創痍じゃねえかそっちはよ。だから休んでろって言ってんだよ!」

「何が満身創痍だ! 俺は、俺達は! 負けねぇ!!」

「耳から血流しながらなぁに言ってんだ! 勝つのは! 俺達! だ!」

「こんなのかすり傷に決まってんだろ! ぶっ飛ばすぞ!」


 言い争いをする俺達の側に、ハルピュイアが迫る。いきなり現れた燕の旅団連中や、喰らわされた攻撃に腹を立てているのか、激しい鳴き声を響かせる。

 ほぼ同時に、俺と詐欺野郎は武器を抜いた。


「邪魔すんじゃねぇぇ! クイックリーパー!!」

「話の邪魔だァ! オーバースライトォ!!」


 同時に飛び出し、振りかざされた爪を切り裂く。降り注ぐ返り血、気にしない。気にしてられるか!


「勝つのは鷹の目(おれたち)だ!!」

「勝つのは燕の旅団(おれたち)だッ!!」


 うめき声を上げ、異形の目でこちらを睨みつけるハルピュイアを逆に睨みつける。それから隣に立つ詐欺野郎を見た。奴もこちらに視線を向ける。


「ホント馬鹿……」

「素直に助けに来た、とか協力しよう、とか言えない訳あんたァ!?」

「誰がそんなこと言った!! こいつと協力なんかするかよ!」


 ロートちゃんの言葉に詐欺野郎が怒鳴る。協力? こっちこそゴメンだ。俺は剣を構え、足を踏みしめる。


「鷹の目、行くぞォ!」


 そして──前へ飛び出した。



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