15 : ライバル
「みっけたァ!!」
中から植物が伸びている古い倒木、その周辺にキノコが生えている。薄い黄緑に茶色の模様が入ったキノコ、間違いないこれが「ヘルバーム」だ。
「よしロゼ下ろすぞ」
「は、はい! ありがとうございます……」
僕らは二人でロゼを担いで移動していた。片腕を伸ばしもう片腕で肘を掴む、二人でそれを組み合わせてそこに乗ってもらう。お神輿の体制だ。
「黄緑に茶色の模様だからな!? 変なやつ取るなよ??」
「わーってるよ!」
不安だ。昔師匠にキノコ狩りを頼まれた際、毒素が移るキノコを籠に放り込まれて全滅させられたことがある。見た感じ変なキノコは生えていないが……それでも用心に越したことはない。
「結構生えてるな! ブラウ達がどれくれぇ採れてるかにもよるが……」
「根こそぎ毟る真似はやめろよ。次取る人が困る」
「わーってる! 『自然のものを採るときは』」
「『八割までしか許さない』、だろ?」
師匠の教えである。冒険者として、というよりかは人間としてのマナーだと教え込まれた。僕らは皆自然に生かしてもらっている存在なのだから、僕らの勝手で生態系を破壊してはいけないのだと。
「いい教えですね」
「教えてくれた本人は最悪だったけどな」
「おい」
そうこうしている間に八割がなくなった。籠には三分の一ほど溜まっている。
「よっしゃ次ぃ!」
「ここから北!」
またお神輿を組んでロゼに乗ってもらう。
「行くぞ!!」
あたりに青い炎、ウィルオやウィスプ達を侍らして駆け出すその様は、怪しい儀式そのものだ。
「シュヴァルツ様!」
「どうした?」
「こういう冒険も、素敵ですわ!」
風に髪を揺らして笑うロゼ。その目はきらきらと輝いていた。
「……そうだね」
目的地は北、今まで潜ったどこよりも深い場所を目指す。馬鹿な勝負に巻き込まれたが、楽しんでもらえるのなら悪くないのかもしれない。
「俺らが先だぁぁぁぁぁ!」
「勝つのは俺だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
目的地目前にして、オランジェ達と遭遇した。火事場の馬鹿力というかなんというか、ヴァイスが凄まじいスピードで走り出したので神輿を解く。
「ロゼ!」
「心配はいりませんわ!」
ロゼはふわりと浮き上がってから優雅に着地し走り出す。ヴァイス達は顔をくっつける勢いで言い合いしながら疾走中だ。僕らと並んでグリューン。前二人をじっと見ながら無表情で走っている。一歩の蹴りが違うのか、体が前に発射されるようにして進む。
「ロゼ、加護は継続してかけてくれ!」
「了解です!」
この体に満ちるロゼの加護が無ければ、皆に追いつけもしなかっただろう。
「シュヴァルツ様、腕をお上げください!」
「えっ!?」
指示に従い腕を上げる。手首がしっかと掴まれた。
「はぁ!?」
地面を蹴っていた脚が浮き上がる。上を見上げると、僕の腕を掴んだロゼが笑っていた。僕を掴んで、飛んでいる。
「自分に加護をかければ、できたみたいです」
「チャレンジャー!!」
お神輿組んでた僕らの気遣いを返せ!! グリューンも下から見上げて目を丸くしていた。
「でもシュヴァルツ様だけですわこんなことをするのは……」
「あ・り・が・と・う!!」
飛んでいると言っても、そんなに高くにいるわけではない。せいぜい二、三メートル。地面の凹凸や水溜りに足を取られないくらいだ。突如生まれた影にヴァイス達がぎょっとして上を向く。
「片手を離すぞ、ロゼ!」
手を伸ばし、その背中からヘルバームの詰まった籠を奪った。
「お先に失礼しますわ!」
「ちょっ、待てロゼぇぇぇ────っ!!」
「なんだそれ────!?」
そして僕らは一足先に群生地へ。高い位置からだとわかりやすい。木々に囲まれた古い沼、水は濁って苔生しているが、それが植物にとっては良いのだろう。黄緑に茶色の模様、ヘルバームだ。
「よし降りよう」
「はぁい」
ぶちぶち毟って袋の中へ。……流石に、オランジェ達の分まで奪うのは気が引けた。だって僕にとってはこの勝負、なんの関係もないのだから。
「ロゼ、一人ならもっと高く飛べるか?」
「加護が効いているうちであれば可能ですかと」
方角を確かめ、彼らのいるであろう方向を指差す。
「ブラウさん達が西にいるはずだ。そこと合流してキノコを受け取ってきてもらえないか? その後は、橋で待っていてくれればいいから」
「了解ですわ、シュヴァルツ様!」
ロゼは手で印を組み、加護を重ねがけしてから飛び立った。
「時短の配慮はしてやるから、あとは勝手にしろ。馬鹿ヴァイス」
「あいつらぁぁぁ……!!」
俺らの上空を飛んでいったロゼとシュヴァルツ。ここいらは湿地帯で足場が非常に悪く走りづらい。こっちが苦しんでいる間にやすやすと飛んでいきやがって……!
「ロゼちゃんは飛べるのか!! 素敵だ!!」
「器の民だしね」
だがこれでひとまずは優位。ゆっくりシュヴァルツと合流してキノコを受け取れば──。
俺達の目の前に飛び出してくる紫の毛色をした狼型魔物。この種類は見たことがない。だがそんなのは関係無い!
「邪魔してんじゃねぇぇぇぇ! クイックリーパー!!」
「そこをどけぇぇぇ! オーバースライトォ!!」
俺の素早い斬撃と、ニワトリ野郎の剣から繰り出された一撃。それらが狼の毛皮を切り裂く。邪魔者は去った、歩みは止めない。
「リーダー素材はー?」
「任せた!!」
グリューンとか言うやつの声が遠ざかる。これで相手はこいつだけだ。
「へっ、やるじゃねえかニワトリのくせによぉ!」
「素早さは胸張れるんじゃねえか詐欺野郎!」
「俺のつけた傷の方が多いけどな!」
「お前は二刀流だからだろ! 俺のつけた傷の方が深かった!」
「んだとコラァ!」
「やんのかオラァ!」
鼻をぶつける勢いで怒鳴る。その時、脚が茂みに入った。勢いに乗ったまま脚が止まらない。それは相手も同じらしい。すぐに茂みを抜けた。開けた視界には、毒々しい色の沼。水が濁って、一層湿気が増した場所。
「うげぇ!?」
「やべぇ!!」
急いでブレーキをかけるも止まらない。沼はもう目前だ。もうどうにでも───
「なれぇぇぇぇぇ──────!!」
地面を蹴り上げ上に飛んだ。見事な走り幅跳び、記録に残したいくらいの美しいフォームだった。ニワトリ野郎はいつの間にかいない。眼下には沼。
──まあ冷静に考えて、小さな沼とはいえ幅五メートルは跳べっこないだろう。すぐに体が落ちていく。この沼に沈むのだけは、嫌だ!!
「穿てウィルオ、ウィスプ!!」
耳に飛び込んできた声。
「ルッツ────」
助けに来てくれたのだ! 喜びのあまり幼い頃の呼び名で読んでしまったその瞬間、背中に衝撃が加わった。体がそれに従い吹っ飛ぶ。瞬きの瞬間には木に激突していた。ずるずると落ちて地面に着地。背後からの足音。
「そういうところがホント……猪野郎なんだよ。ヴァイス」
「シュヴァルツ、お前マジ……殺す気かよ……」
「助けてやったのにひどい言い草だな」
呼吸止まったわ。抉られたような背中とぶつけた腹が痛い。げほげほと咳き込む俺を余所目に籠を投げつけてきた。受け取り中を見ると、ぎっしり詰められたヘルバーム。籠の三分の二が埋まっている。
「ロゼに、ブラウさん達からキノコを受け取って、迷宮出口で合流するよう頼んでる。ほら、立て」
差し出された手を掴んで立ち上がる。体のあちこちが痛むが仕方ない。
「じゃあ戻るぞ! 街へ!!」
「リーダー、馬鹿なの?」
「お前マジで殺す気だろ!!」
俺は死を覚悟し、もう跳ぶしかないと考えて足を踏み込んだのだが、それはグリューンによって止められた。こいつがフック付きロープを首に投げつけてくれたおかげだ。本当に死ぬかと思った。
「キノコ採るんでしょ」
「でももうあいつらに全部採られてるに決まって──」
グリューンは、無言で指さした。その方向、ヘルバームがまだまだたっぷりと残っている。ここが一番の群生地らしい。
「残してくれてたんだよ。二割どころか、半分くらいね」
「…………!」
採集物は八割しか採らない。それは冒険者のマナーだ。だが──これは勝負なのに、俺達の分まで残してくれていた。
「まあ、勝負だって盛り上がってんのはリーダーだけだよ。他のみんなはつきあわされてるだけだしね」
敵に情けをかけられたのか。脚がふらついたが立ち上がる。
「キノコ、採るぞ」
「はいはいリーダー」
勝負はまだ終わっちゃいないんだ。
「あっ、みなさーん!!」
出発前に作戦会議をした広場、ロゼが僕らを見つけて手を振っている。
「ロートさん達も合流したんですね!」
「まあね」
あの後猛ダッシュで走る僕ら──「もう勝てるんだから歩こう」と言ってもヴァイスは足を止めなかった──は街に戻り、ロート達と合流した。
「ニワトリ君もいないし、もう走らなくて良くない?」
「駄目だ。真剣勝負なんだから、全力を尽くさねえと向こうに失礼だろ」
「は〜熱くなっちゃって。バカらし」
ロートが肩をすくめてやれやれと溜め息をつく。別動隊から受け取ったキノコを籠に詰め、ヴァイスはしっかりと担ぎ直す。溢れないように布で蓋をした。
「じゃ、行くぞ──」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
背後から響く叫び声。振り返ると凄まじい勢いでこちらに走ってくるオランジェの姿。どこを通ってきたのか擦り傷塗れ、必死の形相でこちらに突っ込んでくる。ヴァイスがそれを見てにやりと笑った。
あれ、鷹の目のオランジェ君か。
あっちの子は? 見かけないぞ。
ほらあの! 何日か前に熊連れてきたっていう……。
何かは知らないけど、頑張れー!
周りの人々もなんだなんだと顔を出す。この街の人は基本愉快で祭りごとが大好きだ。今回もなにかの祭りかと思っているんじゃなかろうか。
「兄貴ー! やっほー!!」
「俺達も先に行かせてもらいますね」
「リーダーの醜態……勇姿を見届けないと」
ゲイブさん、リラさん、グリューンの三人がそれに続いて走り出す。僕達も、互いに顔を見合わせてから走り出した。
付き合わされたご褒美代わりに、せいぜいこの結末を特等席で見せてもらおうじゃないか。
「よくあそこで! 諦めなかったな!!」
「諦めてたまるかよ! 男と男の真剣勝負だ!!」
「はっ、よくやるよ!」
通りを全力で走る俺達を、街の人達がぎょっとしながら見てくる。階段を二段飛ばしで飛び降り、路地を抜ける。
「俺はお前が嫌いだ! 人生最高の気分を、人生最低な悪夢に変えたお前がな!!」
「知るかお前何言ってんだ!」
「この勝負に勝って、俺は、お前より凄いと証明する! 俺は、ギルド鷹の目の……リーダーだぁぁぁ!!」
その横顔は真剣だった。髪は乱れ、擦り傷に塗れてそれでも走る。
「──俺だって、燕の旅団のリーダーだ!!」
大きくジャンプして、階段をそのまま飛び降りた。足裏に伝わる衝撃、なんだかおかしくなってきた。腹の底から笑えてくる。あのとき、蜘蛛退治のときのような愉快さが押し寄せてくる。
見えた、二股の黒猫亭。あと五歩、四、三、二──!!
「ただいま──────ッ!!」
飛び込んだのは同時。奥のツュンデンさんが目を丸くしていた。倒れ込むようにしてカウンターに突っ込み、籠を置く。
「ヘルバーム採ってきたぞ!!」
「ヘルバーム採ってきました!!」
ツュンデンさんは二度三度瞬きをする。ぜえぜえ息をする俺達の背後から、ぞろぞろ仲間達がやってきた。ことの成り行きを見守るように、距離をおいて立ち止まる。
「……早くないかい?」
「勝負なんで」
ツュンデンさんは頭の後ろを掻いてから、「まず座れ」と促した。
いっぱいに詰め込まれたキノコ。それらを一つ一つ確認し、籠に戻す。ヴァイス達がこちらを向いて真剣な表情を浮かべていた。僕らは各々引き下がり、空いている席についた。
ツュンデンさんは最後の一つを確認し終え、籠を下ろす。
「ヴァイス、オランジェ」
手招き。呼ばれた二人が立ち上がりカウンターにつく。
「お疲れ様。ありがとう、助かったよ」
「へっ、お安い御用だっての」
「楽勝でしたよ、ツュンデンさん」
格好つけんな二馬鹿。
「二人共約束通り籠いっぱいに持ってきてくれたんだね。ばっちりだ」
カウンターの下に手を伸ばし、新品のダガーと紙の封筒を取り出す。二人の目が輝いた。
「はい、ご褒美。二人共ありがとうね」
ツュンデンさんの言葉に、ヴァイスとオランジェは身を乗り出し叫ぶ。
「二人共ぉ!?」
「ちょっとちょっと待ってくださいツュンデンさぁん!」
二人は睨み合うと互いを指さして叫んだ。
「どっちの勝ちなんだ!?」
「どっちの勝ちですか!?」
耳を塞ぎながらツュンデンさんは素知らぬ顔で言う。
「私は『早く帰ってきた方』としか言ってないよ。二人共同時に帰ってきた、あとなにより私は『勝負』とは一言も言ってなーい」
「なんだそれなんだそれなんだそれ!!」
「男同士の真剣勝負だったんですよツュンデンさぁん!!」
「じゃかあしぃ!」
びしり、と指を突きつけた。
「男同士の真剣勝負なら、仲間を連れて行くんじゃあないよ! あんたら同士、丸裸で挑むべきだったのさ!」
ぐうの音も出ないのか、二人共黙り込んだ。
「ご褒美は約束通りあげるけど、ちゃんと仲間にお礼言っときなよ」
二人はとぼとぼこちらに歩いて来た。
「手伝ってくれて……ありがとーごさーます……」
「声が小さいわよ!」
「腹から声だせ」
「え? なんておっしゃいました?」
「聞こえませんよヴァイスさん。もっと大きな声でお願いします」
嫌味たっぷりに皆でヴァイスを囲む。
「ご迷惑おかけしました……」
「もっと情けなく言ってよリーダー」
「ホントに迷惑かけてくれやがりましたねアンタは!」
「オランジェ君、これに懲りたら軽率な行動は慎んでもらえるかな?」
全員が全員罵倒を浴びせる。敬意もクソもあるものか。
「まあみんなお疲れ様! ……ヴァイスとオランジェ以外、ちょ〜っとこっち来て?」
呼ばれるままにぞろぞろと、奥の厨房に移動した。
「…………なんだよ」
「…………いや、なんでも」
「じろじろ見んなよ。俺は男だって言ってんだろ」
「わかっとるわいそんなこと!! あんなもん見せられりゃな!! ……そうじゃなくて、あれだ、そのー」
ぼりぼりと頭を掻きながら、目を背けて言った。
「……なんで、キノコあんだけ残していったんだ」
「……知らねえな。シュヴァルツが勝手にやった」
「……そうかよ」
「……そうだよ」
新品のダガーを光に透かし、刃の磨きを確認する。普段使っているものよりも刃渡りが長い。持った心地も良い。三本目としては悪くない。
「これはグリューンが言ってたんだ。ありがとなって」
「ふぅん。こっちもシュヴァルツが言ってたぞ。気にするなって」
そのまま、同じ席で向かい合って皆が出てくるのを待った。何故かお互い──席を移動は、しなかった。
「え、マジで本気の勝負してたのかい?」
「はい。なんか最後の方とかいい雰囲気でしたよ」
僕らも思わず熱くなってしまってたし。
「看板娘との会話権や新品のダガー欲しさとは思えない真剣度合いだった」
「うっそぉ……」
奥の厨房にみちみちに詰められた僕ら、そこで行われた小声の緊急会議。流石のツュンデンさんも乾いた笑いを浮かべている。
「たかだかお使い程度でそこまで白熱した戦いになる?普通」
「焚き付けたのは母さんでしょ!!」
ロートの言うとおりだ。
「そもそもどうしてあのキノコが必要だったんです?」
「……仕入れる駄賃が勿体無くて……焚き付けたら取りに行ってくれるかなーって思ったのさ……」
「……母さん?」
全員からの白けた視線を浴びてツュンデンさんはたじろぐ。
「いや、二人共煽ればやってくれるだろうし? 安いご褒美で動いてくれたら嬉しーって……」
「私達も巻き込まれたんですが」
「ものすごい振り回されましたよ」
大ブーイングが応えたのか、ツュンデンさんは苦笑いしながら両手を合わせ、謝罪する。
「いやぁ……ホントに、ごめんね?」
「めちゃめちゃ迷惑被ったんすけど……」
「どうするんですか、あの二人……」
「でもなんか、熱い勝負を交わして、少し仲良くなったんじゃない?」
「熱い勝負も何もご褒美欲しさの戦いでしょう大本は」
酷い大人だ全く。いや、それに釣られる二人も二人だが。
「とりあえずその、みんなホントにお疲れ様……」
「二度とあの馬鹿焚きつけるマネしないでくださいね」
「は〜い」
とりあえず会議は解散。それぞれ厨房から出る。今日は何をするかと考えていたとき、二人の会話が聞こえてきた。
「パンジーちゃんはこの黒猫通りのアイドルだぞ知らねえのかお前!? 酒場に行っても滅多と会えなくて好みの男の元にしか接待にこない高嶺の花! あの素晴らしい美女を知らねえとはお前……」
「知らねえよどんな子だよ」
「は〜〜人生損してるわお前。あそこの酒場の……」
「あ、その人見たことあるぞ。あれだろ? 黒髪の子」
「……は?」
小耳に挟んだ酒場の名前。たしかに黒髪の美女は見覚えがある。たしか、ロートと出会う前仲間探しで訪れた酒場にいたような。
「ひと目見た瞬間俺ぶっ倒れたから覚えてねえけどな。こういう絡んでくる女無理だし」
「…………」
「ん?」
「俺なんてひと目も見たことねえんだぞコノヤロ──ッ!! それなのにお前!! お前ぇぇぇぇぇ!! ぶっ倒れるとか! ぶっ倒れるとか!!」
ヴァイスの首を掴んで振り回す。
「ぶっとばしてやる────ッ!!」
「やめんかあんたら!!」
「あっはははははははは!!」
オランジェの嘆きとロートの怒号、グリューンの笑い声。今日も二股の黒猫亭は、相変わらず騒がしい。