表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
8章 意志或いは不滅の思い
144/157

139 : 五人



 見上げる壁、ひび割れの中。人のような形をした木、目に当たる部分から漏れ出た赤い光。


 六層を構成する神霊、神樹ユグドラシル。奴の撃破は六層の破壊を意味し、それは避けなくてはならない。火を放つのは駄目だ。木の(うろ)、その閉鎖空間。シュヴァルツの扱う火でもあるまいし、仲間を燃やさないということは不可能。軽率に火をぶちまけば、俺達まとめてここでおじゃんだ。

 何やら割れるような音。虚の入口が塞がれた。逃がすつもりはないらしい。


 瞳のような赤い光が瞬いた。俺達の足元に光の軌跡が刻まれる。嫌な予感がしてその場から離れた。その刹那、耳をつんざくような高音。

 光の軌跡が走っていた位置に、深い溝が生じている。焦げたような匂い、ぶすぶすと上る煙。マジかよ……!


「熱光線……! こいつもう木じゃねえだろ!!」


 地面に機動を描いた後、発動までに一瞬の隙があるのがまだ救い。即時攻撃なら一撃で炭になる! どうすりゃいい。外にいたときみたいな音攻撃は無いが……狭いこの場は相手の思うがまま。おまけに暗い。攻撃の瞬間、その光ぐらいしかない。

 暗視ゴーグルをつけた俺。 周囲の「式」を読み取るリラ、獣の本能で察知するグリューン、この三人のみが辺りを把握できている。まずは明かりが必要、しかし火は向いてない。


「ブラウさん! 光を!」

「言われずとも」


 リラの声に、ブラウは槍をひねった。がちがちといくつか組み合わせる音。


略式霊槍(りゃくしきれいそう)聖光(せいこう)!」


 その槍から放たれた光。炎とは違う白のそれは、虚の内部を照らし出す。これでなんとか!


「しかし坊っちゃん、参ったことにこのままでは他の技を放てません」

「その技明かり灯すためだけにあるのか!?」


 なんだその技! 熱光線を躱しながら叫ぶ。


「いいえ、この技は本来対人用なのです。『解放』すれば、対象の意識を飛ばすことも可能です。しかし、この場においては無力も同然」


 参ったな。ブラウやジルヴァの攻撃は一際抜けた火力を叩き出せる。ジルヴァのいない今、俺がどうにかするしかないのか。

 その時、(つる)が鳴く音がした。真っ直ぐな軌道を描いて矢が飛ぶ。グリューンの矢が人形(ひとがた)の中央を貫いた。


「ロートじゃなくて僕が残って良かったね」


 続いて一気に三本番える。短い前髪の下から覗く緋色の瞳が、光に照らされ揺らめいた。


「砲撃じゃないから、好き放題撃てる」


 光の筋を描いて飛ぶ三本の矢。人形の頭部、木にめり込む両足──に当たる部分──を縫い止めた。地面を揺らす振動、おそらく虚の外ではまた音の激流が溢れ出しているのだろう。ここならば、少しはマシだ。


「へっ、撃破しねぇ程度にぶっとばしゃあいいだけだもんな!」


 よし、迷いは晴れた! 五人で逆にちょうどいい。十人揃ってたらうっかり撃破しかねない。


「指示は頼むぜ! リラ!!」

「了解!」


 俺は頭を動かして策を巡らせるのは向いてない。今この場において、指示を出すのに向いてるのはリラだ。


「ロゼさん! 貴女の技で壁の破壊は可能ですか!?」


 地面に刻まれる赤い光を躱し、ロゼへと問いを投げた。足元の地面から無数の根が伸びる。油断も隙もない!


「分厚く、どこまでか範囲が限定しづらい……! 下手をすれば、この大樹に風穴を開けるかもしれません……!」


 ロゼの力は存在の焼却。分厚い壁と威力を高めれば、その破壊は壁だけに留まらなくなる。


「無理そうか!?」


 俺の問いに、彼女は真っ向から首を横に振る。手を組み交わし、正面へ構えた。


「可能です! 視界さえ確保でき、充分な時間があれば! ……みなさま、お願い致します!!」

「わかりました、そちらに集中してください!」


 大穴を携えた祭壇を塞ぐ壁、ロゼはその破壊に徹する。


「リ……ブラウ君! ロゼさんの護衛と明かりをよろしくお願いします!」

「そちらは任せる」


 明かりを携えたブラウが遠ざかる。俺とグリューンは暗中でも行動可能。リラは向かってきた蔓を分解しつつ、俺達の方へ指示を出す。


「ヴァイスさんとグリューンはなるべく壁から離れないようにしつつ、あの人形を牽制してください! おそらくあの部分に過剰に攻撃を加えるのはまずい!」


 ずれた眼鏡を直す。その瞳は、俺達では想像もつかないであろう無数の「式」を読んでいる。


「奴が何を頼りに俺達の居場所を察知しているかは、把握できません! 十分な注意を! 援護と足場の生成は引き受けます!」

「頼む!」


 こちらへ向かってくる蔦を切り裂く。破片が後方のリラへ飛んだが、どうにかするだろう。


「クロスナイフ!」


 「未解放」状態の中距離攻撃技はこれぐらいしかない。解放した攻撃では、致命傷になる可能性もある。ほとんど近接前提、おまけに斬撃故威力が落ちる。斬撃は人形の足元へ飛んだ。さて、どうするか。


「何で俺達を捉えてんだよ……」


 伸びる根も、蔓も、熱光線も的確に俺達を捉える。それは一体何故か。見ている? 温度で感知している? ものは試しだ。短剣の柄をカチ合わせ、両刃の剣の形を成す。それを体の正面で回転させた。気流が乱れ、渦が生まれる。


「ファントム・ミラージュ!」


 周囲に発生する俺の影。無数のそれ、幻覚の技。実態を伴わない分身を生み出す「ハルーシネーション」とはまた異なる技。この技は辺りの気流と大気、そして流れる魔力を「ずらし」、対象の神経を錯覚させるのだ。

 この木に神経があるとは本来ならば信じがたいが……意思を持っている時点で常識は通用しない。あの赤い光を放つ、瞳に当たる部分はこれをどう受け取る?


 赤い部分がぎらりと光った。熱光線はまっすぐに俺へ向かって軌跡を描く。視覚は関係ない! 即座に幻影を解除しその場から飛んだ。


「視覚じゃないなら……!」


 空中で体を転回。そのときに覗いたリラが、地面へ手を当てるのを見た。地面の「式」が書き換えられていく。グリューンがロゼ達の元へ伸ばされた蔓を矢で射抜いた。


「温度はどうだ!!」


 地面の一部、俺達ほどの背丈へ隆起する土。それはほのかに熱を持つ。ちょうど人間が立ってるみたいに。

 伸ばされた蔓が、俺達の元と──その土くれを狙った。よし、温度か!


「少し寒くなりますよ!」

「構わねぇ!!」

「やっちゃって」


 地面が急激に冷える。元々寒い第六層、芯から凍えるような冷気。だがこんなの、気にもしてられっか!


「ロゼ! どうだ!!」

「────っ!! 行けます!!」


 集中攻撃は止んだ。代わりにヤケクソで放たれる攻撃の数々。方向は無茶苦茶、軌道もぐちゃぐちゃ、見境ない分速度も早い。


鏡花水月(きょうかすいげつ)!!」


 壁が丸く、消滅した。奥に見える祭壇、あの中だ!!


「みなさまっ!!」

「おう! ありがとう、ロゼ!!」


 背を向け、一気に走る。あれに飛び込めばこっちのものだ。壁のそばにいたロゼとブラウ。俺とグリューンは共に人形の側、二組の中央にいたリラ。グリューンは流石の足の速さ、闇雲に穿たれる攻撃を身軽に躱しつつ駆ける。

 壁の断面、そこが動いた。修復しようとしている!? まずい、急がねば。だがこの中で一番遅れているのは俺、間に合え、間に合え!!


「ヴァイス!!」


 グリューンの声。背後に迫る気配。なにかに脚を絡め取られた。殺気ならすぐに気づけるが、相手は木。殺気を抱くことも無かろうし、抱いたとして俺が予知できる範囲ではない。



 やべえ、と何故か他人事に思った。何が来ている? 熱光線か? 根か? すぐさま足の蔓を切り裂いたとて、間に合わない。致命傷は避ける。足が動かなくなるのは避ける。身をよじり、せめて片腕で済むよう動いた。視界の隅、鋭く尖った根の先端。



神槍抜錨(しんそうばつびょう)牙突(がとつ)!!」



 響いた声、眼前を掠めたのは押し出された大気。爆散した根の破片が頬に当たる。ぼうっとしてる時間はない。足に絡んだ蔓を切り裂き、正面に立っている()()()()へ顔を向けた。


「助かった、ありがとう! ブラウ!!」

「油断なさらないでください」

「へへっ、悪いな!」


 肩で息をしたブラウ、壁の側からここまでなんとかして来たらしい。それでも間に合いそうになかったため、わざわざ「解放」して攻撃を打ってくれたのだ。


「一気に行きます」

「は? どうやって────」


 ブラウは俺を掴んで肩に引っ掛ける。両手で槍を掴み持ち手を回した。刃先は斜め下、地面へ向けて。


「略式霊槍、真空波」

「ちょっと待て──────ッ!!」


 刃先から噴出する強烈な風。俺はブラウの肩と背中にしがみつく。上空へ放り出される体。


「そんなことに解放を使うな!!」

「簡易ですので」

「変わんねえよ!!」


 ブラウの槍は出力調整できるのが強みである。だからといって、多用しすぎだ! 一気に壁の側へ着地。俺は肩から落とされ、ふたりで走った。ロゼ、グリューン、リラはもう祭壇の上にいる。壁に空いた大穴は閉じかけようとしていた。俺は双剣を、ブラウは槍を走りながら構える。



双牙抜剣(ふうがばっけん)!」

神槍抜錨(しんそうばつびょう)



 狭まる亀裂、まだ閉じてはいない。かすかな光を放つ刃、眼前で手を交差させる。ブラウもしっかと両腕で槍を握って刃先を向けた。



嘆き声(バンシー)!!」

風花(カザハナ)!」



 ブラウから放たれる圧縮された風。俺が放った、内部へ衝撃を加える音の激流。閉じかけていた壁に風穴を開けた。中へ飛び込む。段飛ばしに階段を駆け、ロゼ、グリューン、リラ、ブラウの背中を叩いた。


「行くぞ!!」

「了解ですわ!」

「オッケー」

「了解です」

「行きましょう」


 石段を蹴る。一瞬振り返った背後、壁に埋まった人の形。その瞳に当たる赤い光が瞬いた。それに背を向け──俺達は黒黒と覗く闇の底へ落ちる。


 七つの世界、その最後。二十年、誰も辿り着けなかった場所。その名前は、ロートから聞いた。



「行くぞ────第七層! 虚影(きょえい)廃都(はいと)!!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ