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All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
8章 意志或いは不滅の思い
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126 : きらきら光る



 行くか、とは啖呵を切ったものの。降り立ったのは五層の森。ここから神殿を抜け、大穴に入らなくてはならない。妙な気まずさを感じつつ、俺達は神殿を目指す。


「なんか、思ったより片付いてるな」


 神殿は元々荒れ果てていたのに加え、俺達が暴れまわってかなり壊れている──はずだった。それなのに、瓦礫や砂埃は不自然なほど綺麗に掃除されている。


「あの逃げ回ってた信者がするとは思えないし……まさか、十二貴族がここまで隠蔽を……?」

「いやぁ、流石にそれは……」


 いや、しかねないか。ロゼが周りを見回し、ぐっと唇を噛んだ。俺はそんな彼女を一瞥し、歩き出す。彼女のフォローはシュヴァルツにしかできない。





 聖堂、先日吹き飛ばした瓦礫の跡を蹴散らして進む。見上げるほどに大きな玉座、その美しさはもはや彫刻か。確かに耳をすませば、遠くから水音。四層から落ちた水が水路を流れ、六層への大穴へ落ちているらしい。

 気を付けて玉座を登った。先導するジルヴァの手を取り、下にいるロートの手を引く。シュヴァルツが炎を飛ばし索敵しながら足場を作る。座面までは階段で早い。そこからゆっくりゆっくり肘掛けを超え、辿り着いた。


「うお……」


 眼を見張るような光景。眼下に広がる、黒黒とした闇。その縁から音を立てて流れ落ちる水。滝のような轟音ではないが、なるほど、相当な量だな。大穴の大きさも今までとは桁違いだ。


「こんなにずっと水が落ちてたら、四層は干からびねえのか?」


 ずっと抱いていた疑問。ジルヴァは頷く。


「心配ないよ。この迷宮は創造主様が作ったんだ。そんな雑な設計はしない。五層、地下へ流れ落ちる量に合わせて四層から湧く水は増える。常に一定の量が四層では保たれるんだ」


 見渡す視界。流れ落ちる美しい水。四層から五層を駆け巡り、さらに下を目指す。


「でも、リヴァイアサンが塞いだときは下に出ていかないから、貯まる一方だったんだよ。キミ達が倒さなければ、そのうち四層は水に沈んでたかもしれない」


 彼女は振り返り、笑った。


「まあもう心配ないけどね! じゃ、行こうよ!!」


 行こう、と指差すのは穴の奥。……いや、いつものことなのだが。いつものことなのだが。いつもより大きく広いこの大穴に、飛び込むって冷静に考えたらぞっとする。周りから滝のように落ちる水。


「毎度毎度こればっかりは慣れない……」

「し、しっかりしてくださいましシュヴァルツ様! 大丈夫ですわ、三層でも飛び降りましたし……」

「その話はストップだロゼ」


 思い出したくもないとシュヴァルツが身震いした。さて、と振り返れば足の筋を伸ばすロートとジルヴァ。


「お二人?」


 ブラウが問う。二人はすっと身を起こし、互いに武器を背負って大穴から距離を取った。


「こういうのはね、勢いに身を任せるもんよ!」

「ぐずぐずしてたら、一番乗りはもらうからね!」


 駆け出し、飛び込む! 何やってんだお前ら──ッ!?


「うおおおおおお!? い、行くぞオラァ!!」

「もう馬鹿しかいないのかよ!」

「い、行きましょう! (わたくし)達も!」

「……呆れた」


 各々後を追って飛び込んだ。風がはためき上着を巻き上げる。落ちる水の飛沫を頬に浴びる。

 空中で旋回しながらロート達の姿を探す。見下ろした先、ふたりの影。あの野郎!! 俺が一番乗りしたいのに!


「ええいクソ!! 双牙(ふうが)抜剣(ばっけん)!!」


 腰から短剣を抜く。シュヴァルツのはぁっ!? という声が後ろから響いてきた。


「お前ら掴まれ!!」

「ロゼ! 頼む!!」

「わかりましたわ! ブラウさんもお手を伸ばしてください!」

「は?」


 少し離れた位置にいたシュヴァルツとロゼ。ロゼは翼を羽ばたかせ風を起こし、俺に接近。その最中ブラウに手を伸ばし回収した。シュヴァルツとブラウが手を伸ばし俺の上着を掴む。よし!

 うつ伏せに落ちていた体を回す。仰向けになり、抜いた刃を十字に重ね、一気に両腕を引き離す! 刃同士がぶつかり悲鳴を上げた。それはまるで、あのハルピュイアの悲鳴のように。


旋回(シルフィード)!!」


 ぶつかりあった境から吹き出した風。それは上空に向かって渦を巻く。反作用で俺達は加速した。


「そんなことに神造武装(しんぞうぶそう)を使うな──ッ!!」

「は、早いですわ!!」

「……」

「シュヴァルツ! ブラウ! 首締めんなお前ら!!」


 上着を掴むのに紛れて首元を掴んでくる。ふたりとも容赦がねぇ。仰向けで落ちていくのは怖い。もがきながらも体をうつ伏せに戻した。


「ろ、ロゼ! ちゃんと捕まってて!!」

「えっ、あ、ありがとうございます!」

「呑気かお前ら!!」


 シュヴァルツの首に腕を回すロゼ。加速する俺達はロート達へ追いついた。ジルヴァのはためく上着を掴み叫ぶ。上から差し込む明かりがどんどん遠くなる。まだ下の光は見えない。


「おっ! 追いついてきた!!」

「先に行くなよ!!」

「ごめんごめん! つい!!」


 そのまま落ちていく。なにか、やけに深い。今まで何度か大穴は通ってきたが、こんなに長いのは初めてだ。


「これ……どこまで落ちるんだよ!!」

「大丈夫でしょうか……」

「大丈夫よ! 地面に落ちる前にやれるだけやればなんとかなるわ!」

「ならない!!」


 飛び交う言葉、目線を下げる。闇が続く。落ちる水の行き先は知れず。無言の暗中、背中に伸し掛かる不安。

 一瞬、ちらりと光が見えた。水飛沫の反射? いや、違う!


「光だ! 六層だ!!」


 徐々に近づく。全員顔を見合わせた。迫る六層に胸が躍る。一体何が、何が待ち受ける!?


「見えるぞ!」


 広い空間に投げ出される。俺達を中心に落ちていた水が四散し、視界が開けた。その奥に広がる景色、俺達は息を飲み込み言葉をなくした。



「────綺麗だ」



 声を上げたのは俺だけじゃない。全員、同じことを呟いた。


 眼科に広がるのはまるで星空。暗い闇の空間に、瞬き光る何かがある。暗い石の洞窟に見えた、しかし違う。その表面を覆うように、透明な何かがある!


「洞窟……? あれは、水晶?」


 そうか、晶窟(しょうくつ)。水晶窟! なるほど。

 そして驚く。ここは、陽の光がない! 今までの迷宮は季節、気候の固定はあれど、陽の光だけは常にあった。それなのに、ここは完全に洞窟。それでも見える。上空から差す陽の光ではない光源がある。


「洞窟を覆う水晶が、光を放っているんだ……!」


 元々は岩石の洞窟だったところに、膜を貼ったように水晶が。地面から伸びる水晶や鉱石は様々な色や輝きを持つが、 地面や壁を覆うのは、すべて透明な水晶だ。ガラスの上を歩くようなものだろうか。


「というか……」


 段々と近づく地面。ロートが両腕を抱く。彼女は肩から手袋まで大きく晒された肌をさすった。


「さっむ────いッ!! 何この寒さ、はぁ!? 季節夏よ!? 外は!!」

「んな格好してるからだろ……」

「ふざけんじゃないわよ暗いし! 寒いし!」


 今までの階層も様々だった。


 外の気候が直に影響する樹海、一層。

 灼熱と乾きの砂漠、二層。

 湿度が高く張り付くような熱気を持った三層。

 二層三層とはまた異なる、常夏の気候を有した四層。

 温度、気候共に変わったところはなく、その代わり箱庭のような窮屈さを感じた五層。


 なるほど、ここに来て──仮初めとはいえ陽の光を奪い、これまで人間の命を奪ってきた「寒さ」と向き合わせる。流石は六層、一筋縄じゃいかねえか!


「ひとまず落ちるぞ!!」

「大丈夫ロート、ボクの上着いる?」

「ありがたいけどそうしたらジルヴァが寒くない?」

「ボクは寒さに強いよ! なんたって竜の因子を引いてるもん!」


 ジルヴァが上着を脱ぎ捨てる。入れ墨の刻まれた肩や腕が晒された。見るだけで寒そうだな。

 どんどん近づく地面。さぁ、ここでいつもの上昇気流にぶつかるぞ!!


「ぶえっ」

「うわっ」

「きゃっ」


 ふわりと持ち上げられ、落下の勢いを殺される。そのまま地面へ落下。俺の上に落ちるシュヴァルツとロゼ。……なんか、いつもこんなことをしているような。今までと違うのは、シュヴァルツの上にロゼが乗るのではなく、シュヴァルツがロゼを抱き上げていること。こいつら!!


「降りろ降りろオラァ!」

「言われすとも降りる。ほら、ロゼ」

「あ、ありがとうございます……」


 一足先に降り立ち、あたりを見回すブラウ、ロート、ジルヴァ。俺達はまるで祭壇のように誂えられた場所へ落ちたらしい。周りを囲む谷、そこへどうどうと水が流れ落ちていた。この地面は水晶に覆われていない。剥き出しの岩盤、動きやすいな。

 円形……というよりはしずく型、か。尖った先端が入口と言わんばかりに伸びている。その向こうにはきらめく水晶窟。


「……お二方」

「わかってる、騎士サマ」

「任せて!」


 ブラウは槍を構え、刃の付け根に手をかけた。ロートは上着の袖をまくりあげ、銃砲を担いだ。ジルヴァはカタナに手をかけ、にやりと笑う。俺達を囲むように三人が立つ。

 慌てて俺も立ち上がり刃を抜いた。シュヴァルツも杖を構え、炎の精を実体化させる。ロゼもまた、彼の横へ並び立った。指輪を嵌めた手を構える。


「さぁ! 六層の敵はどんなもんだ?」


 あたりに立つ水晶の柱、その影から引っ掻くような音がした。現れる影、俺は笑う。


「俺達は、(つばめ)旅団(りょだん)だ!!」


 

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