第九話 寝る子は育つ、だから夜はお静かに
ちょっとした騒動は起きたがなんとか落ち着いたよ。
内装が破壊されなくてよかったけど木のコップも無傷とかちょっと頑丈すぎない?
しかし、寝ぼけて母親と間違えたり甘えてきたのがすごく恥ずかしかったのか二人して顔を赤らめて俯いている。ついでに猫耳と尻尾が垂れていて、俺としてはいいものが見れて大満足です。
そんな二人の前に並べたのは山盛りカルビに食べやすい大きさにカットした野菜類、ピーマン・タマネギ・カボチャ・トウモロコシなどなど。
普通なら犬猫にタマネギなどは厳禁ものだが、獣人の彼らは普通に食べても問題ないらしい。不思議だよな、流石異世界。
バーベキューで使うような機材はあるが流石に室内では使えないため、ホットプレートに似た魔道具を使用。雷の魔石をはめ込んで温度のスイッチをオン。あ、室内が煙臭くならないよう空気清浄機似の魔道具をいくつかセットしてあるのでご心配なく。
温まってきたら肉と野菜を並べて焼いていく。
肉と野菜の焼けるいい匂いが漂ってくると俯いていた二人が顔を上げて、期待を込めた目でプレートを見つめる。焼き肉のたれもちゃんと用意してあるので、焼けた肉をそれぞれの皿に乗せてあげればごくりと喉を鳴らしてフォークを手に一気に頬張る!
もう背景に花が大量に飛んでるよ、幸せそうな顔プライスレス。その笑顔だけで俺も幸せになれる。流石に箸は使えないみたいだったのでフォークにしたがちょっと食べにくそうだな。近々、箸の練習もさせてみるか。
そんなこんなで肉も野菜も綺麗に完食。デザートのプリンも食べて二人も満足そうに椅子にもたれてる。食べてる間にちょこちょこ片付けていっていたから残りもささっと終わらせていき、服には流石に匂いがついてるだろうから後で洗濯して消臭剤を使っておこう。
次は風呂なんだが、近くでよく見ると二人とも顔の毛がごわついているんだよな。短毛に近いといっても絡まると痛いだろうから風呂に入る前にブラッシングしておこうと思う。
余韻に浸っている二人を呼んで上半身の服を脱がせ、従魔専用の高級ブラシとスリッカーブラシを取り出しまずは軽く固まってたり絡まっている部分をうまく使い分けて解していく。それが終わったら今度は全体を整えていきながら抜け毛を取り除いていってと。
流石、従魔専用ブラシとスリッカー、余計な抜け毛がごっそり取れるな。
二人分を合わせるとかなりの量になった上に砂埃も床に結構落ちているので小さな箒で隅に集めておき、これらは後でまとめて処分しておく。目の前で自分の抜け毛が処分されるのは気分的にあまりよろしくないだろうからな。
さて、風呂に入る準備が出来たので脱衣所にて脱いだ服は、壁にはめ込まれているコインランドリー似の魔道具があり洗濯機と乾燥機がセットになっているので中に入れればオッケー。
なのでポイポイッと放り込んで、スイッチオーン。超楽。
この世界には洗濯機はないのか二人とも不思議そうに見てた。便利な魔道具があるだろうに、普段はどうしてるのかと聞いたら普通に手洗いしているらしい。なんでだよ、と思ったが便利な魔道具ではあるのだが都市では主に戦闘系の開発を重視しているらしく、日常品開発は変わり者扱いなんだとか。いま世間にあるのはそういった物の副産物ってことか。
納得できるようなできないような…碌に使わない物より、身の回りで使う日常品の方が爆発的に売れそうだけどな。
おっと、そんなことより今は風呂だ風呂。中にはいてみると和風仕立てで大きめの檜風呂からはいい香りがして落ち着くわぁ。浴室もそれなりの広さなので俺が入っても余裕があるのはありがたい。二人も初めて見る檜風呂にはしゃいでおり、そのまま飛び込もうとしたので慌てて待ったをかける。
まずはマナーとして体の汚れを軽く落とすために掛け湯を行い、洗い場に移動。次にこちらも従魔専用シャンプーとボディーソープで全身を洗っていく。シャンプーも初めてらしいので使い方を説明しながら洗い方もレクチャー、世間では石鹸が一般的らしいのであんなにごわついてたのか。もしくは石鹸自体があまりよくないのかもな。
それにしても二人ともなんか汚れ酷くない?なかなか泡立たないんだけど。パッと見、綺麗だと思ってても結構汚れていたみたいだな。特にシュガルは黒毛だからわかりにくかったのもあるか。頑張って綺麗に洗い流したら湯船にゆったりと浸からせる。
外国みたいに湯船につかる習慣はないかと心配したが、そこは大丈夫だった。流石乙女ゲーム。
入浴後は水分補給にとイチゴ牛乳を渡して、飲んでる間にドライヤーで乾かしながらブラッシングも忘れずに。
服は洗濯してしまったので代わりの物がないかと収納庫を漁っていたら、丁度よさそうな着ぐるみパジャマを発見。獣人に着ぐるみなんてどうかと思うが、他にいいのがないので今回はこれで我慢してもらおう。都市に行ったら街も見て回りたいな。
今日みたいに何が必要になるかわからないから色々と買っておきたい。
最後にしっかり歯磨きをしてから就寝。こうしてると本当に子育てしているようだな、前世も今も独身だけど。
一息ついたら俺も軽食食って、風呂にはいって寝るかぁ。
********************
簡単なサンドイッチを食べて、これから風呂に入ろうかって時にふと窓から外を見てみるとなにやら一か所に人だかりができていた。
あのエルフ教師(確か、エレガント…だっけか?)もなにやら慌てている様子で他の教師たちに指示をしたりしている。ただ、指示というよりは困惑してるような…?
集まってる生徒たちも顔色が悪いし…またなんか問題でも発生したか?
《ツリーハウス》でシュガルとレイフォンには外の騒ぎは聞こえていない。そのせいで明日なんか言われるのも嫌だし、仕方ないから見に行ってみるか。
おっと、焼き肉の匂いはちゃんと消しておかないと。
外に出て人だかりの方に向かうとなにやら血の匂いがする。
マジか、やめてくれよ飯食ったばっかなのに。近づいてみると人だかりの中心に数人の生徒が重傷で寝転がされており、教師たちがそれに対して応急処置らしきものを施していた。
うわぁ…これは酷い。何があったのか目の前にいる生徒達に話を聞いてみたら、この重症者たちは《四肢熊》と運悪く遭遇し命からがら逃げてきたんだとか。襲撃されたのはいくつかのチームだったようだがここにいるのは皆バラバラ。つまりは逃げ遅れて捕食されたか、もしくは殿を務めたものがいるか、いたとしてもその殿を務めた生徒が生きているかどうか…。
重傷者も深手を負って出血が酷く一刻を争う状態なのになんで応急処置止まりなのか。早く回復薬か回復魔法をかけてやればいいだろうに、と思ったのだがなんと回復魔法は光属性の者しか使えないらしい。しかも光属性を持つ者はとても稀少な存在で、あの平凡女が光属性持ちなんだとか。え、何それ、そんな設定なんてあったか?
一応、一応な?平凡女はどうしたのかと聞いてみたら、この光景に恐れおののいて逃げ出したそうだ。ついでに報告しておくと、王子様とその側近連中は平凡女が泣いて怖がっているからとテントの中で付き添っているらしい。馬鹿なの?いや、大馬鹿だったな。
「どうして回復薬がないのですか?!緊急時に備えて馬車に積み込んでいたはずです!」
「そ、それが…殿下達の所有物及びテントなどを積み込む際、入りきらないからと積み込まなかったようで…」
「なんてことをっ…回復薬はなにがあっても必ず積み込むよう指示したでしょう?!」
「もっ、申し訳ありません!!」
「ど、どうしましょう…このままでは生徒の中に死者が…」
もう役立たずにも程があるんじゃね?あいつらが将来国王になったら国が亡ぶ光景しか浮かばんわ。
教師も教師で、なにがどうしましょう、だよ。回復担当がいないのになんで回復手段を捨てるかね?緊急事態なんか起きないとでも思ってたの?
あー、もう見てられん!
「道を開けよ」
そんなに大きな声でもなかったが全員に聞こえたのか、道を譲るように動き出す。
全員から注目されて内心ビビってるけど、今は怪我人が最優先だと歩き出し重傷者の状況をしっかり確認する。遠目で見た時と同じように出血が酷いのと傷口が深い事以外に特に異常はなし、そもそも《四肢熊》は状態異常攻撃はしてこないからな。
問題なのは、回復だけなら俺でもできるが、まだ森にいるであろう生徒の人命救助を行う必要がある。さらに出血しているということは道端に垂れた血の匂いにつられて魔獣が引き寄せられるかもしれないし、そうなるととにかく人手が必要だ。
「そっ、そうだ!こいつだっ、こいつが現れたせいで生徒から負傷者が出たんだ!しかもこいつのせいで死者を出してしまった!!そうでしょうっ、皆さん?!!」
「なっ、ゲスーダ先生。貴方何を言って…!?」
「私はなにも間違ったことは言っていない!!全てこいつのせいでこうなったんだ!私はっ、私は何も悪くない!!!」
「黙れ。教え子が負傷し命が尽きようとしている中で己の保身を優先する愚物が」
血走った目でこちらに向かって指をさし訳の分からんことを口走っていたクソ教師の頬を殴って黙らせる。
軽く殴ったつもりだったが思いのほか力んでいたのか漫画みたいに回転しながらぶっ飛び、最後は木の幹に顔面から激突して倒れこむ。痙攣しているから多分気絶したんだろう、やっと静かになった。
時間がないのですぐさま【眷属召喚】から《ソプラ》と《テノール》を召喚する。
登場シーンは地面から巨大な鈴蘭水仙似の花が複数生えてきて、花からシャボン玉が作り出されると重力に従ってフワフワと落ちてくる。これまた幻想的な光景中、ひと際大きい二つの花から人が一人入れるほどの大きさのシャボン玉が作り出されるとその中に可愛らしい羊と山羊が現れ、シャボン玉が割れると同時にその姿が人型の容姿へと変わり音もなく地面に着地する。
《ソプラ》は頭に紫色の羊の角を生やし、羊らしいモコモコな灰色の長髪をした《眠羊》という種族で人型の容姿を持つメイド。
《テノール》は金色の山羊の角を生やし、こちらは灰色の毛並みに青色の短髪をオールバックにし片眼鏡を付けた《幻惑山羊》という種族の山羊の容姿を持つ亜人型の執事。
どちらも獣人のように見えるが本当は魔族に分類される悪魔だ。後方支援型の従魔なので回復魔法もお手の物。まぁ、ゲームでは主に拠点での作業として掃除や物資類の手伝いを任せっきりにしていたのだけれど、今回はこの二人が一番適任だ。
『『御呼びでしょうか。御主人様』』
「うむ、呼び出し直後ですまぬが時間が惜しい。テルーノはこの者たちの治療及び周辺の安全確保、ソプラは森にてこの服装をした者の人命救助を頼む」
『御主人様。周辺の安全確保のため、討伐の許可をいただきたく存じます』
「許可する。ソプラは人命が最優先故に出来る限り戦闘は避け遺品があればそれも回収せよ。しかし、状況次第では討伐を許可する」
『かしこまりました』
片手を胸に当てお辞儀をすると、二人の影から次々と可愛らしい容姿をした同族の眷属たちが飛び出してくる。この眷属たちは今はマスコットのような可愛らしい容姿を持つが、状況に応じて人型へと変換し(勿論、メイドと執事姿)ランダムに付与される武器を使用してくる。
もし眷属が倒されても本体であるソプラとテノールが生存していれば無限に湧き出てくるといった感じだ。ここでも課金しまくったので最高でも500匹は出せるため、本体を倒さなければ終わらない無限ループ。その本体も強いとなると相手からしたら最悪の相手だろうな。
自分で作っておいてなんだが俺だってそんな地雷とは敵対したくないわ。
それぞれの羊と山羊たちが森の中へと駆けていくのを見送ると、テノールはすぐさま重傷者の治療に入る。とはいっても、先程言った通り傷が深いだけなので全体回復魔法の【エリアヒール】にて一発オーケー。あとは出血で血が足りてないだろうからその処置。テノールが回復前にそれぞれの血を一滴指で舐めとっていたので、スキル【紅血錬成】にて血液を生産。
治療した生徒の頭上に生産された血が球体となって現れ、そこから一本の糸状に伸びたものが腕の血管に入り輸血を開始する。周辺の安全確保はなんの連絡もないから問題ないだろうしこれで一安心だな。あとはソプラの人命救助待ちか。
恐らく救助というよりは遺品の回収になる可能性が高いが、そこは未熟な生徒をこんな森に放り込んだ学園側の問題。遺族になんて伝える気だ、胸糞悪い。
あと、あのクソ教師は縄でグルグル巻きにして、ついでに煩く喚かないよう口も布で塞いでおきソプラの眷属に飲み込ませて閉じ込めてある。学園側に今回の事を報告する際、こいつらに任せて逃げられでもしたらたまったもんじゃないからな。
なんでこう問題ばかり起こすんだか。
『御主人様、負傷者の治療及び周辺の安全確保が完了いたしました』
「うむ。先程は急いでいた故に言えなかったが我が呼びかけに応えてくれたこと、それから迅速な対応感謝するぞ」
『勿体なきお言葉。このテノール、御主人様のため誠心誠意お仕えする所存でございます』
それにしても、ソプラもテノールも豪華声優をあててるんじゃないかというくらい声がめちゃくちゃ良い。容姿もそうだが特にメイド服と燕尾服もこだわり抜いただけある。一度は憧れる戦闘可能なメイドと執事、最高です。
この二人に関してはこの後も一緒にいても問題はないだろ。学園に渡さないといけないのもあるしな。
さて、従魔が頑張って仕事しているのに帰って寝るわけにもいかんしこのまま起きておくか。
徹夜に関しては慣れてるからな、ハハハハッ。
********************
おはようございます。
あの後一時間もしないうちに人命救助並びに遺品の回収が終了したので《ツリーハウス》に戻り、空き部屋はたくさんあるからソプラとテノールにも休むよう指示して入浴後に就寝。
二人のおかげで徹夜しなくて済みましたよ。そんで今朝もベットの傍にある藁布団で寝ていたら、なぜかシュガルとレイフォンが寄り添って寝ているという。君たちはくっついて寝るのが好きなのかな?
二人を起こしたらまず起こしに来てくれたソプラとテノールの紹介。その後に洗面台に向かわせ、朝食はふわとろオムレツにカリカリベーコン、それからサラダと牛乳。まぁ、朝の定番メニューだよな。朝から重いものは嫌だし。二人とも朝食も綺麗に完食。食後の歯磨きも忘れずに。
制服は洗ったらなんか新品みたいに綺麗になった。
昨日、洗濯機に突っ込んだ後でそのままでよかったっけ?と不安になったがほつれとかもなさそうだし、焼き肉の匂いもちゃんと取れてるし良かった良かった。
きちんと朝のブラッシングも忘れずに行えば…昨日とは比べ物にならないほど艶サラでシュガルなんかうっすらしていた金の斑模様が光加減でキラキラ輝き、なんか神々しさが増したように感じる!
レイフォンも白かった毛並みが光加減によって銀色に輝くのでこちらも可愛さより凛々しさが増した。尻尾も胸元の毛並みもボリュームが増してフサッフサやーん♪
あの尻尾で顔を軽く叩かれたい。絶対に気持ちいい。まぁ、絶対に無理だろうけどね?
そんなことしたら従魔が黙ってないだろうし、でも猫好きな人ならわかってくれるよな?な??
朝食後のまったりタイムを過ごしていれば、窓から生徒たちがテントの片づけを始めているのが見えたのでそろそろ時間かと準備をしてから外に出る。
俺達が外に出た瞬間、生徒たちからざわめきと黄色い歓声が上がりましたよ。そりゃ、あがるわな。シュガルもレイフォンもまるで別人みたいにめっちゃかっこよくなったもん。
俺から見るとまだまだ可愛さの方が上間ってるけど。《ツリーハウス》を解除して集合場所に行けば教師たちも二人の変わりっぷりに目を見開いて凝視してるし、ご立派なテントから出てきたキラキラ集団は別の意味でも驚愕している。
知らん間に従魔が二人も増えてるわけだし、あの変な女は顎が外れんばかりに口を開けてあほ面をさらしているので、二人の視界には入らないよう念のため袖で遮っておこうとしたらテノールがさり気なく前に出て隠してくれた。素敵です。
それにしても、あの黒い泥みたいな嫌悪感の塊。
俺なら何とかなるだろうけど二人に狙いを定められたら困るしなんか対策をしておいた方がいいかもしれないな。
従魔の方も、彼らは俺にとってとても大切な存在だ。何かあったら嫌だから気を付けるよう言っておくか。
平凡女もキラキラ集団もこれから向かう学園とやらも、俺にとってはどうでもいい存在だが、もし、俺の大切な存在を脅かすのであればその時は…。




