第六話 受け入れられるのか
愛情をかけて育ててきた従魔の二名を召喚し感傷に浸っていたが、これから魔獣との戦闘であるということに戸惑いがある。
前世の平和な日本の現代社会で生きてきた俺に、異世界とはいえ生き物を殺すことができるのか?
確かにゲームであれば、相手を倒して経験値GETだぜ♪なんて気軽にプレイしていたが、ここはゲームではなく現実。セーブしてリセットもやり直しも出来ない、そんな中で自分を殺そうとしてくる相手に立ち向かえとか…どう考えても普通じゃねぇよ。
怖い
これから命と向き合わなければならない…正直、手が震えて足がすくんで、今すぐにでも逃げ出したくなる。喧嘩とも無縁だった、ごく普通の一般人に何を求めてるんだ。
「あの人たちが連れてきてくれるって言ってたけど、これで今年は実地試験合格できるかもしれないな」
「はい、有難いことです。これも全部クローウィア様のおかげですね」
シュガルとレイフォンの会話を聞いて、二人にとってはこれが普通の事なんだと思った。
初めて見たときはゲームでの復刻イベントに出てくるキャラだから育てたいなんて気軽に考えていたけど…。命を預かる、それが今はとても怖くなった…。
でも、関わってしまった以上俺には責任がある。
けして投げ出すことだけはしてはいけない、それをしたら俺はきっと人としての大切なものを失うことになるから。
気を引き締めなおしてディオル達の連絡が来るまでの間、シュガルに《ニャモン》のコントロールの訓練を施す。
訓練といってもそこら辺に落ちてる木の枝を折らないように持ち上げさせる作業だ。
地味かと思われるが実はこれが意外と繊細な作業で、落ちているものは細いうえに折れやすい。《ニャモン》で普通に持ってしまうと簡単にへし折ってしまうので、指先だけで優しく摘ままないといけないため集中力もいるし力加減のいい訓練になる。慣れてくれば簡単にできるようになるだろう。ついでに筋トレとして一本折るたびに腕立て伏せ十回のペナルティー付き。なおご褒美はお楽しみである。
今のところ5回挑戦しているけど全滅、50回の腕立て伏せをしてるが結構負けず嫌いみたいで逆にやる気倍増、今も挑戦中。
これから戦闘があるのに大丈夫か?疲れてダウンしない?
レイフォンはマフラーのおかげでやっと体調が戻りつつあるから、ひとまず腰に下げていたレイピアで【植物作成】にて作り出した人型の樹木相手に剣技を見せてもらった。
なんというか的確な狙いはいいのだが、スピード重視でいまいち攻撃力に欠ける。
例えるなら爪楊枝で前腕部分を数か所軽~く突っついてるみたいな感じ?
今まで病弱とか言われて動きたくても動けなかったから筋肉が衰えてしまっているのだろうか?
服の上からでもわかるほど痩せすぎだしまずは栄養のある食事をさせて衰えてしまった筋肉を元に戻す必要がありそうだ。ただ、そっちは時間をかけていかないといけないので今はカバーできるものを探さねば。
とはいってもこの短時間で何が出来るか…あ、そういえば蛇腹型のレイピアがあったな。
攻撃力が低いなら攻撃回数を増やしてしまえってな。
そして今更ながらに気が付いたんだが、今までゲーム内で集めていたものがはいってる収納庫が存在するんだが、この世界ではそれが亜空間と呼ばれていて俺の場合は影がそれなっているらしい。道理で今まで道具が急に地面から出てきたように見えたわけだ。でも、従魔姿でも問題なく使えるのはありがたいよな。
そうと決まれば早速、亜空間から下級装備の蛇腹型レイピア《粉雪のレイピア》を取り出しレイフォンに与える。
マフラーを貰ったからと遠慮してたけど、攻撃やら筋力のことを伝えれば素直に受け取ってくれた。粉雪と付けるだけあって全体的に真っ白の武器だし二刀流姿も似合ってる、ちょっとロマンがあるよな。蛇腹型だからグリップのところにちょっとした仕掛けがありスイッチの切り替えで攻撃の仕方が変わることを伝え、実際に実践してみせると的である樹木が軽々と切れてしまったことにビビった。あまりの切れ味にやばくないかと、こっそりレイフォンの方を見てみれば逆に目を輝かせてたからセーフ…なのか?
新しいレイピアを受け取ると早速練習に入ったのはいいんだけど、刃物が付いた鞭を振り回すようなものだからこれも扱いには十分気を付けてほしい。
まぁ、怪我をしたら治すけど。
それにしても魔道義肢である《ニャモン》はともかく《粉雪のレイピア》は下級武器なのにあんなに攻撃力があっていいものだろうか?
それとも武器の性能は普通で、俺のステータス影響なだけ?
まだまだ分からないことだらけだな。いや、たった二日でなにがわかんだよって話だけど。
二人の訓練を眺めていたらいつの間にか肩に黒い小さい蜘蛛がとまっていて色と形からしてディオルの眷属だろう。これわからなかったら思いっきり叩きはらっていたかもしれない、危ない危ない。背の部分を軽く突くと通信が繋がった。
〖愛しきお方、《角兎》と《大猪》の誘導完了いたしました。もう間もなくそちらに到着いたします〗
「そうか、ご苦労。そのまま誘導し合流せよ」
〖かしこまりました〗
通信が終わると黒い小蜘蛛がそそくさと離れ森の中に姿を消す。
二人に魔獣が来ることを伝え訓練は一時中断、迎撃体制にはいる。
さて、シュガルとレイフォンにとっては新しい武器での戦闘。
俺はこの世界に来ての初戦闘、どこまでできるか心配だが覚悟を決めてやれるだけのことはやってみよう。
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通信があって数分もしないうちにディオル達が合流し、目の前には魔獣である《角兎》が四羽に《大猪》が二頭。
周囲には逃亡阻止用に蜘蛛の巣が張り巡らされている。これは勿論ディラルのスキルで作成されたもので一度触れると糸に含まれる強力な粘着作用で動けなくなるものだ。
あと《大猪》のほうはだいぶ興奮していたから、ちょっと邪魔されると困るのでディオルのスキル【嘆きの吐息】でマヒ状態にしてある。
これは相手に様々な状態異常を付与するスキルで今回は麻痺を選択。だってその名前の通りすごい大きくて下手すると軽自動車くらいあるから…散々追い掛け回した後にシビレ効果とか、厄日にしてごめんよ。
今度は《角兎》を改めて観察してみるけども、やっぱりロップイヤーの額に角を一本生やしましたって感じでなんというかつぶらな瞳が可愛い。
ただ侮るべからず、今すごく威嚇してきてるんだけど兎だけあって脚力が強力なのだ。当たりが悪ければ骨折もあるし最悪首が180°回転する。しかも角での高速突進もしてくるから気を付けること。
初の戦闘、怖いけど覚悟を決めて迎え撃つ。
はずだったんだが…、ただいま正面に立つディオルとディラルによって厳重に守られております。
『ご安心ください。私達の愛しきお方には指一本触れさせはしませんわ』
『ご安心ください。私達の愛しきお方に傷一つ負わせることはありませんわ』
正直、女性に守ってもらうというのは男としてどうかと思うんだが、ふと冷静に考えると従魔である彼女達からしたら守護対象が戦っているのに自分たちは後衛で見てるだけってなると自分の存在を否定されてるって感じになるんじゃないかと。なにより必ずしも俺が前線で戦う必要はないんじゃないか?と思った。
仕事で運動もろくにせず、ましてや戦闘なんぞの暴力沙汰とは一切無縁だったど素人の俺なんかが異世界に来ていきなり俺強エエエエエエエエ!!展開とか最強能力で異世界無双なんて無理だろ。無様な姿をさらすよりは、そっちに関してエキスパートかつ経験豊富な従魔たちに任せた方が何倍もいいに決まってる。
むしろ邪魔にしかならない俺は後衛で大人しくしつつ、従魔たちのサポートに回るべきだろう。
正直なところ彼女たちに守られて、心のどこかで安心した部分も確かにあったし。
どうしても自分で対処しなくてはならない事態になったら、その時にまた覚悟を決めてやればいい。
シュガルとレイフォンは流石というかまだ危なっかしい部分もあるけどきちんと対応している。
《ニャモン》のコントロールはまだまだ大雑把な感じだけど《角兎》相手ならあっさり倒せるようだし、ちょっと力加減を間違えて恐ろしい光景を生み出してはいるが…。
直視できないのでそっと目を逸らしておく。
レイフォンは《粉雪のレイピア》を蛇腹状にして首に巻き付けたり、レイピア状にして脚の腱を的確に切ったりして動けなくさせたりとうまく使い分けている。
首に巻いて動かすだけでこうスパッと…試し切りの時も思ったけどあんなに切れ味良かったっけか?
丁度二羽ずつ倒し終わったので綺麗な亡骸は回収し急いで血抜きを行う。試験とはいえ命をいただくわけだからきっちりといただきますとも、なので今晩の晩飯予定。
残念ながら悲惨な状態になったものは使えそうな部分と提出分だけを回収し、残りはきちんと埋めて供養する。
次に《大猪》なのだが、こっちはちょっと大きさ的にレイフォンには無理そうなのでシュガルに一頭相手をさせてみたんだが…本当にごめんなさいとしか言えなかった。
マヒ状態から解放されて怒りゲージマックスで突進してきたのはいいんだが、まさかグーパンチ一撃で頭蓋骨が粉砕するとは思ってなかったんだよ。
まさにトマトのように簡単にプチッと…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
もう一頭の方はディラルに頼んで安らかに眠るように倒しました。
しっかり血抜きをして解体した《角兎》と《大猪》丸まる二頭を影へ収納する時に一頭の目から涙がこぼれていたように見えたのは気のせいではない気がする。
俺、もしかしてとんでもないもの渡しちゃった?




