【第82話:仲良し】
「ちょっとちょっと! 俺にも紹介してくれるんじゃなかったのかい?」
てっきり付き人か商会の人かと思っていたのですが、このような態度からするとそうでもなさそうです。
あれ? というか、この人どこか見た目が……。
「シグナ兄さん、先ほどはどんな子かわかれば良いから黙ってろって……」
やっぱりお兄様!? アレン様とどこか似てるとは思ったけど、雰囲気が全然違う!
見た感じでは二〇歳前後で、アレン様より少し背も高いですが、整った顔立ちはとても似ています。
でも……糸目じゃないです!
アレン様は副ギルド長の一件の時に、衛兵と同じ鎧を身に纏い、私の牧場へと向かっていた時に開眼していましたが、シグナと呼ばれたお兄さんの方は常時開眼しているようです。
まぁ開眼ってなんだって話ですが……。
アレン様も普段からちゃんと目開いてますからね!
それよりもアレン様のお兄様ならちゃんと挨拶しておかなきゃ。
「気付かずに申し訳ありません。アレン様とは商会を通じてお世話になっております。キュッテと申します」
「うんうん。アレンから話は聞いているよ。なんでも、物凄い才能の持ち主の美少女なんだとか」
美少女? まぁアレン様ったら~♪
それにしても領主様のご子息なのにえらく軽いわね。
アレン様と比べると肉体派で頭はあまり切れない感じかしら?
あまりこの世界のスキルに詳しくないけど、戦闘系のギフトを授かったのかと思えるほど、引き締まったがっちりした身体をしています。
「し、シグナ兄さん、それよりも急に自己紹介しろとか、いったいどうしたんですか?」
「いやぁ~。最初はアレンのお気に入りを、ちょ~っと見てみたいってだけだったんだけどさぁ。偶然良い作戦を思いついただけではなさそうじゃない? あまりにも年齢や見た目、境遇と、その優秀さが合わないから興味が沸いちゃってね。年齢偽ってない? な~んてね」
前言撤回……もしかして物凄く頭切れる人じゃないの!?
「まぁでも、それは今度でいっか~。今、急いでるんだよね? ごめんね引き止めちゃって~」
今度じゃなくて忘却の彼方にポイして貰えませんかね!?
「えっと……では、すみませんが急いでいるので失礼いたします!」
うん。こういう時は退散するのに限るわ!
「あ、キュッテ! 工房までは送らせますから、ちょっと待ってください」
さっさと逃げようかと思っていると、アレン様の指示で女の衛兵さんが馬をひいて来てくれました。
ただ馬が……。
「ちょ、ちょっと落ち着いて! いったいどうしたの!?」
うん。今私、コーギーモードを抱っこしてますからね。
やっぱりそうなるわよね……。
女の衛兵さんが何とか馬を宥めようとしていますが、これはどうも収まりそうもありませんね。
「あっ!? もしかしてその小さな犬の魔物が!? 凄いね! まったく気づかなかったよ!」
シグナ様が叫びながら近づいてきて、フィナンシェに顔を近づけてきたのですが……。
「あ……」
シグナ様の顔にお手をしてしまいました。
「こ、こら!? フィナンシェ!?」
慌てて手をどかせましたが、ほんのりシグナ様のおでこに肉球マークが!?
「すす、すみません!! すみません!!」
「「がぅ? がぅ?」」
フィナンシェと一緒に何度も頭をさげますが、シグナ様は一瞬驚いただけで笑い飛ばしてくれました。
「ははは! こんなカワイイ犬の魔物なら全然問題ないよ。本来の姿では勘弁だけどね」
この世界の貴族様は、本当に良い人ばかりなのかしら?
前世の物語では貴族と言えば悪い人が多いイメージでしたが、今のところ良い人が多くてちょっとホッとしました。
「キュッテ、今のはシグナ兄さんが悪いから気にしなくていいよ」
「わが弟は兄の扱いがちょっと雑じゃないかね?」
「シグナ兄さんは、行動が破天荒過ぎます。そもそも、領主の次男なのにどうして騎士団に入っているのですか……」
シグナ様は次男なんですね。
次期領主様だとしたら、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけノリが軽いなぁとは思ってたので、良かったです。何が良かったのかは言いませんけど!
それより時間が勿体ないので、話を進めましょう。
「許して頂いてありがとうございます。それと、工房まではあまり離れていませんし、歩いていきますので……」
馬が怯えてしまってはどうしようもないですからね。
ここからなら恐らく歩いても三〇分ちょっとで着くはずです。
「いいえ。それならまた馬車を使ってください。馬車に乗っている時は大丈夫でしたし」
あっ、そう言えば馬車にはフィナンシェを連れて何度か乗っていますが、馬が暴れるような事はありませんでした。
「でも、そうなるとアレン様の移動が……」
「ははは。それなら俺が馬で送っていくから心配しなくてもいいよ。こう見えても馬の扱いは騎士団の中でも一番だと自負しているからね。責任を持って送り届けるさ」
「いいえ。私も馬ぐらい乗れるので結構です」
「えぇ~! 昔はよく馬に乗せてって言って泣いて……」
「うわぁぁ! と、とにかくキュッテはゴメスに送って貰ってください!」
「は、はい。それでは失礼します!」
結局、ゴメスさんがまた馬車を出してくれることになり、この後、レミオロッコ工房まで送って貰ったのでした。
*****************************
ちょっとGWに入って予定が多く、書籍関連の作業もあるため、
次回の更新がちょっと間に合うか微妙です…
でも、これからも楽しいお話になるように頑張りますので、
どうかブックマークはそのままでお待ちくださいませ<(_ _")>
*****************************