【第80話:冒険者ギルド】
ゴメスさんが冒険者ギルドにもう着くと言うので窓から覗いてみたのですが、そこに見えたのは、こじんまりしたちょっと趣のある、言い方を変えれば、ちょっとぼろい建物でした。
「な、なんか思ってたのと違うわね……」
「ん? 冒険者ギルドがどうかされたのですか?」
「い、いえ。何でもないですわ。おほほほ」
イメージしていた冒険者ギルドの数段ぼろいだけなので、大したことはないですわ。おほほほ。
その後、馬車から降りてイーゴスさんと一緒に冒険者ギルドに入っていくと、そこには更にイメージとだいぶん違う光景が広がってました。
やっぱり狭いわね……。
それに、なんか思ったより静かです。
冒険者ギルドと言えば、酒場が併設されていて、そこで飲んだくれた素行の悪い冒険者がいて、入ってきた主人公やヒロインにちょっかいを出して絡んでくるのが定番だと思っていたのに……。
え? 偏見? 偏見じゃなくて、イメージですよ。イメージ。
それに、そもそも酒場が併設されていない。
おまけに受付の前には病院の待合室みたいにベンチが綺麗に並んでいて、皆大人しく座って待っています。
「次、一二番の札をお持ちの方~」
間違って本当に病院に来たわけじゃないわよね……。
「はーい!」
丁寧に返事をして受付に向かっている人の姿は、確かにいかにも冒険者って感じよ。禿げ頭の強面の大男で、腰には大きな剣をさしているし。
でも、そこはこう「おぅ! 俺か!」とか言って、横柄な態度で向かって欲しかったわ。
「キュッテさん? 大丈夫ですかな?」
「だ、大丈夫です!」
ちょっとイメージと現実の乖離に思考が変な方向に向かっていただけです。
イーゴスさんは冒険者ギルドに慣れているのか、すたすたと奥へ奥へと歩いていき、受付の人に軽く会釈をすると、そのまま「関係者以外立入禁止」と書かれた扉も開けて、そのまま部屋へと入っていってしまいました。
「ははは。商会で会長をしておりましたので、行商の護衛依頼で冒険者ギルドにはよく来ていたのですよ」
なるほど。イーゴスさんのところのような大きな商会なら、それこそ頻繁に護衛依頼を出していたでしょうし、お得意様といった感じなのかもしれませんね。
それ以前に、訪問する事はもちろん伝えてあるのでしょうけど。
「待っていましたよ。イーゴスさん」
イーゴスさんに続き、部屋の中へと入ってみると、そこに待っていたのは厳ついギルドマスター……ではなく、とても綺麗なお姉さんでした。
「すまないね。アンナ」
「いいえ。それで、作戦を立てたから協力して欲しいという事ですけど、どういうことですか?」
二人の会話を聞いていると、なんだか随分と仲が良さそうです。
元イケオジと綺麗なお姉さん、これは……と思ったところで、その理由がわかりました。
「ふふふ。そんな余所行きの話し方をしなくても結構ですよ。キュッテさんも、その方が話しやすいでしょうし」
「もう……こういうのは形も大事なんだよ。伯父さん」
伯父さん? と不思議そうにしているのが顔に出てしまったのでしょう。
軽く自己紹介をしてくれました。
「私の名はアンナ。この街クーヘンの冒険者ギルドのギルドマスターをやっているのだけれど、イーゴス伯父さんは、私の母の兄で小さい頃から知っているからやりにくいのよね~」
「それはもうアンナが小さな頃から知っていますからねぇ。なんでしたら、小さい頃のお話をお聞かせしましょうか?」
「ちょ、ちょっと伯父さん!? 私もいい加減にしないと怒るからね!」
なかなか仲が良さそうでなによりです。
これなら話もスムーズに進められそうだわ。
◆
イーゴスさんのお陰で作戦は問題なく受け入れて貰え、そろそろ話を終えようとしたところで扉がノックされました。
「入りなさい。来客中に来るなんて急ぎかしら?」
入ってきたギルド職員と思われる男の人に、アンナさんがそう尋ねたのですが、イーゴスさんと私を見て言い淀んでいるようです。
何か聞かれては不味い話なのかと、話も終わったし退出しようかと思ったのだけれど、アンナさんが「この二人は構わないから話しなさい」と言ったので、そのまま報告を一緒に聞く事になりました。
「は、はい。実は……例の魔物の群れなのですが、ゆっくりとですが街に接近してきているらしく、街の者たちが気付き始めています」
混乱が起きないようにと、まだ正式な情報は発表されていないと聞いていましたが、先に噂が広がり始めそうですね。
「ん~困ったわね。領主様はいつ発表するつもりなのかしら」
「アレン様がこの作戦を既に伝えておりますから、準備が整い次第だと思いますよ」
魔物の脅威だけを発表するのではなく、同時に対策を発表して、混乱を少しでも抑えるつもりなのではないかと言うのがイーゴスさんの見立てでした。
確かに危険ですと発表した所で、打つ手がまだない状態だと混乱するかもしれませんが、前世だと知ってて黙っていたのかと非難されそうですね。
ただ、門を出ようとする者たちや、街の外に住む者たちには先に知らせているようなので、知らずに魔物の群れのいる方に向かってしまう事はなさそうです。
「どうやら時間はあまり残されていないようだね。キュッテちゃん、冒険者の編成と配置はこちらでやっておくから、その戦車というのを頼むわよ。あと、フィナンシェにも期待しているから」
「「がぅ♪」」
大人しく足元に控えていたフィナンシェも期待されて嬉しいみたい。
私たちも頑張らないといけないわね。
「はい。任せて下さい。戦車はうちの工房で今急いで作成していますから、完成したものから順次こちらに運ばせます」
こうして冒険者ギルドでの話も終え、次は慌ただしく衛兵の詰め所へと向かう事になったのでした。
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木曜の更新が出来なくて申し訳ありません。<(_ _")>
色々と忙しい上に少し体調を崩してしまい、更新出来ませんでした。
ちょっとまだ本調子ではないので更新1回お休み頂くかもしれませんが、
お話はこれから第二章の終盤に差し掛かって、どんどん面白くなって
いきますので、どうぞ楽しみにお待ちくださいませ!
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