【第65話:勝った?】
「皆さま、今日は……きょ、今日は『もふもふキュッテ牧場~カワイイふわもこ羊とふれあえる癒しの広場~』イベントへようこそ!」
私が壇上から精一杯の大きな声でそう告げると、その瞬間、辺りは歓声に包まれました。
みんなチラシを手に持っているようなので、既に内容はある程度把握しているのでしょう。
みんな待ちきれないといった様子が、ここらかでも伺えます。
「わぁ♪ もふもふキュッテちゃんカワイイ~♪」
「あの子がもふもふキュッテなの?」
違~う!! 私はただのキュッテよ! もふもふキュッテじゃないんだから!?
「そうね。きっとあの子がもふもふキュッテちゃんよ」
あの姉妹の中で、私はもふもふキュッテという事で固まってしまったようです……。
「ぐぬゅっ……」
い、今はまだ挨拶の途中、心を、心を無にするのよ……。
「す、既にご存知の方も多いかと思いますが、この催し物は、羊とふれあうのが目的のイベントです。うちの牧場の羊はもふもふもこもこで手触りが最高なので、ぜひ、やさしく撫でてあげてみてください」
それにしても沢山の人。
挨拶を続けながら、少しゆっくりと見回してみる。
事前告知もなしでこれだけの人が集まってくれたことを考えると、まずは大成功と言って良いかしら。
みんな楽しみが抑えきれない様子で、子供も大人も女性も男性も……だ、男性も結構多いわね。
まぁとにかく、老若男女問わず、色々な人が集まってくれているようです。
「それから皆さまに大事なお願いがあります。私のスキル『牧羊』の能力で、羊たちが皆さまに危害を加えることはありませんが、羊たちは私の大切な仲間です。どうか羊たちには思いやりをもって接してあげてください」
一つ、羊たちが人に危害を加えないようにする能力。
これはそのままの能力ですが、今はこれを有効にしているので、羊たちは身の危険を感じても、人に反撃することはできません。
ただ、意思疎通の能力の方で、身の危険を感じたら逃げるのはかまわないと伝えてあるので、一方的に怪我をさせられるような事はないでしょう。
それから、人が思った以上に集まったので、時間による入れ替え制にさせて頂くこと。
一人でのグッズの買い占め、転売目的のグッズ購入は禁止させて頂いていることなどを説明していった。
「それでは大変長らくお待たせ致しました。並ばれている皆さまは、整理券を入口の係りの者にお見せして、慌てずにお入りください」
ちなみに整理券にはカワイイイデフォルメされた羊のスタンプが押されているので、記念に持ち帰って良い事になっています。
「それでは『もふもふキュッテ牧場~カワイイふわもこ羊とふれあえる癒しの広場~』開始です!」
いよいよイベントスタートです!!
まず皆が一斉に向かったのは、一〇匹の羊たちが集められている『ふれあいコーナー』です。
これが前世なら『グッズコーナー』に走る人とかも多そうですが、そのような人は一人もおらず、皆普通に『ふれあいコーナー』に集まっているようです。
「キャー! カワイイ! うわっ!? 想像以上にもふもふだわ!? リアル羊さん凄い!?」
「めぇ~♪」
「本当だ!? なにこれ!? 本物の羊さんって、こんなにふわふわもこもこなの!?」
「めぇ~♪ めぇ~♪」
羊の事をみんな羊さんと呼んでいるのは、きっとうちの羊のフェルトマスコットを既に持っている人なんでしょうねぇ……。
それにしても、みんな初めてふれる羊に驚きを隠せないようです。
うんうん。そうでしょう?
うちの牧場の羊たちは、特別なんだから♪
「す、すげぇ……興味本位で参加してみたけど、手触りの良さが尋常じゃないぞ? しかもこれで無料って……」
そう。今回、このイベントに参加するだけなら全て無料としています。
もちろんグッズは無料ではありませんが、まずは沢山の人に羊たちの良さを知って貰うのが目的なので、入場料は取らない事にしました。
チラシにしても、整理券にしても、思わず捨てるのが勿体なくなるようなカワイイものにしたので、きっと家に持ち帰ってくれる事でしょう。
ふふふ♪ これで羊さんの人気は不動のものになったずよ!
「か、かわいすぎる……」
「わ~い♪ 羊さん大好き~♪」
それぞれ思い思いに羊たちとふれあっており、その表情を見る限り、みんな参加して大満足のようです!
「もふもふが……このもふもふが……」
若干一名、語彙力が低下している者まで現れているわね……大丈夫かしら。
「ちいさな売り子さん、その色付きの羊の毛は染めているわけではないの?」
「はい! たまたまこのような色に進化したって聞いています!」
うん。みんなちゃんと「たまたま」とか「偶然」を強調して説明していますね。
「あ、そろそろ入れ替えの時間ですよ~! 今回のイベントに参加された記念に、当牧場の羊さんグッズなどはいかがですか~?」
「それにしても、羊さんって、もふもふキュッテ牧場のグッズだったのね~」
「え!? アレン商会のお店以外でも買えるんだ~♪」
本物の羊さんに夢中で、どうやらグッズを売っている事に気付いていない人がいたようね。
こんな巨大な羊なのに、リアル羊さん恐るべしです。
「はい。では、時間がきましたので、次のグループと入れ替わりになりまーす! 申し訳ありませんが、速やかに退場をお願いしまーす!」
「えぇ~!? もう時間なの~!? あっ、でも、みんな待ってるのね。このもふもふを独り占めするわけにはいかないわ!」
みんな名残惜しそうにしていますが、次のグループが待ちきれない様子なのを見て、笑顔で速やかに移動してくれました。
何か変な使命感に目覚めた人もいるようですが……。
「それでは次のグループの整理券をお持ちの方、どうぞお入りくださーい!」
「い”や”~ん”♪ 待ってだわよん♪ う”っ”ふ”ん”♪」
私は何も見ていないわ。スカートはいたおじさんなんて見ていない。
「やった~♪ やっと順番が回ってきた~♪」
「本物の羊さんだぁ!!」
こうして一日中、人が途絶えることなく大盛況のもと、『もふもふキュッテ牧場~カワイイふわもこ羊とふれあえる癒しの広場~』は、無事に終える事ができたのでした。
ちなみに……。
「なっなっ、なぜぞぃ!? グッズがほとんど売り切れなんぞぃ!?」
「うわぁ!? レア羊さんも、もう全部売り切れてるっす~!?」
はた迷惑な錬金術ギルドの研究員たちには、団体客用の整理券を渡しておき、イベント終了間際の時間を指定しておきました。
「あれれ~? 申し訳ありませんね~。団体様は最後とさせて頂いておりますので~。あっ、もう今日はお時間ですので、そのままご退場くださ~い」
「のう~!! まだなにもしておらんぞぃ!?」
「れ、レア羊さんとのふれあいもまだっす!?」
ふっふっふ♪ 少しは溜飲も下がったし、勝った気がするわ!
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イベント無事終了♪(*'▽')
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