【第57話:いつもなの】
手を掴まれ、何度もこけそうになりながらも走り続けました。
前世の私ならとっくに降参して座り込んでいたでしょう。
でも、私はこの世界に転生して、前世とは比べ物にならない身体能力を手に入れたので、これぐらいで音を上げたりしません!
と思って最初は余裕だったのですが……レミオロッコの体力を舐めてました。
この子、力が強いだけじゃなく、ドワーフだけあって体力も尋常じゃないです!
おそらく変な爺さん集団が錬金術ギルドの人たちだと思いますが、目が血走ってて怖かったとはいえ、相手はお爺さんです。
これだけ走れば十分じゃないのかしら!? もう私は体力の限界です!
「はぁ、はぁ、はぁ、ちょ、ちょっとレミオロッコ!? も、もう大丈夫じゃないかしら?」
「あの爺さんたち舐めたらダメよ! 逃げたらいつも薬でドーピングして……」
え? 薬でどーぴんぐ!?
「って、き、来た~!? キュッテ! もっと必死に走って!!」
うわっ!? 本当に来たわ!? ぞぃと、っすが凄い速度で追ってきてる!!
「捕まえるのぞぃ! そして、秘密を解き明かすぞぃ!!」
「任せるっす! 儂っちの今日の薬は、身体能力三倍の特別製っす~!!」
し、身体能力三倍ってなによ!? この世界の錬金術怖すぎるんですけどっ!?
しかもお爺さんたちが、みんな陸上選手のような大きなストライド走法で追っかけてくるんですけど!? こわいって!?
「はぁ、はぁ、はぁ、も、もぅ~!? いったいなんなのよ~!?」
このままじゃ、捕まっちゃう!?
そう思って焦った時でした。
「あっ……切れたっす……げほっ!?」
「う……儂もぞぃ……くほっ!?」
え? こ、効果時間が短いみたいね……。
薬の効果が切れた瞬間、咳き込みだしました。
「た、助かったわ……」
もう私も走るの限界だったので、もう少し捕まるところでした。
「ぐほっ!? ごべほっ!? ぐべぼほっ!? ぬぼぉっほ!?」
「くほえっ!? へこぽっ!? くるっぽふへほっ!? ぬぼぉっほ!?」
ちょ、ちょっと!?
じ、尋常じゃない変態じみた咳き込み方してるんだけど!?
それに、なんで最後だけ同じ咳き込み方してるの!?
……あ、倒れたわ……だ、大丈夫なのかしら?
すっごい関わり合いになりたくないけど、このまま放置するのも可哀そうな……。
「れ、レミオロッコ……あれ、放っておいたら死んじゃわない?」
「たぶん大丈夫じゃないかな? いつもあんなだから……」
いつもなの!? 異世界のお爺さん怖すぎるんですけどっ!?
◆
なんとか無事にアレン商会まで辿り着いた私たちは、冷えた果実水を出して貰い、ようやく一息つく事ができました。
今日はイーゴスさんは所用で居られないようで、アレン様が迎えてくれました。
「あ、ありがとうございます。ようやく落ち着きました……」
アレン商会にお邪魔すると、たまに果実水を出してくれるのですが、さっぱりしているのに、しっかりと柑橘系の甘みがあり、とても美味しいです。
後で何の果実なのかと、どこで売っているのかを聞いてみようかしら?
「災難でしたね。僕も錬金術ギルドの研究員たちにはほとほと参っているんですよ」
「災難と言いますか、本当に驚きました」
「キュッテはまだいいじゃない! 私なんて、毎日追っかけられて大変なんだから!」
わぁ……あれが毎日とか私だったら、耐えられないわ……。
当分街に来るのを控えようかしら?
「キュッテ!! 今、暫く街に来ないでおこうとか考えてたでしょ!?」
「オホホホ。ソンナコト、ミジンモ、オモッテマセンコトヨ」
最近、レミオロッコに心を読まれるようになってきて、ちょっと悔しいわね……。
「ははは。相変わらず二人は仲が良いですね~」
「どこがですか……」
レミオロッコは呆れてるけど、ここはアレン様に乗っかっておきましょう。
「いや~そうなんですよね~。レミオロッコとは仲良しなんですよ~。という事で、レミオロッコ。工房は全部任せるから頑張ってね?」
「私に丸投げするな~!」
そんな中身の薄い会話をしていると、見知った別の声が掛けられました。
「キュッテさん。ご無事で何よりです。でもあの連中に捕まったら、あまり笑いごとで済まないですよ?」
「ゴメスさん。こちらにいらしてたんですね」
と、つい言ってしまったものの、ゴメスさんはアレン商会から派遣されてるような形なのだから、本来はこっちにいるのが普通でしたね。
それより聞いておかないと。
「でも、そもそもあれは何なのですか?」
「何と聞かれても、変な爺さんたちとしか言えないんですが……いやぁ、しかし参りましたね。噂では聞いていたのですが、錬金術ギルドの研究員がここまで厄介だとは思いませんでした」
そうだわ。いったい何がどうなって、錬金術ギルドの研究員たちが、私たちを追いかけまわしているのか、ちゃんとその理由を聞かないと。
「それで、いったいあのお爺さんたちは、私たちを捕まえて何をしようと思っているのですか? それに、そもそもどうして衛兵に通報をしないのです?」
私たちを捕まえると言って追いかけまわしているのだから、いくら研究員とかいう立場の人たちでも、通報すればいいのではないかと思ったのですが……。
「キュッテ。彼らの厄介なのは、別にこちらに危害を加えたりして来ない上に、領からだけではなく、国からも支援をうけているような優秀な研究員たちだという事なのです」
「え? 危害を加えてこないって、私たちを捕まえようと、実際に追いかけまわして……」
偉い爺さんたちだと言うのはちょっと驚きましたけど、ようは危害を加えてこないから捕まえられないということかしら?
「キュッテ。この国では、彼らの行動は罪に問えないんです。そもそも彼らがキュッテを捕まえると言っていたのは、攫ったりするのではなく、例えば長い時間質問攻めにしたり、羊毛を観察したり、作業を盗み見ようとしたりするためなので……」
そしてアレン様は「本当に厄介な人たちなんです」とため息を吐いたのでした。










