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【第50話:ハグ】

「こ、これはまた……キュッテは何度僕を驚かせてくれたら気が済むのですか……この羊毛も素晴らしいものですね」


「全くです。キュッテさん、ピンクに続きこのイエローも染料の存在しない色です。今まで魔物由来の素材には染料を用いてしか色付け出来ませんでしたので、この色の羊毛というのもまた、かなりの希少価値がありますよ」


 アレン商会にてイエローの羊毛を見せたところ、アレン様とイーゴスさんに少し呆れられながらも、素晴らしいものだと褒めて頂きました。


「ですがキュッテ。イエローの羊毛(こちら)も、まだもう暫くは公にしない方が良いでしょう」


 ピンクの羊のフェルトマスコットは、街の人にもある程度バレてしまっているのですが、直接牧場に乗り込んできた副ギルド長を除けば、実物の方のピンクの羊の存在は、まだほとんど知っている者はいません。


 なぜなら普通の人は、この色の毛糸などを見ても、ピンク色の染料が新しく編み出されたと考えるからです。


「はい。それはそのつもりです。工房を立ち上げて、ひと段落ついてからでないと対応しきれないでしょうし」


 もうこれ以上レミオロッコと二人だけでは仕事を増やす事は出来ませんから、工房が立ち上がって、フェルトマスコットだけでも、まずはそちらに全て丸投げ(任せられる)ようになってからで良いでしょう。


「そうですね。僕もそれが良いと思います」


「それでは、さっそく工房の方のお話をしていきましょうか。キュッテさん、まずはこちらをどうぞ」


 イーゴスさんがそう言って差し出してきたのは、この街「クーヘン」の市街地の地図でした。

 そしてそこには、赤線で囲まれた場所がいくつか記されていました。


「ここが工房の候補地ですか?」


「はい。イーゴスとも話し合ったのだけど、アレン商会としては、ここからも近い……ここか、こちらのどちらかにして頂けると、連絡も取りやすくて嬉しいのですが、どうかな?」


 どうかな? と言われても、工房の立ち上げの全資金を援助して貰う立場としては、よほどひどい場所じゃない限り、全部イエスです。

 どうせ私もレミオロッコも、ここが良いとかいう要望もないですしね。


 と、思っていたのですが……珍しく、レミオロッコが声をあげました。


「す、すみません! え、えっと、こっちって難しいですか?」


 レミオロッコが指さした場所も候補地の一つなので、別に無茶なことを言っているわけではなさそうですが、どうしてそこが良いのかしら?


「そこでも問題はないですよ。アレン商会からも三番目に近い候補地ですし。ただ、どうしてレミオロッコはここが良いのですか?」


 私も不思議に思っていたことを、アレン様が聞いてくれました。


「えと……その……こ、この間、羊のフェルトマスコットをあげた子がいるじゃない?」


 質問したのはアレン様なのに、なぜか私に向けて説明しだすレミオロッコに思わず苦笑いがでますが、言われている子は思い出しました。


「ん? あぁ!! トルテくんだっけ?」


 前に妹が大事にしていた羊のフェルトマスコットを、副ギルド長の息子に奪われたと言って、私に売っているお店を尋ねてきた子ですね。


「そうそう。あの子、孤児院にいるって言ってたでしょ? 実は私……幼い時に住んでた場所のすぐ目の前に、孤児院があったのよ。だから、孤児院の子と凄く仲が良かったんだけど……」


 緊張しながらもたどたどしく話してくれた内容は、その仲の良かった子供たちが、みんな奉公先が見つからないと言って、悩んでいたことでした。


 そして、その話を友達から聞いていたのに、当時のレミオロッコはあまり重い話だとは捉えておらず、仲の良かった友達の一人が、その後、道を踏み外し、悪い道に進んでしまったそうで、それを未だに後悔しているという話だった。


「なるほどね。つまり……レミオロッコは、孤児院の子たちを工房で雇いたいってことかしら?」


 今まで、レミオロッコがそんな事を考えているなんて全く聞いていなかったので、突然の話にちょっと驚きました。

 でも、レミオロッコが自分からこういう事を話してくれるようになったのが、ちょっと嬉しいです。


「う、うん。孤児院の近くに工房を作ってあげれば、幼い子でもお手伝いとかして貰えるでしょ? うちは人手は欲しいけど、そこまで専門的な技術や能力は求めてないでしょ? 慣れてくれば交代で牧場の方も住み込みで手伝って貰うとかも出来ないかなぁなんて言うのも思ってて……その、だめ……かな?」


 レミオロッコがそんな色々と考えていたなんて、更に驚きました。

 毎日仕事に追われて、まだ何も考えていなかった私がちょっと恥ずかしいです。


 前世では出来る女として通っていたのに……ちょっと悔しいけど、でもそれ以上に、レミオロッコが色々考えてくれていたのが、今はそれ以上に嬉しいです。


「ダメなんかじゃないわ! 良いアイデアじゃない! フェルトマスコット作りは、そこまで難しい作業じゃないし、いずれ毛糸を作って貰うにしても、洋服や小物を作って貰うにしても、幼い頃からやっていれば、きっとスキルが向いていなくても上手くなるはずだわ」


 生まれた時に神様から授かるギフト。

 そのスキルによる能力は強力なものではありますが、絶対にその能力を活かす仕事につかなければいけないという事ではありません。


 例えば商人をしている人たちなどは、全く関係ない能力しか持っていない人の方が多いと聞きます。


「キュッテ……いいの?」


「えぇ、私は賛成よ! それに奉公先が牧場(うち)でも良いのなら、受け入れてもいいわよ!」


「ありがとう! キュッテ!」


 レミオロッコが珍しく感極まって抱きついてきました。


「あ、ちょ、ちょっと、スト、ストップ!? ち、力強いから!? い、息できないから!?」


「あ……キュッテ、ごめん!?」


「はぁはぁはぁ……ま、まぁいいわ。今回は多めに見てあげるわ……はぁはぁ……けど、レミオロッコは自分が凄く力が強いって事を、もうちょっと自覚しなさいよね……」


 ちょっと一瞬祖父の顔が脳裏に浮かんだじゃない……。


******************************

この作品も、とうとう今回で第50話まで来ました!

これからも頑張って書いていきますので、

どうぞ宜しくお願いします<(_ _")>


第二章は、まだまだ始まったばかりで話はまったりしていますが、

これから色々イベントを用意しているので、お楽しみに☆

******************************

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