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【第41話:きーん】

 ケルベロスモード(フィナンシェ)の背に乗り、能力で把握した羊たちの元へと急ぎます。

 さすがに全部の羊たちを盗むことは出来なかったようで、ほとんどの羊は無事でしたが、やはりピンクの羊は一匹も見当たりません。


 そして、レミオロッコの姿も……。


「フィナンシェ! 今日は私に遠慮しないでいいから、全力で走って~!!」


「「がう~!!」」


 私がフィナンシェにそうお願いした瞬間、今までの速度が何だったのかというほどのスピードが出て、思わず振り落とされそうになりました。


 あ、危なかった……フィナンシェが魔力で包んでくれていなかったら、助けに行く前に落下死していたところだわ……。


「ででで、でも……こここ、これは、ちょっときついかしらあぁぁぁ!?」


 フィナンシェの遠慮なしの本気の走りを舐めていました……。

 ほんとすみません、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ手加減してくれませんかね? フィナンシェさん?


「うぅぅ……でも、我慢する……ちょっとでも早く行かなきゃ……」


 私は吹き飛ぶように後ろに流れていく景色を横目に、涙に滲む視界に何とか耐えて、羊たちの元へと向かいます。


 しかし、結構すぐに行動を開始したと思ったのだけれど、既に牧場からかなりの距離を移動しています。これは馬車を使っているのでしょうね。


 ただそれでも、圧倒的な今のフィナンシェのスピードをもってすれば、追いつくのも時間の問題です。


「ち、近づいてきたわ……。だだ、大丈夫よ。私にはフィナンシェがいるんだから!」


 うぅ、ホントはめちゃくちゃ怖いよぉぉ~。

 でも……追いつくまでに、どうやってレミオロッコを助け出すか考えないと!


 元々、盗まれるのは羊だけだと思っていたから、私はどこかに隠れて、ケルベロスモード(変身解除)したフィナンシェで脅せば何とかなると思っていたのだけどれど……。


 ど、どうしよう……無理やり走っている馬車を止めたら不味いよね?

 羊たちは、ああ見えて魔物だし、連れ去られたのは進化したピンクの羊たちみたいだからさらに頑丈なはず。

 だから乗っている馬車がもし横転したとしても、大怪我したりしないと思うのだけれど、レミオロッコをそんな目に合わせるわけにはいかないわ。


「やっぱり追いついたら並走して、私が停止させるしかないのかしら……よ、よし! や、やってやるんだから!」


 ちょうどそう覚悟を決めたところで、とうとう羊泥棒たちだと思われる集団を目視できる位置まで追いつきました!


 ここから見た感じだと、檻の付いた大きな荷馬車一台と、それを護衛する馬三頭からなる集団のようです。

 うちの牧場が女の子二人しかいないとわかっていたからでしょうか?

 思ったよりも数が少なくて、ちょっとだけホッとしました。


 しかし、まだ街道にも出ていないのに無理やり結構な速度で馬車を走らせているので、ここからでもわかるほどに凄い揺れています。


 レミオロッコ……吐いてないかしら……。


 あれ? でもこれ、ただでさえ草原の中を無理やり走らせているのに、いきなり後ろに巨大な魔物が現れたら、馬がびっくりして危ないんじゃないかしら?

 前世の映画とかで、馬が驚いて棹立ちになるシーンを思い出してしまい、不安になってしまいました。


 うん。やっぱり何かあっては困るので、奇襲するのは諦め、警告を発しながらゆっくり近づく事にしました。


「フィナンシェ! ちょっと咆哮をあげて、あいつらをビビらせてあげなさい!」


 私がそう命じると、フィナンシェは一拍置いてから、出会った時のことを思い出させるような、恐ろしい咆哮をあげました。


「「ぐぅぉぉぉぉぉぉん!!」」


 予想外のどでかい声量で……。


「ふぎゃ!? わ、私の耳がぁぁぁ!?」


 ちょ、ちょっと、元の姿に戻ったフィナンシェの声量を舐めていたわ。

 まだ耳がきーんってしています……。


 でも、フィナンシェのあげた咆哮は、私の狙い通り、羊泥棒たちをビビらせる事には成功したようです。


「なっ!? なんでこんなところに、あんな巨大な魔物がっ!? うぉっ!?」


 馬に乗ったガラの悪そうな男が、驚き、落馬しそうになっています。

 惜しい、そのまま落ちれば良かったのに……。


 でも、お陰で護衛の隊列が大きく崩れました!


「これ以上馬を驚かせないように、ゆっくり近づかないといけないわね。フィナンシェ、少しスピード落として」


 みんな混乱しているからでしょうか?

 私はどうやらまだ見つかっていないようなので、そのままフィナンシェの背に隠れ、ぎりぎり聞こえるような小声で指示を出していく事にしました。


「そう。良い感じよ。そのまま、そのまま……」


 かなり近づきましたが、あちらは凄いパニックになっているようで、まだ私の事に気付いていません。

 みんな馬を走らせるのに必死で、後ろを振り向く余裕すらなさそうに見えます。


 でも、馬に乗った三人は、馬車を見捨てて逃げてくれるかと期待していたのに、まったく逃げるそぶりをみせません。


 仕方ないですね。ここからは私が頑張らないと……。


 うん。そろそろ射程内(・・・)に入ったかしら?

 お馬さんは可哀そうだけど、もし怪我しても、後でちゃんと治してあげるから許してね!


 私は心の中で馬に謝ると、ようやく覚悟を決め、牧羊杖バロメッツを羊泥棒たちに向けて掲げました。


「草よ延びろ~!!」


 私はそう叫ぶと、逃げる羊泥棒たちの足元の草を一気に成長させたのでした。


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