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【第34話:出来る女】

 勢いよく頭を下げた私を見て、アレン様もイーゴスさんも少し驚いた表情を見せましたが、それは一瞬のことでした。


「キュッテ、頭を上げて下さい。他で手に入らない商品ですので、出来れば独占契約を結ばせて貰って可能な限り良い条件でと思っていたのですが……理由を教えて貰えませんか?」


 高く買い取ってくれると言っているのに、出来るだけ安く売りたいと言っているわけだから、意味がわからなくて当然ですよね。


 しかし、かなり変なお願いをしたと思ったのですが、アレン様は微笑んでその理由を尋ねてくれました。やだ、イケメンすぎる……。

 ただでさえ糸目なのに微笑んだせいで、もう完全に細い線になってるなぁ~なんて思っていませんよ?


「そうですね。キュッテさん、理由次第ではアレン様の商会としても、打てる手が何かあるかもしれませんし、詳しく聞かせて頂けませんか?」


 今日は嫌な目に合っただけに、こうして優しくされると本当に救われますね。

 ちょっと恥ずかしい野望()ですけど、ちゃんと正直に話してみる事にしましょう。


「あの……実は、ちょっと恥ずかしい野ぼ……夢なのですが、私はこの世界にカワイイを普及させたいんです……」


 レミオロッコと二人できゃっきゃ言いながらやっている分には、別に恥ずかしくないし楽しいのですが、こうやって大人の男性に面と向かって話すとなると、物凄く恥ずかしいですね……。


「え? カワイイを普及と言うのは、可愛らしい色々な物を出来るだけ安く提供して、この世に広めたいという事ですか?」


 あらためて要約して尋ねられると、恥ずかしさが倍増するからやめて!?

 なんだか顔から火が噴きそうなくらい熱いです……。

 前世でもリアルの知り合いには、乙女趣味だったことは内緒にしていたので、まして男性に話すのなんて初めてかもしれません。


 ちなみに、動画配信チャンネルでは全開でしたけど、顔は隠していましたから……。


「はい……私は、この世界にはカワイイが不足していると思うんです。カワイイ小物、カワイイ雑貨、カワイイ服、カワイイ人形、カワイイ宝飾品、ありとあらゆるカワイイが全く足りていないです!」


 今着ている私の服だってそう。

 牧場で作業する時に着ている服よりかはマシだけど、薄い革で出来た茶色のワンピースに茶色のブーツ。中に着ているシャツもくすんだ白い無地のもの。

 これでも、私の持っている服の中では、街へのお出かけ用の一番マシなものです。


 私はもっとカワイイ服が着たい!

 カワイイ色でカワイイデザインの、単色じゃなくて差し色が入った明るい色の服が着たい!


 カワイイアクセサリーも身に付けたい!

 お花や植物、丸みを帯びたデザインのパステルカラーのカワイイアクセサリーを身に付けたい!


 カワイイ鞄に、カワイイキーホルダーを付けて、部屋にはカワイイ人形やカワイイ小物を置いて、カワイイ色のベッドシーツやカーテンをつけて、もっとたくさんのカワイイに囲まれたい!


 私だけじゃないわ。

 街にもカワイイが全然足りていない!


 カワイイお店も無ければ、カワイイスイーツもない。

 映え? なにそれおいしいの?


 カワイイ雑貨屋さんに行くのは私が唯一外出する楽しみだったのに、そもそもまともな雑貨屋さんがこの街には無いじゃない!


 前世の記憶が戻るまでは何とも思っていなかったわ。

 特に、祖父が亡くなってからの半年なんて、一人で生きていくのに必死だったし……。


 でも……記憶が甦っちゃったものは仕方ないじゃない! 我慢できないじゃない!


 だから、私はこの世界にカワイイを絶対に普及させるの!!


 そんな熱い想いは…………そのまま伝えると引かれそうなので、もう少しオブラートに包んで伝えました。


 えぇ、私は出来る女なんです!


「だから、原価を割っちゃうのは困りますけど、ほんのちょっと儲かる程度で良いんです。ただ、その代わり、売る時も出来るだけあまり利益を乗せないで売って頂けませんか?」


 うん。かなり無茶なお願いですね……。

 でも、ここは譲れないラインなので、これで断られても仕方がないと思って話しました。


「なるほど……」


 アレン様も一言そう呟いたまま、目を瞑って黙り込んでしまいます。


 そりゃぁ、そうなりますよね。

 せっかく良い話を持ち掛けてくれたのに、こんな我儘なこと言えば……。


 せめてアレン様が言う言葉を真摯に受け止めましょう。どんな言葉で断られても。


 そう覚悟を決めて、アレン様が言葉を発するのを待っていたのですが、告げられたのは意外な言葉でした。


「いいえ。キュッテ、やはりこのフェルトマスコットは高値で買い取らせて下さい」


 あれれ? 私の想い、オブラートに包み過ぎたかしら……?

 もっと直接的な言葉で伝えるべきだった?


「あ、あの……アレン様? ですから……」


 私は覚悟を決めて、今度はもっと直接的な言葉で想いを伝えようと口を開いたのですが、その言葉は途中で止められてしまいました。アレン様の突き出した右手の平によって……。


「キュッテ、まずは私の話を最後まで話を聞いてくれませんか?」


「え? は、はい?」


「このフェルトマスコットは高値で買い取らせて下さい。これはそれだけの価値があります。そして、私は商人です。だから、その価値に見合った値段で買い取りたいのです」


 アレン様とは短い付き合いですが、まっすぐな方だというのは十分すぎるほどわかっているつもりです。

 だから、その考え方はとても納得できるものでした。


 ですが、やはりそれだと……そう思い、また口を挟もうかと思ったのですが、今、最後まで話を聞いて欲しいと言われたところなので、思い直し、もう少し話を聞いてみる事にしました。


「しかし、買い取ったフェルトマスコットは、庶民にでも手の届く価格で販売する事をお約束します!」


「え?」


 どういうこと? 私はアレン様の言っている事は理解できるのですが、意味がわからず、言葉に詰まってしまいました。


「なるほど。さすがアレン様ですね」


「はい。これならキュッテの要望を叶えつつ、良い取引が出来るかと思って!」


 え? なにが「なるほど」なの?


 なぜか糸目のイケメンさんと、イケボでちょっと歳食っているイケオジさまの意思疎通がバッチリなのですが、私は意味がわかりません。


 特別に個室に入れて貰ったフィナンシェも、足元で首を傾げています。

 あ、これはお腹いっぱいで、眠くて舟をこいでいるだけですね。


 うん。考えてもわからないものは聞けばいい。


 それはともかく、どうしてそういう話になるのかわからない私は、その後、素直にその理由を尋ねる事にしたのでした。


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