【第33話:カセギマス】
「ところでアレン様。この羊の人形……アレン商会で取り扱ってみてはいかがですか? この商品、絶対に大きな話題になります」
「たしかに……いいかも知れませんね!」
「え? そんな、商会で扱うようなものでは……」
羊のフェルトマスコットは頑張って作った自信作ですし、絶対にカワイイと思うのですが、商会で扱うような商品ではありません。
この世界の商会では、主に食料や武器防具、衣服や宝飾品、地域の特産品などを扱うことが多く、このような小物や雑貨は、個人でやっている街の小さな店などが、お小遣い稼ぎに店の片隅に並べたり、ワゴン車のようなもので細々と売るのが一般的です。
「いや、キュッテ。僕もイーゴスの言う通りだと思う。このような人形は見たことも聞いた事もありません。しかるべきルートで売り出せば、絶対に凄い話題になると思うんだ! もし君さえ良かったら、うちで扱わせてくれないか?」
本当にそんなつもりで話したのでは無かったのですが、受けても良いのかしら……。
「えっと……私たちとしては願ったり叶ったりなのですが、本当に宜しいのですか? 商会でこのような小物を扱うのは珍しいと思うのですが?」
「アレン様の商会でも一般的な商品は色々と扱っておられますし、そちらの業績は悪くないのですが、実店舗の方の客足が伸び悩んでおられるのですよ」
なるほど……私のフェルトマスコットは、この世界ではかなり珍しいですし、話題になれば客足の伸びに繋がります。
一瞬、私を気の毒に思って言ってくれたのかと思ったのですが、アレン様にも利があるのなら、遠慮する必要はありませんね!
「あの、本当に宜しいのですか?」
「はい! こちらからお願いしているのですから! あ、もしお時間あるようなら、お昼をご一緒しませんか? この近くのお店で食事の予約を入れてあるので、そこで美味しいものでも食べながら話を詰めましょう!」
おぉぉ……お、奢りですか? 奢りですよね!?
私、この世界では今まで稼ぎが少なかったので、ちゃんとしたお店でご飯食べるの初めてなんですが!? まさか誘っておいて割り勘とか言わないですよね!? 領主様のご子息ですもんね! 奢りですよね!?
おっと……危うく、心の声が溢れ出すところでしたわ。おほほほ。
でも、この世界のちゃんとしたお店でご飯食べると、かなり高いのですよ。
い、一応、確認しておこうかしら? 後でお金請求されると、今の手持ちじゃ足りない可能性もありますし……。
「あ、あの、恥ずかしい話なのですが、今、あまり手持ちがですね……」
「え? あぁ~! 食事代の事ですか? こちらからお誘いしておいて、お金を貰ったっりしませんから、安心してください!」
そ、そうですよね~……は、恥ずかしい……。
でも、この世界で食事に誘われたのなんて初めてだし、誘われた側もお金を出すのが当たり前って可能性もあったから仕方ないじゃない!
「レミオロッコも、お誘い受けてかまわない?」
「う、うん……せっかくのお話だから、ね」
レミオロッコは極度の人見知りです。
それが初対面の上に領主様の三男と大きな商会の元商会長と食事をするという事で、かなり緊張しているようです。
でも、レミオロッコ自身も隣で話を聞いていて、受けるべきだと思ったのでしょう。
少し迷いながらもOKを出してくれました。
「それでは、お言葉に甘えてご一緒させて頂きます」
「良かった! それじゃぁ、さっそく向かいましょう。ここから歩いて五分とかかりませんから」
こうして私たちは、アレン様に先導されてお店へと向かったのでした。
◆
はっ!? いつの間にかお皿が空に!?
あまりの美味しさに、夢中で食べてしまっていました……。
「いや~、ここの料理は本当に美味しいですね。キュッテはどうでしたか? 僕は子供の頃からここのお店の料理が大好物なんですよ」
「わたくしもアレン様のお父様に教えて頂いて以来、この店は贔屓にさせて頂いているのですよ」
なに? ここの料理……。
前世では仕事以外では引き籠り気味だったのですが、それでも仕事は出来る方だったので稼ぎもあり、それなりにお高いお店にも行った事はあるのですが……それを遥かに上回る美味しさでした!
この世界の食事は質素なものというイメージだったのですが、完全に私の思い込みだったのですね。
えぇ……私が貧乏だっただけですね! すみませんでした!
「えっと……あまりお口に合いませんでしたか?」
「はっ!? いいえ! あまりに美味しくて、ちょっと放心していました……」
となりでレミオロッコもぶんぶんと何度も頷いています。
「ははは。それは良かった。やはり自分が贔屓にしているお店の料理を美味しいと言って貰えるのは、嬉しいですからね」
ワタシ、ガンバッテオカネヲカセギマス。
「アレン様、キュッテさん。美味しいものも頂きましたし、そろそろ商売のお話をしましょうか」
はっ!? カセギマスとか言っている場合じゃないですね。
これから大事な商談を纏めないといけません。
「それで、先ほど見せて頂いたフェルトマスコットなのですが、是非高値で買い取らせて下さい。食事中聞いた感じですと、そこまで材料費も手間もかからないようですが、一般的な人形と同程度の価格でいかがでしょう?」
一般的な人形と言うと、たしかレミオロッコが言っていたフランス人形みたいなものの事ですよね。
そうなると、たしか、かなりの高級品だったはずです。
材料費も余りかからない上に、私でもこの羊のマスコットなら、一個一五分ほどで作れるので、そうなると物凄い儲けになります!
でも……それは私の望んでいる形じゃないわ。
「あの……凄くありがたいお話なのですが……代理販売でも買い取りでも構わないので、庶民の方に気軽に買って頂けるようなもっと手頃な値段で取り引きさせて頂けませんか!」
私はそう言って、頭を深く下げたのでした。
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