【第31話:ぐいぐい】
フェルトマスコット作りを始めてから、さらに十数日が経ちました。
作成した羊のマスコットは既に一〇〇個を超えています。
レミオロッコの能力がうまく機能して、恐ろしい速度でフェルトマスコットを作れるのようになったのが大きいですね。
でも、私たちは大きな問題に直面していました。
今私たちは、クーヘンの街に来ているのですが……。
「ごめんね~。うちは小さな店だから……」
「いいえ、教えて下さっただけでも助かりました。ありがとうございます」
二人肩を落として店を出てきました。
つい数日前にも街に羊毛を売りに来ており、その時に、いくつかの店で代理販売の契約を交わす事に成功し、羊のフェルトマスコットを置いて貰えたのですが……全部契約を打ち切られてしまったのです。
「それにしても、やられたわね……」
「ん~……厄介な人に目を付けられちゃったね……」
前回預けていった羊のフェルトマスコットは、どの店も売り切れており、手ごたえを掴めたというのに、急に全ての店で代理販売を断られてしまったのです。
ただ、理由がわからず困惑していたのですが、今出てきた店で、店主がこっそりその理由を教えてくれました。
「副ギルド長め……」
羊のフェルトマスコットが、街でちょっとした話題になっていたようなので、きっとお金の匂いでも嗅ぎつけたのでしょう。
副ギルド長が、代理販売を行わないように圧力をかけてきたようなのです。
「さっき商業ギルドに行った時に、にやにやと笑いながらこちらを見ていたのは、こういう事だったのね……」
「そうね。嫌な予感はしていたのだけれど、こんな早く仕掛けてくるとは思わなかったわ」
さっき商業ギルドで羊毛の買い取り手続きを対応してくれたおじさんが、凄く申し訳なさそうにマスコットの事聞いてきたのよね。
それで、売る所に困ったら、いつでもギルドで買い取るからねと言っていたのは、こういう事だったと……。
元々羊のフェルトマスコットは、出来るだけ手軽な値段で売ろうと思って値段を抑えているので、たぶんギルドに売ってもそこまで買い叩かれることはないと思う。
私たちが割に合わないと思って作らなくなったら、意味がないからね。
でも、私たちから安く買い取ったフェルトマスコットは、おそらく凄い高値で販売されるでしょう。
そうなると、この世界にカワイイを布教できなくなります!
それに、そもそもこんな事されて、このまま引き下がれるわけがありません!
「ぜ~ったいに、ぎゃふんと言わせてあげるんだから~!」
「街中で叫ばないでよ!?」
あら、ワタクシトシタコトガハシタナイ……とか、冗談言っている場合じゃないわね。
「ちょっと本気で何か対抗する手段を考えないと、ずっと食いものにされるわね」
私がそう呟いた時でした。
「あれ? キュッテじゃないか!」
と、通りの奥から声を掛けられました。
この街の若い男性で、私に声を掛けてくるような人は一人しか心当たりがありません。
「アレン……さま! お久しぶりです!」
あぶない……心の声はノーカンですが、あやうく呼び捨てにするところでした。
こちらに手を振りながら歩いてくるのは、この街の領主様の三男のアレンでした。
心の声はノーカンです。
「キュッテ、久しぶりですね。元気にしていましたか?」
「はい。お陰様で。今は牧場で一緒に働いてくれる下僕……仲間も出来たので」
「誰が下僕よ!?」
「ははは。仲も良さそうで何よりですね♪」
追いついてきたお付きの人が、苦笑いしています。
アレン様は、しっかりしているように見えますが、ちょっと人の機微に疎そうなとこがありますね。
「ど、どこがですか……というより、キュッテ、この人誰よ?」
「ん? 領主様のご子息よ。あ、それでアレン様……」
「ご子息? 領主様の?」
「そうよ。三男だそうよ」
「だそうよ……じゃないわよ!? なに、貴族様と普通に立ち話してるのよ!? すす、すみません! キュッテって、ちょっと常識に疎くて!?」
レミオロッコが急に慌てだして、私の頭を下げさせようとぐいぐいと押してきます。
それはもうぐいぐいと……。
思った以上に力が強い……い、痛いです……。
「ちょ、ちょっと!? レミオロッコ、何するのよ!?」
普段からいろんな物を作っているので自然に鍛えられている上に、そもそもレミオロッコはドワーフなので、見た目よりも遥かに力があります。
抵抗してみましたが、びくともしませんでした。
「すす、すみません! 私の方から後できっちり叱っておきますので、どうかご無礼をお許しください!」
「あぁぁ~、大丈夫ですよ! レミオロッコさん? でしたっけ? キュッテとは友人なので……あ、僕は友人と思っているので……」
あら? アレン様の方から友人と言ってくれるなんて嬉しいわね。
「ぐぬぬぬ……。あ、アレン様、私も友人と思っておりますよ!」
無理やり頭を上げようと思ったのですが、やっぱりレミオロッコには力では勝てないようです。口なら絶対負けない自信があるのですが……。
「そうですか! これでお互い認めたわけですし、正真正銘の友人ですね!」
正真正銘? まぁアレン様が嬉しそうですし、あわせておきましょう。
「はい! 正真正銘の友人です!」
「ほ、本当に領主様のご子息と友人? キュッテが?」
「どこまで疑り深いのよ!? レミオロッコ~! いい加減、手をはーなーしーてー!」
私がそう言うと、レミオロッコはようやく頭から手を放してくれました。
「はははは。本当に仲が良いですね~♪」
アレン様、これのどこがですか……しかし、レミオロッコがここまで力が強いとは思いませんでした。
これから揶揄うときは、ちょっと注意しないとですね!
「「がぅ♪」」
「お。フィナンシェも元気そうだね!」
アレン様は、フィナンシェの正体は知っているはずですが、怖がらずに近づくと、そのまましゃがみ込んで頭を撫で始めました。
「フィナンシェも喜んでいるみたいです。ありがとうございます」
ケルベロスとしての姿も見ているのに、ちょっと驚きです。
それに、やっぱり自分が可愛がっているフィナンシェに分け隔てなく接して貰えるのは嬉しいですね。
そんな事を思っていると、アレン様は突然思い出したように立ち上がり、
「そうでした! ところで……先ほどは少し落ち込んでいるように見えたのですが、大丈夫ですか?」
と、尋ねてきたのでした。
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今日ももう一話更新する予定なので、
是非、ブクマしてお待ちくださいませ☆
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