【第25話:カワイイ色】
店に入り、目的の物を買おうとして、私は愕然としました。
「え? ……な、なんでこんな高額なの?」
私が最後に買おうと思っていたものは、羊毛を染めるための染料です。
前世に「染色は科学だ」とか聞いた事がありますが、まぁそんな知識がなくても、染め方を聞いて染料などの材料を揃えれば何とかなるだろうと思っていたのですが……。
「お嬢ちゃん、そもそも染料はそんな安いものではないんだが、染料の仕入れ先が王都を挟んだ反対側に位置する街だから、ここでは輪をかけて高いんだよ」
「そ、そうなのですね……」
理由はわかりましたが、これではぬいぐるみが高級品になってしまいそうです。
しかし、高額ももっと愕然としたことがあります。
「高い理由はわかりましたが……色の種類ってこれだけなんですか?」
黒や紺、深緑、濃い紫など置いてあるので、種類が極端に少ないわけではないのですが……カワイイ色がまったくありません!!
「あの……淡い色の染料ってありませんか? 出来れば淡いピンクとか?」
まずは牧場の家にある私の部屋を、またピンク一色にしたかったのに……じゃなくて、カワイイものを作るのにはカワイイ色が必要です!
それなのに、ここにはパステル系の色がまったくないじゃないですか!?
「ピンク? ははははっ。そんな色置いてるわけないじゃないか~」
私は真面目に聞いているのに、何なのでしょう!
「な、なんで置いてないんですか!? あぁん!?」
「ちょ、ちょっとキュッテ……」
おほほほ……ワタクシトシタコトガハシタナイ。
しかし、どうして「置いているわけない」とかいう事になるのでしょう?
「な、なんだぁ? なんでって言われてもなぁ。ピンクなんて置いても売れないし、そもそもそんな染料見た事ないぞ?」
そ、そんな……ピンクが手に入らないなんて……。
しかし、確かに思い返してみると、街を歩く人達でピンク色の服を着ている人はいなかった気がします。
ん? 待って……待って待って!
……いいえ、ピンク色だけじゃないわ! 淡い色、特にパステル系の色の服って全く見てないわ!
「あ、あの! ライトグリーンとか、ライトイエローとか、明るい色の染料はありますか!?」
「ら、ライト? ってのはわからないが、明るい色の染料は存在しないんじゃないか?」
「え? 存在しない……?」
ど、どういうこと!?
百歩譲って、売れないからとかいう理由ならわからないこともないわ!
でも、明るい色の染料が存在しないっていうのはちょっと極端すぎない?
「あぁ、存在しないと思うぞ? 服を染める時にスキルの能力を使うだろ?」
「え!? 染めるのって能力を使わないと出来ないんですか!?」
ここにきて大きな誤算です……。
まさかただ服や布を染めるだけで、スキルの能力を使っているなんて思いもしませんでした。
「は? 当たり前だろ? ……って、まさか嬢ちゃん、そういう系統のスキルを持ってるんじゃねぇのか?」
私のギフトは、酪農系スキルの『牧羊』なので、もちろんそんな能力は持っていません。
持ってないわよね……。
「えっと……」
うん。念のために確認してみたけど、そんな都合よく羊毛を染めるような能力は持っていませんでした。
「持っていません。あ、そうだわ! レミオロッコ! あなたの方は?」
レミオロッコの『創作』なら、材料を生成するためとかいう風に上手く能力をコントロールすれば、もしかすると染め方とか自然と習得できないかしら?
そう思い、期待の視線を送ってみたのですが、
「え? ん~、絶対無理とは言わないけど、直接的に使える能力は持ってないから、出来たとしてもかなり手間暇がかかるかも?」
と、ちょっと期待外れな答えが返ってきました。
ちっ、使えないわね!
「キュッテ……あんた、なんか失礼なこと考えてるでしょ? 凄く顔に出てるんだけど……」
おほほほ……ワタクシトシタコトガハシタナイ。
「でも、ちょっと私の考えが甘かったようね。ごめんなさい」
「いくらか生産関係のスキルを習った私でも知らなかったんだから、キュッテが知らなくても仕方ないわよ」
でもこれは、大きな課題が出来ちゃったわね。
「それで、どうする? 染料はもう買わないのかい?」
「いいえ。何色か一通り買わせて貰おうと思っているので、代わりに少しお話を聞かせてくれませんか?」
この世界の染料がどういったもので、どういったスキルを使って染めるのか?
どうしてスキルの能力によって染めると濃い色になるのか?
また、染められる素材の範囲は? 絵の具は存在するようなのに、どうして絵の具のようなものに浸して染める事はできないのか? など、いくつか疑問に思う事を質問させて貰いました。
その結果、前世の世界とこの世界で、大きく違う点が一つある事がわかりました。
「魔力ね……」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ。色々教えて頂き、ありがとうございました!」
「ははは。商品買って貰えるのなら、これぐらい問題ないよ。それで、買うのはこれで間違いないか?」
そう言って、カウンターの上に並べられている数種類の染料と、ちょっと無理を言って、それらの染料を能力を使って染めた布などのサンプルを付けて貰いました。
こうして私たちは、予定していた全ての買い物を終え、街を後にしたのでした。
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