【第18話:創作】
誰かが私の名を呼んでいる気がします。
いえ、実際に私の名を呼び、誰かが私の身体を揺すっているようです。
「んん……? なぁに? だれぇ?」
声を出したことで、徐々に意識が覚醒してきました。
私はもこもこ度&もふもふ度マックスな羊に抱きついて、そのままウトウトして寝てしまっていたようです。
「ちょっと、キュッテ! ようやく起きたわね……。見当たらないから、凄い探したじゃない!!」
よく見ると、この羊の毛がもふもふすぎて、私の身体の大半が埋もれてしまい、見つけにくくなっていたみたいです。
それほどに、この羊の毛はもこもこもふもふになっています。
「それにしても羊って、こんなに毛がふわふわな動物だったのね」
「あぁ、なんかこの子は進化した希少種みたいね」
羊って魔物だし、魔物はどの種でも進化する可能性を秘めているから、突然の進化によって、こういう種が生まれても不思議ではない。たぶん。
「き、希少種って……同じ見た目の羊、何匹か交じってない? それに、他の羊もなんだか毛艶が異様に良く感じるんだけど……」
さっき見た時に数匹いたのは確認しているけど、進化した羊が何匹いるか、ちゃんと数えておかないといけないわね。
「私も把握できていないから後で数えてみるわ。それと、他の羊の毛並みが良いのは、私の酪農系スキル『牧羊』で羊の毛の質が大幅にアップしているからよ」
「なんだかあなたの持ってる『牧羊』スキル。私の知っている『牧羊』スキルと別物な気がして来たんだけど……」
「なによそれ? 私のスキルはいたって普通の、普通の……」
そう言いながら周りをふと眺めると、ケルベロスが昼寝してたり、異様にもこもこな羊が何匹か厩舎に寝転がっていたり、他の羊の毛並みにしても……うん。普通の牧場の姿ではないわね。
「なんで、そこで詰まるのよ? やっぱり普通のスキルじゃないの? まぁ言いたくないなら言わなくても良いんだけど」
ギフトとして授かったスキルが、何か不穏なものだったり、特別なものだったりする場合に、似た別のスキルと偽ったりすることがあると祖父が言っていた。
でも、私の場合は本当にスキル自体は普通の『牧羊』スキルなのよね。
「レミオロッコはこれからここで住み込みで働いて貰うんだから、別に隠す気はないわ。私の授かったスキルは本当に普通の『牧羊』スキルよ。ただ……」
「ただ……?」
「ただ、ちょっとたくさんランクアップしているだけよ」
本当にただそれだけなのよね。
「え? それだけ?」
「本当にそれだけよ。まぁ最低数十回はランクアップしてるっぽいけど」
「……はぃ? い、今なんて?」
「隠してるわけじゃないわよ? 本当に何回したのかわからないのよ」
ケルベロスを従える事に成功した時に纏めて一気にランクアップしたせいで、本当に何回ランクアップしたのかわからないのよね。
普通はランクアップなんて、どれだけ早い人でも数年に一回とからしいから、こんな風に、自分が何回ランクアップしたかわからないなんてことは起こらないんだと思うけど。
「いや、そうじゃなくて!! 何十回って何よ!? 宮廷魔法使いとか高名な鍛冶師とかでも、ランクアップなんて、一生をかけて一〇回行くか行かないかと聞くわよ!?」
へ~、そうなのね。
私、この世界については祖父から聞いた知識しかないから、これからレミオロッコに色々と教えて貰おうかしら。
「レミオロッコって意外と物知りよね。私、ここで祖父と二人で暮してきたから、知識が偏ってるのよ。だから、嫌じゃなければ、これから色々と教えて貰えないかしら?」
「え? あ、うん。それぐらい全然かまわないわよ」
「ありがと♪ あらためて、これからよろしくね!」
私がそう言って右手を差し出すと、レミオロッコも照れながらも右手を差し出してくれて、私たちはしっかりと握手を交わしました。
「こ、こちらこそ、よろしく……。私も、奉公先が決まらなくて、もう少しで里に送り返されるところだったから、その、これでもキュッテには感謝してるのよ」
こうやってあらたまって感謝されると、ちょっと恥ずかしいわね……。
「ふふふ。じゃぁ、シメられずに済みそうね」
「ほ、本当にシメたりしないわよ!?」
「あ、もう日が傾き始めているわね」
牧場への移動中、ケルベロスモードの背の上で街で買ったサンドイッチを食べたから、お昼を抜いたわけではないけれど、ちょっとお腹が空きました。
そうだ! 晩御飯は、せっかくだからプチ歓迎会にしましょう!
「自宅は片付いていないけど、調理器具は無事だから……」
「自宅なら、もう修理したわよ」
「え?」
「え? って、何を言っているのよ。あなたが寝ている間に全部修理して、ついでに片づけておいたわよ?」
レミオロッコこそ何を言っているのかしら……。
屋根、半分ぐらい吹き飛んでいたのよ?
部屋も一部の壁が崩れたりして、中の物も無茶苦茶だったのよ?
それをこの短時間で、半壊している家を全部直したというの?
「もしかして……私、丸一日寝てた?」
「なにをさっきから馬鹿な事を言っているのよ。せいぜい二時間ぐらいじゃないの? それより、問題ないか確認して欲しいから一度自宅に行きましょ」
レミオロッコに言われるままに後をついて自宅に入った私は、絶句してしまいました。
本当に、どこが壊れていたのかわからないぐらいに綺麗に直っているのだから。
え? 何、この子のスキル『創作』だっけ?
もしかしてとんでもない万能スキルなんじゃないの!?
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レミオロッコ、実は優秀説!
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