【第17話:自慢の牧場】
蹲るレミオロッコを見て、私もちょっと反省中です。
「レミオロッコ起きて~。驚かせて悪かったわ」
これでもう謝るのは三度目なのですが、一向に復活する気配がありません。
仕方ないですね……最終手段です。
私はレミオロッコの側にしゃがみ込むと、耳元で呟きました。
「(早く起きないと、ケルベロスに食べられちゃうよ?)」
そう言った瞬間でした。
「はい! もう起きました! だから、食べないで~!? ……シメるぞ!」
うん。もう元気になったみたいね。
レミオロッコの「シメるぞ」は元気になった証拠ですし。
「じゃぁ、レミオロッコも復活したみたいだし、残りの買い出しに行きましょうか」
と言って、コーギーモードを連れて歩き出したのですが……。
「ちょ~っと、待って!? さっきのケルベロスはっ!? なにシレっと無かったことにしようとしてるのよ!? あぁん!」
「だって、もう元気そうじゃないですか? あぁん?」
困ったわ。私まで汚い言葉がうつってしまいそうですわ。あぁん?
「なんですか!? そのカワイイ『あぁん?』は!?」
「いや、ツッコむとこそこなの?」
「はっ!? そうよ! さっきのケルベロスって……」
「「がぅ!!」」
「ちょ、ちょっとフィナンシェちゃん、待ってて。今ね。すごく大事な話をしているとこなのよ」
うぅ~ん……現実逃避してるようね。
もう面倒だし、こっそりケルベロスモードしちゃいましょう。
「「がう?」」
「そう。大事な話……だいじな、とってもだいじ、な……」
あ、また倒れそうになってるわね。コーギーモード。
「「がぅ?」」
「ちょっとキュッテ!! あなた、私で遊んでいるでしょ!?」
「だって~頭ではわかっている癖に、レミオロッコっていつまでも現実逃避しているんだもの~」
そう。ちゃんとレミオロッコはわかっているのに、認めたくなくて、現実逃避しているだけなのよ。たぶん。
「ぅぅぅぅ……絶対いつかシメるんだから……」
もう何だか慣れてきて怖いというより、カワイイわね。
無理して暴言吐いてるだけだし?
「いや、ぜってーシメる!」
あ、目が本気だわ……案外本気なのかも?
……ちょっとだけ自重しておきましょう。
◆
レミオロッコを宥めたあと、他にも食料などの当面必要なものを買い溜めし、街の外へと移動してきました。
「この辺りまでくれば人通りもほとんどないし大丈夫かな?」
「こんな可愛いフィナンシェちゃんが、あの『死を司る業火の魔獣』だなんて信じられない、わぁぁぁぁ!? 人が頭を撫でてる時に変身解除するなぁ!? シメるぞ!!」
変身解除しようとしていた所に近寄って撫で始めたのはレミオロッコなのに、理不尽だわ。まぁ狙ったけど。
「じゃぁ、フィナンシェに乗ってさっそく出発しましょ」
「あんた、ホントに良い性格してるわね……」
「そんな褒めなくても~」
「褒めてないわよ!!」
そんな他愛もない会話をしながら私とレミオロッコは、ケルベロスモードに乗って移動を続けました。
フィナンシェは小屋ぐらいの大きさがあるので、二人が背に乗っても全然余裕があります。
初めて乗った時は、フィナンシェも人を乗せるのは慣れておらず、私も必死にしがみついていたのですが、今ではフィナンシェも慣れてきて、私たちが落ちないように上手くバランスを取りながら走ってくれているので、かなり安定しています。
その上、魔力か何かで包み込んでくれているようで、風の影響をあまり受けず、非常に快適な乗り心地です。
「フィナンシェちゃん、凄い優秀ね」
「ふふふ。私の自慢の牧羊犬よ!」
「牧羊犬……世の牧羊犬どもから苦情がきそうな発言ね」
「あ、見えたわ! あそこがうちの牧場よ!」
小高い丘と、その周りに白いもこもこたちが見えます。
「へぇ~、キュッテって本当に牧場主だったのね」
「なんだと思って雇われたのよ……」
そんな事を話しているうちにも、みるみるうちに牧場へと近づいて行き、あっという間に辿り着きました。
「さぁ、ここが私の牧場よ!」
羊たちが牧草を食べたり寝転がってしている長閑な光景を、ちょっと自慢するように紹介したのだけれど……。
「人がせっかく牧場を紹介しているのに、なんで後ろ向いてるの?」
「えっと、牧場は良いんだけど、家の屋根が無いのはどうして?」
「そんな細かいこと気にしないで牧場を……あ、オハギ! カシワ! あなたたち、何勝手に家に入って寛いでるのよ!」
当たり前のように自宅から出てくるオハギとカシワ。
あの山羊たち、本当に自由人……自由山羊ね。
「はぁ~……なんか私、就職先早まったかしら?」
「馬鹿な事言っていないで、まずは屋根直すわよ! じゃないと、厩舎で寝る事になるからね! まぁ私は厩舎でもふもふに囲まれて寝るのは幸せだから良いけど? ねぇ、やっぱり厩舎で寝ない?」
「……やっぱり早まった気がするわね」
その後、なぜか文句をだらだらと言いながら屋根を修理するレミオロッコをその場に残し、私は羊たちを厩舎へと移動させます。
「みんなー! そろそろ厩舎に戻って~!」
もう指定の場所へと移動させる能力を使わなくても、だいたい言葉で指示すると、その通りに言う事を聞いてくれるようになったので更に楽になりました。
私の指示に従って、もふもふの毛を揺らしながら、こちらに向かってくる羊たち。
羊カワイイよ羊。
そんな風にまるでぬいぐるみのようにもこもこでふわふわの羊を眺めて……眺めて……あれ?
「なにか、もこもこ度ともふもふ度マックスな子が交ざってない?」
もともと前世からもこもこもふもふは憧れだったので、その度合いを測る目には自信があります。
「まだ認識していない能力が、何かしら発現してるのかしら?」
そう思い、うちに意識を向け、先日の大量ランクアップ時に得た能力に何か該当するものがないかと調べていくと……ありました。
一つ、羊たちの中から稀に希少種に変化するものが現れる能力。
「ふふふ♪ ちょっと、いろいろ調べる必要がありそうね!」
私は一人呟きながら、もこもこ度&もふもふ度マックスな羊に向かってダイブしたのでした。
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―牧羊犬からの苦情は受け付けておりません―
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