【第16話:資材搬入】
「あ、あなた……見た目、凄い美少女なのに、結構強引よね……」
レミオロッコが何か失礼なことを言っている気がします。
私は説明が面倒なのと、黙っていると面白そうだと思っただけで、別に強引なわけではないわ。
「失礼ね。それより、とりあえずは屋根の材料と、それから倉庫を作りたいと思っているから、その材料を一通り選んでそこの広場に用意して貰って」
今回、羊毛を売って手に入れたいくらかのお金と、家の蓄えを持ってきているので、それを渡します。
「む、無理だから」
「え? どういうこと?」
「私が取引していいの? たぶん揉めに揉めるわよ?」
うっ、確かに。この子に任せたら「シメるぞ!」とか言って、まともに取り引き出来そうにないわね……。
「じゃぁ、取引は私がするから材料を選んできてちょうだい」
商売のイロハ……この子に教えられるかしら?
◆
店員に、レミオロッコの選んだ木材を指示通りに運んで貰えるように話をつけ、一時間ほどかけて、ようやく必要なすべての材料が揃いました。
「それじゃぁ、これが代金です。安く譲って頂いて、本当にありがとうございます!」
実はここの店員のお父さんが、うちの祖父と友人だったようで、私の事を知っており、かなり安く譲って貰えました。
どうも牧場で孫が一人で暮らしているのを最近知って、私の事をかなり気にしてくれていたみたいです。
「気にしなさんな。うちの娘とそう歳の変わらない嬢ちゃんが、一人で頑張ってるんだ。少しぐらい手助けさせてくれ」
うぅぅ。この店員さん、凄い良い人だ……。
これからもここを贔屓にさせて貰います!
「しかし、この材料をどうやって運ぶんだ? あとのお楽しみとか言っていたが?」
店員さんに説明するのも面倒……げふんげふん。ちょっと時間がかかりそうですし、そもそも話した所で信じて貰え無い気がしたので、レミオロッコと一緒に後で実際に運ぶところを見せることにしたのです。
「それでキュッテ、結局どうするのよ?」
レミオロッコも隠していますが、興味津々という感じですね。
そろそろ教えてあげないと、また暴言吐き始めそうなので、そろそろ教えてあげる事にしましょう。
まずはこっちかな。
「えっとね。ちょうど今、お店の前でフィナンシェ、私の牧場の牧羊犬ね。そのフィナンシェがお店の前で待っているのは知っていると思うけど……」
と、ここで言葉を切って……。
「召喚!」
と言って、この場にコーギーモードを召喚してみせました。
「「がぅ!」」
「おぉぉ! 凄いじゃないか! 召喚なんて初めて見たぞ!?」
「えぇぇ!? どういこと!? 召喚能力って、魔物使いでもかなりランクアップしないと使えないはずなのに!?」
「いや、それ以前に『牧羊』スキルで召喚が使えるなんて聞いた事ないぞ!」
召喚能力を見せただけなのに、なんだか思った以上に興奮しているわね……。
これ、この先も見せて大丈夫かしら?
驚かせようかと思ったけど、先にちゃんと伝えておいた方が良い?
でも、そのまま話して信じてくれるかしら?
「あれ? キュッテ? フィナンシェちゃんを呼び出したのは凄いけど、この資材はどうするの?」
「うん。まだ続きがあるから」
えーい。もう知~らない。
「フィナンシェ! ケルベロスモードよ!」
「「がう!」」
私がそう命令すると、フィナンシェは小さくて可愛らしいコーギーモードから、巨大な元の姿、ケルベロスモードへと一瞬で姿を変えたのでした。
◆
はい。二人とも揃って気を失ってしまいました。
今は、勢いでやってしまったことをちょっとだけ反省しています。ちょっとだけ。
「こうやって実際に目にしているのに、まだ信じられないのだが、ほ、本当にケルベロスを従えているのか……」
「はい……いろいろと偶然とラッキーと幸運と悪運が重なって、こんな事に?」
私の家に偶然『牧羊』スキルの効果をあげる『牧羊杖バロメッツ』が代々受け継がれていて、たまたまそれを半年前に祖父から受け継いでいて、その上で運悪くケルベロスに襲われ、でも運良くその直前に私の『牧羊』スキルがランクアップしていて、更にたまたまケルベロスが牧羊犬としての判定対象になってくれていて、更に更に本当に凄い低い当たりを引き当てて、奇跡的にケルベロスを従える事に成功したんだと思う。
その辺りを掻い摘んで説明すると、
「いや、なんかもう奇跡とか伝説のたぐいな気がするんだが?」
と、呆れられてしまった。
私も奇跡だと思ってるし、ちょっと否定できないわね……。
「ところでこの資材は、ケルベロスに牧場まで何往復かさせて運ばせるってことか?」
「何往復かして運ばせるって言う所は、たしかにその通りなんですが、走ってではなく、送還という能力で牧場にケルベロスを送ってですね」
「それはまた凄い方法だな……」
その後、ケルベロスモードに資材の一部を咥えさせてから、送還と召喚を繰り返す所を実際に見せ、そのまま三〇分とかからずに全て牧場へと運び終えました。
「いやぁ、本当に今日は一生分驚かされた気がするよ。しかし、こんな頼もしい牧羊犬がついているなら、街の外での暮らしでも安心だな! これからは何かあれば言ってくれ。出来るだけ力になるから!」
「ありがとうございます! それと、この事は……」
「わかってるって。この事は誰にも言わないから安心してくれ。そもそも誰かに言ったところで誰も信じないよ」
ここの木工所の今いる広場は、高い塀に囲まれているので、今行った作業は誰にも見られていません。
だから、黙っていて貰えるように頼んでみたのですが、快く承諾してくれました。
「さて……あとはこの子か……」
私は、未だに頭を抱えて蹲っているレミオロッコに視線を向けます。
「うぅぅ……もう、恫喝したりしません。だから食べないで~……」
なにか、うなされるように何かブツブツと呟いていますね。
さて……時間も無いですし、どうしたものでしょうか……。