【第15話:いじられキャラ】
「ちょ、ちょっと叔父さん!? 確かになんでも作れるんだけど、既に存在するモノを作るのには能力の効果が乗らないから、あまり商売の役に立たないわよ! なんか文句ある! 文句あるならシメるわよ!」
え? 文句なんてとんでもない。
もしかしてこの子、物凄い拾い物なんじゃ?
私には前世の色々な知識があるし、この世界の既製品などに頼らなくても、いくらでも新しい商品のアイデアが思いつくはず! 思いつくよね? 私?
「凄いじゃない! レミオロッコ! うちの牧場で働いてみない!? いえ! 絶対に働くべきよ! そうしなさい!」
「え? え? な、なによ?」
人見知りするなら押しに弱いはず。
いえ、弱いかどうか知らないけど、絶対に逃がさないわ! 押して通るわ!
「なによ? じゃないわ! 私の所に来なさい! きっと後悔させないわ!」
「え? ちょ、そんなこと急に言われても……」
「嬢ちゃん、本当に良いのか? 嬢ちゃんが勝手に決めてしまうのは不味いんじゃないのか?」
「大丈夫です! 両親は物心ついた時にはもう亡くなっていましたし、育ててくれた祖父も半年ほど前に亡くなって、牧場は今、私一人でやっていますから!」
祖父が死んだのは今でも悲しい気持ちはあるけど、両親の記憶はないですし、元々ボッチが好きなので、辛さとかは別にないのよね。
でも、私の生い立ちを聞いた二人は、何だか過剰に反応してしまいました。
「それは何とも……すまぬことを聞いたな。しかし、そう言う事なら……」
「うわぁぁぁぁん! あなた、頑張ったのね! 任せなさい! 私が雇われてあげるから! もう一人にさせないわ! わぁぁぁぁん!」
え? なに? なんでこの子号泣してるの?
なんで、拳握り締めて、力強い目でこっちを見つめているの?
まぁでも、これで……万能職人ゲットだわ!
◆
その後、レミオロッコの叔父さんの承諾も貰い、正式に契約を交わす事になった私たちは、そのまま一緒に牧場へと向かう事になった。
どうも叔父さんの方は、自分の仕事を放り出して奉公先を探し回っていたみたいで、一日でも早く仕事に戻りたいようです。
なので、ここで叔父さんともお別れという急展開になってしまいました。
ちなみに私も商業ギルドの会員になっているので、商業ギルドのギルドカードを使い、最低限の身分証明は済ませてあります。
「それじゃぁ、レミオロッコ。もう本当にこれが最後のチャンスなのじゃ。絶対に逃げ出す事は許さんからな。死ぬ気で頑張ってくるのじゃぞ?」
「うぅ……叔父さん、わかっているわよ! これ以上プレッシャーかけないで!?」
レミオロッコも覚悟を決めたようですが、ちょっと涙目です。
必死に強がっていて可愛いので、気付いてない振りをしてあげましょう。今は。
「それでは、嬢ちゃん……いや、キュッテ殿。レミオロッコを宜しく頼む。そして、ありがとう」
「いえ。こちらこそ。レミオロッコがうちに来てくれるのは、私も凄く助かりますから!」
こうして、叔父さんと別れた私たちは、二人きり……いいえ、二人と一匹になったのでした。
「それでキュッテ、あなたの牧場へはどうやって行くの? 馬車か何かでこの街まで来たの?」
レミオロッコは、きっとこの街『クーヘン』の周りには田園地帯が広がっており、牧場は近くに存在しない事を知っているのでしょう。
だから、私がこの街まで、馬車か馬で来ていると思っても不思議ではありません。
「馬車は置いてきているわ。まぁそもそも、うちの牧場には馬はいないけどね」
馬車は羊に牽かせていたしね。
「え? 馬車は置いて来ていて、馬もいない? どうやってこの街まで来たの? ま、まさか歩いて……?」
隣街まで歩いて旅する人もそれなりに存在すると思いますが、私は一〇歳の女の子。
だからレミオロッコは、歩いてきたのかと驚いて聞き返してきたのだと思いますが、そうではないと返します。
「違うわ。ちゃんと紹介してなかったわね。うちの牧羊犬のフィナンシェよ。フィナンシェ挨拶をなさい」
「「がぅ!」」
「え? あ、はい。フィナンシェちゃん? よろしくね。って、珍しいわね。可愛らしい子だけど、こんな犬の魔物なんて初めて見たわ」
この世界には、犬の魔物が多数存在しています。
ケルベロス以外では、オルトロスやヘルハウンド、グリーンドッグ、キラーハウンドなどが有名でしょうか?
ケルベロスもオルトロスも、この世界では二つ頭の犬の魔物なのでややこしいのですが、オルトロスはケルベロス程大きくなく、ブレスも吐けないので、間違える事はないそうです。
魔物については、牧場を守る上で必要だからと祖父にいろいろ習ったので、多少は詳しいのよね。
「まぁこの子は、かなり珍しい魔物だから、普通は見た事ないと思うわ」
「へ~、そうなのね。それで、この子のことはわかったけど、街へはどうやってきたの? あなたの牧場って乗合馬車とかで行ける場所にあるの?」
馬を所持していない人のこの世界での一般的な移動手段が乗合馬車です。
ですが、勿論私は乗合馬車で来たわけではないですし、そもそも私の牧場には乗合馬車で行く事はできません。
「何言っているのよ? 私はこの子に乗って来たのよ」
「え? あなたねぇ! こんな小さい子の上に乗って来たの!? もしかしたら魔物だから力が強いのかもしれないけど、可哀そうじゃない!? シメるぞ!」
レミオロッコって怖いのか優しいのかよくわからないわね……。
「慌てないで。この子、大きくなれるのよ。まぁそれは後で見せるから。それより、ちょっと買い物して帰りたいの。私じゃわからないから、必要な材料をレミオロッコが選んでくれない?」
「お、大きくなれる? それなら大丈夫なのかな? ま、まぁいいわ。それで何の材料を買うの?」
「家よ」
「……聞き間違えかしら? いま家って聞こえたのだけど?」
「聞き間違えじゃないわ。家の材料を買って帰りたいの」
「あなた、何を考えているの? 家の材料なんて馬車も無いのに持って帰れるわけないじゃない! おちょくってるの!? あぁん!?」
なんかレミオロッコにも慣れてきて、怖くなくなってきたわね。むしろ面白くなってきたわ。案外レミオロッコっていじられキャラの素質があるんじゃないかしら?
「持って帰れるから買って帰るって言ったのよ。あぁん?」
「凄み方がなってないわよ! じゃなくて、どういう意味よ!?」
なんか面白そうだから、説明せずに黙っておいて実際に運ぶところを見て貰おう。
「まぁ見ればわかるから、とにかく木工所に行きましょ」
昔、祖父に連れられて一度だけ行った事があるから、木工所の場所はだいたい把握しています。
何か後ろで、レミオロッコがまだ何か言っているようだけど、もうそのまま向かっちゃいましょう。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! シメるぞ! ね、ねぇ! ちょっと待ってってば~!」
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