0-プロローグ
前に書いてたものも完結させずに序盤で手が止まっているダメ書き手なので、あまり期待せず温い目で見ていただけるとありがたいです
希望の大学には推薦入学が決まり、ちょっと良いなと思ってた男子に告白され、バレンタインに返事をしようとチョコレートケーキを作っていた
順風満帆幸せいっぱいの女子高生だった主人公、ユイ。
「ふんふん♪幸せすぎてこわいなぁ~」
鼻歌混じりにメレンゲを作っていたユイだが、彼女は漠然とした不安を感じていた。
そしてその予感は当たり、突然何の前触れもなく呼吸ができなくなった彼女は、ハンパに固まったメレンゲをボールごとぶちまけながら、闇の中へと意識を飛ばしていった。
目が覚めて起き上がると、目の前に男が居た。濡羽色の美しい黒髪は腰に届きそうなほど長く、すらりと長い指はきっちりと添えられている。
容姿が分からないのは、ひとえに男がこちらに向けて土下座待機しているからだ。心なしか肩が震えている。
「申し訳ございまぜんでじだぁぁぁぁっ!!!」
こちらが気づいたタイミングで顔を上げた男は、涙と鼻水を滝のように垂れ流しながらの第一声に謝罪を叫んだ。
恐らくイケメンであろう顔が台無しもいいところである。ルビーのような赤い目が、泣きはらしたせいでより一層赤く染まり、いっそ痛々しい。
曰く、彼は人間たちが死神と呼んでいる者たちの中でもそれなりに上位の存在であり部下が多数居るが、その部下が手違いを起こしたせいで、100歳の大往生をする予定だったお婆さんとユイの寿命が入れ替わってしまった。
その結果ユイは奇病による突然死をすることになり、今は魂を彼が神域にて匿っている状態。なお、お婆さんの寿命は延びたものの本人の体が持たなくて大した延命にはならなかった。
よってユイは完全なる無駄死にであり、代表で男が謝罪と詫びにきた、ということだった。
「何かおかしいと思ってたんだよね。私があんなに幸せな人生送れるわけないもん」
ユイは自分の不運体質を理解していた。
当たり前のように鳥にフンを落とされるところから始まり、毒親によるネグレクトの影響で身長は低め、春先には3日に一度は変質者と遭遇し、見ず知らずの相手にストーカー行為されること十数回、学校行事の前に病気や事故に見舞われ自宅待機etc…
そんな人生であったから、ここ最近の幸福にかなりビクビクしていたのだ。
流石に死ぬとは思ってなかったが、ユイは一人納得していた。
それよりも、軽い感じで「やらかした部下は処分しときました」って言う死神がやべぇなって思うユイだった。処分(物理)。
他者の命を預かるのは責任重大ではあるけど、1ミス=死って結構ブラックなお仕事ですね?
「ところで、すでにユイさんのお葬式は終了していますが、現世の状況を確認しますか?」
死神なりの優しさだったが、ユイは悩んだ末断った。
不運続きとは言っても、そんな人生を精一杯生きていたつもりだったし、だからこそ未練がありすぎて、確認なんかしたら生き返りたくて仕方がなくなりそうだったからだ。
生き返るという選択があるなら最初から死神がそうしているだろうし、そうでないならつまりそういうことなんだろう。
だからこのまま次を見据えるべきだと思い、両親に代わり世話してくれた近所の人や、友人、告白してくれた彼に心の中で謝罪するに留めた。
死神が言うには、魂の在り方が歪んでしまった影響で、このまま輪廻に戻すのが難しく、一度別の世界の生を経由してほしいということだった。
その際、記憶の有無や生まれる環境を決められると言われたので、流行(?)の異世界転生に沈んでいたユイの心はちょっと浮上した。
しかしそこまで細かく希望があるわけでもなかったため、魔法のある世界で、記憶はそのまま、お金に困らずそこそこの自由があれば、後は特に望まないとし、すぐに転生していった。
「ありがとう死神さん」
「レイジェルドと呼んでください。今から貴方を送る世界で、神の一柱を務めております。またお会いすることもありましょう」
「はい、レイジェルドさん。では行ってきます!」
「貴女の次なる人生に、幸多からんことを」
死神は侮っていたし、彼女は忘れていた。
彼女が世界に定められた不運の持ち主であることを。
次に目が覚めた時、彼女、もとい彼は、たくさんの白い花が敷き詰められた棺桶の中に居た。
『転生したら自分の葬式中だった件について…』
起き上がったユイを見て周囲の人間たちは大パニック。
日本語ではない言語で何事か喋り、こちらに武器を向けている者も居る。どうやらゾンビ的なナニカと思われているらしいが、訂正しようにも言葉が通じない。
たまに体がホワッと光る魔法?をかけられたり、水をぶっかけられたりしているが、こっちが平然としているところを見て魔法使いっぽい爺さんが目玉こぼれ出るんじゃないかというくらい見開いていた。
多分「浄化魔法」とか「聖水」とかの類なんだろうが、残念こっちはナマモノちゃんなので効きません!
かと言って純粋な武力には勝てず、そうこうしている間に屈強な男たちに取り押さえられたユイ。
手足と首に不思議な模様の入った金属の輪を取り付けられると、そのまま牢屋のような場所に放り込まれた。
見張りが一人付いているだけで人の気配はほぼ無く、その見張りも話しかけたとて無反応(そもそも言葉が通じないので意味は無いのだが)なので、薄暗くカビ臭い空間でユイは孤独と戦う羽目になった。
前世でも理不尽な環境に置かれることの多かったユイは、悲しいかな現状に対する慣れも早かった。一応食事は最低限貰えるので、転生してすぐに死ぬようなことはないだろう。それでも一人も言葉が通じないことからくる寂しさは堪える。
(でも、使用言語が同じでも話が通じない両親みたいな奴も存在するから、アレよりはマシなのかな)
などと、人が聞いたら泣いちゃいそうな悲しい自虐ネタを披露する程度には余裕はあるのだが。
ユイは気を紛らわすために自分の状況を確認した。
まず現世の体。死神レイジェルドから転生時のプレゼンを聞いた時、ニュアンスで「赤ん坊時代から開始」と捉えていたのだが、今のユイはどう見ても赤ん坊ではない。
発育状況にもよるだろうが、最低でも8、いって12歳くらいに見えた。
残念ながら牢屋内に鏡は無いので、容姿については分からない。とりあえず男の子の体だとは理解している。
性別が変わったことには特に文句はないが、途中から記憶が戻るパターンならそうと言って欲しかった。
あと、葬式中に記憶が戻ったのもおかしな話だと思う。葬式が開かれるくらいなのだから、ユイはなんらかの原因があって一度死んだと思われ、そこから一定期間経過していたはずだ。
そんなに長い間仮死状態になるものなんだろうか?医学的知識はそこまで持っていないので何とも言えないが、かなり低い確率だとは思う。
もしかして、それほどの極限状態を経ることで、やっと記憶が戻ったのか?記憶を取り戻すためのリスク高すぎでは?
そもそも、記憶が戻ったら戻ったで、それまでの記憶が綺麗サッパリ失われているのも辛いところだ。
今まで自分が何をしていたのか全く覚えてない。ユイ的には、死神と別れて目を閉じて、開けたら即☆棺桶!くらいのノリだったので、そこに至るまでの事柄がまるで記憶に存在していない。
今までの自分は相手と同じ言語で喋れていたのだろうか?だとしたらせめて言語の記憶だけでも帰ってきて欲しい。
牢屋入りしてから五日。現状を好転する機会に恵まれないまま云々唸っているユイの元に、いかにも貴族然とした高価そうな服を着た美中年がやってきた。
『わたし の むすこ。 なぜ かみのことば で はなす?』
たどたどしい日本語で語り掛けられ驚いたものの、そのおかげでユイは目の前の男性が自分の父親だと理解できた。
「かみのことば」とはもしかして「神の言葉」だろうか?とにかく、メジャーではないが存在する言語だったということだ。時折ユイが見張りに声をかけていたのだが、その時の単語を拾ってユイが何語で話しているか分かったのかもしれない。
これでコミュニケーションが取れる!とユイは喜んだ。しかし光明が差したと思ったのも束の間、その父親から残酷な事実を突きつけられる。
『わたし は ねがう。 おまえ の し を。 くに の ため に しね ヴェルリオ』
これは、不運を不運EXに進化させて転生してしまったユイことヴェルリオが、泣きそうになりながら必死に生き抜き、
ユイの転生時に前回とは別の部下がやらかした手違いに気づいたレイジェルドが、罪悪感を拗らせた結果過保護を爆発させ、
面白そうだからと他の神まで絡んできて話がどんどん大事になり、やっぱりヴェルリオが泣きそうになる物語。
主人公がとことん理不尽な目に遭うお話ですが、基本ギャグなので軽い気持ちで読んでください。