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第1話 犯人をただちに捕まえ、そのものの図書館利用カードを没収しろ!

 賀比古は王都とはほどよい距離にある自治領で、賀々沼という広い湖の一部を領地として持ち、古来は文人・芸術家が住まいを持った風光明媚な土地である。

 賀比古領民図書館長のミノリは、その職について5年ほどになるハーフエルフだった。

 ヒトよりは長く生きる宿命として、ミノリの齢はヒトならば初老にさしかかったあたりの熟練者にもかかわらず、ヒトに当てはめるなら幼女体、異国の言葉なら小学4年生ぐらいの外形をしていた。

 賀々沼を見下ろす3階建て複合施設の一角に図書館はあり、同じ施設の中には会議室や集会所、そして最上階には浴槽の広い公衆浴場があった。

 まだ一般公開前の、誰もいない浴場でミノリはすこし緑色の混じった長い髪を洗い、自分の腰に手を当てて、相変わらず美人、というよりかわいい私は素晴らしい、と、思いながら、それでももう少し、あちこちに凹凸が欲しいところだ、とも思った。

 それにしても、と、浴槽にゆったりとその身を、なめくじのようにたゆたわせながら、ミノリは昨日も相談に訪れた老人のことを思った。歴戦の勇士のようにも、一切を超越した道士のようにも見えるその老人の瞳は、ドラゴン族の血を引く者特有の金色で、悲しみと哀れみのこもった感情に満ちていた。

 いつになったらあの男は、ライトノベルなどという、女子の裸が口絵に入っている低俗な読み物を、この図書館に置いて欲しい、というのを諦めてくれるのだろうか。女性を性的に搾取する、みだらな肉体として描かれる挿絵が入ったものが、この図書館にふさわしいものと言えるのだろうか。

     *

 昨日、老人は一人の若者をともなって説明に現れた。ミノリは配下の、ライトノベルを勉強中である、ヒト族の女子二人をともなってその話を聞いた。

「今日はどこの図書館でも置かれ、どこの書店でも売られている、青少年の間ではベストセラーであるシリーズの1冊をお持ちしました」と、老人はミノリに手品師のような口調で話しはじめた。

「これはシリーズの5巻で、現在は14巻まで刊行されています。口絵はこんな感じです」

 ミノリは老人が広げた口絵を目にした。

 複数の女性が入浴をしている。

 自分の目の錯覚ではないか、とミノリは驚愕した。

「さらに口絵の裏はこうです」

 金色の髪をしたエルフの女性が全裸で、股間を丸出しにしてこっちを向いて立っている。

 この老人、頭がおかしいのではないか、と、さらにミノリは思った。

 蔵書として持つ図書館とその館長も、その領民もおかしい。

 ミノリの配下の女子も、複雑な顔をしていた。

 老人の連れの若者は、にやにやして、性的欲望を隠さないかのような目で私たちを見ている、と、ミノリは思った。

「またしばらくしたら来ますので、本の感想を聞かせてください。ちゃんと読んでね。純真な若者と、それを支える女神と、さまざまな種族による、異世界での成長の物語です」

 老人はシリーズ最新刊までの14冊と、数冊の外伝をミノリたちに渡した。

 本の題名は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』。

 なんだこれは。出会い系の本なのか。ダンジョンというのは男女の不純交際の暗喩なのか。

     *

 突然慌ただしく出入り口の戸が開け締めされ、ひとりの、小学2年生ぐらいにしか見えないエルフ族の図書館員が駆け込んできた。

「謀反です。館長。本日早朝、図書館員ひとりが拉致されました。図書館教会より視察の勅使を接待する役の職員です。犯行声明によると、犯人はライトノベル過激派だ、ということです」

 いい感じにゆだっていたミノリは、その知らせに頭に血がのぼり、浴槽の中で全裸で立ち上がると、幼女を指さして言った。

「犯人をただちに捕まえ、そのものの図書館利用カードを没収しろ! いやそれでは手ぬるい。領民権剥奪である!」

 これがライトノベルなら、ぜひ口絵に入れたいような場面である、と、作者は思った。


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