第四の事件 『中堅アバター連続引退事件』 その1
こんにちは。いや、こんばんはかな?
まずは自己紹介といこう。
私の名前は迷路真酔と書いて『めいろ まよい』だ。
職業は一応探偵をしているのだが、名前の通りヘボ探偵でね。
ナロウチューブというバーチャルな空間に事務所を構えてこうして駄弁っているという訳だ。
一応、このチャンネルではバーチャル探偵よろしく華麗に事件を解決……と行きたい所なのだが、こんなヘボ探偵の所に来る依頼を察してくれるとありがたいのだが。
それでも事件らしいものは起こり、それを解決した話を忘備録代わりに語っていこうかなと思っている。
見ている皆様は紅茶とお菓子でも持って気楽にくつろいでくれるとありがたい。
まぁ、所詮ヘボ探偵の事件簿だ。
山もなく、谷もない、ごく普通の人間らしい物語でしかないから、つまらないと思ったら遠慮なくブラウザを落としてくれるとありがたい。
それでも見てもらって、続きをという奇特な方は評価の方をよろしく頼む。
あ、一番大事なことを言い忘れていたな。
この物語はフィクションです。
さてと、それでは第四回の事件を語るとしようか。
我々バーチャルな存在は死ににくい。
何しろ体は基本的に残るのだが、問題は魂である。
こちらの方は人間なので、色々な理由で魂がその体から離れる事がよくある。
そうなるとかわいそうなのが体の方で、飽きた人形よろしく電子の海で永遠に出番を待ちわびる訳で……
いずれこの問題は大きくなると思うが、今回の話はそんな話である。
「バーチャルアバター大手事務所の中堅が失踪…失礼。引退……ねぇ……」
その依頼が来たのは、あるバーチャルアバター大手事務所の引退に関わる事だった。
大手事務所の中堅だから登録者数も万を超えており、派手さはないが地味と埋もれていない独特の売りをしていた中堅の突然の引退。
問題だったのがその引退前から魂の方と連絡が取れなくなっており、仕方なしという形で突然の引退発表に界隈がざわついていた時である。
「えぇ、うちとしてもかなり困っておりまして。
どうにかして魂の方と連絡を取りたいんですよ」
「ふむ……しかし、どうして私なんかに依頼を?」
そう聞くと依頼主である中堅のマネージャーは少し困った顔をしながらこう答えてきた。
「いえ、正直に申しますとあなたしか心当たりがなく……いえ、決してあなたが信用ならないとかそういうことではなくですね!」
慌てて弁明するマネージャーを手で制止しながら私は内心苦笑するしかない。
バーチャル業界はあまりにも急に、果てしなく急拡大した結果、専門職が決定的に不足していた。
結果、探偵とバーチャルアバターという二足の草鞋を履く私に目をつけたと。
おそらく、この私のバーベラの花飾りの事件解決を何処からか聞いて依頼をしてきたのだろう。
「わかったよ。とりあえず引き受けようじゃないか」
そう言って、依頼を受けることにした。
そして数日後、この事件の奇妙さに気づく。
「ん?
何で事務所側がこの中堅の個人データを把握していないんだ???」
この中堅はこの事務所の創業メンバーの一人で、それゆえにまだこの業界が固まる前に入った事もあってこの手の情報把握を事務所側はやっていなかった。
しかも、元が個人勢で連絡をネット上でやっていたから誰もあっていないという徹底ぶり。
おまけに収益化もしておらず、コラボや箱内の潤滑油として動いて箱のグッズの売り上貢献という形で動いていたので、こういう失踪に近い形になると箱側は何も動けなくなったという訳で。
「……どうも表に出すと色々まずい職に就いていたとは聞いています」
業界あるあるで公務員とかのお堅い職業の人が趣味やストレス発散でこの業界に飛び込んでブレイク。
普通だったら売れたのを機にお堅い職業の方を辞めるのだが、辞めずにそのまま続ける人もいる。
業界が固まりつつある今、そのあたりを箱側も何とかしようとしていた矢先の出来事で、事務所としても困惑しているというのが現状だそうだ。
「まぁ、魂さえ見つかれば後はこっちの仕事だ。
すぐに見つかるさ」
この時はそう思っていた。
それから数日経ったある日の事だ。
いつも通りナロウチューブを見ながら優雅なティータイムを過ごしていると、界隈を騒がすニュースがネットに飛び込んできた。
別の大手事務所の中堅が長期休養を発表。
更に別の大手事務所の中堅も体調不良を理由に休養を発表したのである。
これらの大手事務所の中堅の引退や長期休養に界隈は大きくなったこの業界のふるい落としが始まったと騒いでいたが、依頼を受けている私からするならば見方も違ってくる。
引退、長期休養、体調不良と言葉は違うが、詰まる所この三人はバーチャルの世界から消えたのだ。
失踪事件としてもいいし、このまま出て来れないのならばバーチャルなだけに誘拐事件というより殺人事件と言ってもいいだろう。
第一の事件と第二の事件が同じならば偶然かもしれない。
第二の事件と第三の事件が同じなら怪しいけど偶然の可能性もない訳ではない。
だが、第一の事件と第二の事件と第三の事件が同じというのならば、それで偶然を疑わなければ探偵ではない。
という所で、今回は話をここまでにさせてもらおう。
よくある引きという奴だな。
推理小説みたいだろう?
そんなに見る人も居ないだろうが、ここまで見てくれた人で面白いと思ったならば、評価とブックマークをよろしく頼むよ。
では諸君。
次があるかわからないけど、この電脳空間のどこかで会えたならまた面白くもない事件を語るとしよう。