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第二の事件 『裏切りの方程式』

 こんにちは。いや、こんばんはかな?

 まずは自己紹介といこう。

 私の名前は迷路真酔と書いて『めいろ まよい』だ。

 職業は一応探偵をしているのだが、名前の通りヘボ探偵でね。

 ナロウチューブというバーチャルな空間に事務所を構えてこうして駄弁っているという訳だ。

 一応、このチャンネルではバーチャル探偵よろしく華麗に事件を解決……と行きたい所なのだが、こんなヘボ探偵の所に来る依頼を察してくれるとありがたいのだが。

 それでも事件らしいものは起こり、それを解決した話を忘備録代わりに語っていこうかなと思っている。

 見ている皆様は紅茶とお菓子でも持って気楽にくつろいでくれるとありがたい。

 まぁ、所詮ヘボ探偵の事件簿だ。

 山もなく、谷もない、ごく普通の人間らしい物語でしかないから、つまらないと思ったら遠慮なくブラウザを落としてくれるとありがたい。

 それでも見てもらって、続きをという奇特な方は評価の方をよろしく頼む。

 あ、一番大事なことを言い忘れていたな。



 この物語はフィクションです。



 さてと、それでは第二回の事件を語るとしようか。




 『汝は人狼なりや?』というゲームはご存知かな?

 村人と人狼側に分かれて殺したり吊るしたりするゲームなのだが、バーチャル空間では多人数パーティープレイとして色々な亜種ゲームが出回っている。

 今回はそれに参加した時の話をしよう。

 元々バーチャルアバターは有名になろうとしないのならば、こういう使い方をするものだし。

 ただ、今回参加したのは、有名バーチャルアイドルたちがそのゲームをPRする為の練習ゲームでね。

 探偵だからと請われて参加せざるを得なかったんだよ。

 そこの事務所の新人に私はなんでかコネを持っていたからね。

 で、バーチャルアイドルたちを前に、ヘボ探偵がゲームのアドバイスをする事になったという訳だ。


「まずは、この手のゲームの基本から確認していきましょう。

 皆さん、手元にメモ帳は用意していますね。

 ならこう書いてください。

 『2/8』と」


「せんせー。

 この数字は何ですか?」


 こちらの意図を察してか、先輩らしいバーチャルアイドルさんが私に乗ってくれるのでありがたかった。

 こういう時の探偵には助手が必要なのだ。


「このゲームにおける全体人数と狼の数です。

 ゲームシステムにふれる前に、この数字が持つ意味をお教えしましょう」


 ゲームは真夏の島のリゾート地。

 船が壊れて嵐が来る前にこの島から出ないといけないのだけど、その中に銀行強盗たちが紛れ込んでいた。

 銀行強盗たちは、自分たちが死んだように見せかけて捜査の手を躱すために遭難者全員の殺害を目指すというのがこのゲームのストーリー。

 そのため、役職が遭難者と反逆者の二つに分かれる。

 遭難者が村人、反逆者が狼という訳だ。


「この手のゲームで負けないコツは反逆者側がどのタイミングで裏切るかで、そのタイミングを作らないようにする為に必要なんですよ。

 このゲームも、他のゲームと同じく食料を集めたり、救助信号を出すために色々したりとかで、基本バラバラに行動させられるようになっています。

 単独行動では襲われた時に情報が他の遭難者に届かないことがある。

 ある程度の複数のグループに分かれて行動するようにならざるを得ない。

 ここで、この数字が意味を持つ事になります」


 わざと虚空に2/8の数字を浮かべる。

 バーチャルだとこういうこともできる。


「二人組だと、狼だけのパーティーが発生する可能性がある。

 三人組だと、村1狼2というパーティーができて、村人が殺しやすい状況が生まれる。

 そうなると、四人組2つという選択になるけど、それで色々な作業が間に合うか……というのが、ゲーム攻略の鍵です」


「なるほど!

 三人組を作ろうとした場合、そういう危険があるんですね!!」


 コネのある新人さんが感嘆の声をあげる。

 もちろんゲーム側もそれを把握していて、わざと三人揃わないと開かないアイテムボックス等を置いてあるので実ににくい。


「次に勝利条件を書いておきましょう」


「?

 脱出が目的じゃないのですか?」


 別のアイドルさんが私に声をかける。

 後で聞いたら、私を誘った新人と仲良しさんらしい。


「我々はそれでいいですよ。

 狼側は勝利条件が少し違っていて、狼側の基本勝利の条件は、『隠したお金を持って島から脱出する』なんです」


 このゲームうまいなと思ったのが、ゲーム終了後に狼を吊るすシーンが発生するからだ。

 ゲーム終了後に警察が救助者全員に『あの島強盗居たけど知らない?』と尋ねるわけだ。

 で、救助された人たちは『あの人です!』と指名する訳で、もちろん死者にはこの手のシーンは発生しない。

 だから、狼側はこのシーンを回避する為に遭難者を殺す必要が出てくる訳だ。

 また、狼側が隠した現金を村側が持ち逃げして救助された場合、その現金はその村の物になる上『犯人はあの死体です!』と言い逃れができるので、村人側にも狼を積極的に殺す理由となっているのがにくらしい。


「という事は、お金を諦めて救助された上に、吊られなかった狼さんは?」


「一応勝利扱いなんですよね。

 少なくとも銀行強盗の犯人はもう死んでるという形になっているので。

 このゲーム、狼側が銀行強盗設定なので、大金をこの島に持ち運んでいるんですよ。

 つまり、村側はその大金を狼側から横取りして島を逃げ出すのが可能だし、村側を一人その大金の一部を渡して買収し狂人こと狼側に寝返らせることも可能です。

 だからこそ、最初のこの数字と勝利条件を頭に叩き込んてください。

 疑心暗鬼に陥った時、確定の情報まで戻るのは、推理の鉄則です」


「「「「「「「はーい♪」」」」」」」


「じゃあ、一回戦を始める前に提案なのですが、この一回戦は村狼関係なく、プレイヤー全員脱出に全力をしてみませんか?」


「「「「「「「?」」」」」」」


 首をかしげるバーチャルアイドルたちを前に、私は苦笑してその理由を話す。


「この手のゲームは、全員が協力しないとクリアできないような難易度になっているからですよ。

 私達全員初心者ですから、それでも遭難しかねませんよ」


 実際、そのとおりになった。

 ダイジェストで、その時の様子をお見せしよう。



「サメがぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 サメが襲ってくるのぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「食べ物何処?

 医薬品何処?

 み、水……」


「なるほど。

 村側の人数が少なくなった時の救済として、無線機だけではなく狼煙をあげるというがある訳だ……」


「狼用の隠しボートはっけーん!

 これで最悪三人は逃げられるって訳ね」


「竜巻でサメが飛んで襲ってくるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「大嵐が来る!

 この大嵐が来たら、救助の船が出港できないわよ!!」


 八人全員協力プレイなのに、村側全員脱出が成功したのは大嵐がやってくる30秒前というギリギリさ。

 全員初心者プレイはこれがあるから、大体全滅で終わるのだ。

 全員脱出の後、強盗は誰だという犯人探しのシーンが発生する。

 八人全員が生き残ったので、ここから二人を選ぶ訳だが……


「「私じゃないのにぃぃぃぃぃぃ!!!」」


 めでたく、無実の遭難者二人が銀行強盗として捕まりましたとさ。

 この手のゲームあるあるだが、狼側二人は秘密で会話ができるのだ。

 だから、二人が手を組んで投票すれば、一人は助かる可能性があるという訳。

 あと一人は運だったが、運良く狼は生き延びることができた。

 なお、現金はアイテム欄にあるので、救助時にプレイヤーは見ることができる。

 ついでにいうと、狼側が用意したボートで逃亡した場合、救助された訳ではないので捕まらないという訳だ。



 という訳で、次が本番である。


 さあ。

 迷探偵の面白くもない事件の解決を語ろう。



 今回、私の役職は遭難者だった。

 プレイヤーは八人。

 遭難者が六人で強盗が二人。

 この八人が南の島に閉じ込められ、大嵐が来る前に脱出するのがゲームの趣旨である。


「じゃあ、二組に分かれて脱出を目指そうか」


「待って!

 それだと、食料と水の確保が厳しくなるわ。

 嫌だと思うけど、3:3:2で分かれない?」


 その声は先輩アイドルさんからだった。

 最初の話から考えると、狼候補となりえるのだが……


「前回八人で協力してギリギリだったし、私は賛成かな?」


 おっ。

 私の知り合いの新人さんが積極的に賛同したぞ。

 それならば、手を打っておくか。


「じゃあ、先輩さんと新人さんが別々に行動してくれるなら私は賛成しますよ」


 私の意図に、新人の友人が気づく。

 こういう理詰めの話は疑心暗鬼が広がらない最初ならではである。


「あー。

 先輩と新人さんが狼の可能性を疑っているんですね」


「そのとおり。

 狼二人が連帯するのを避ける措置と思ってくれたまえ」


「探偵さんの最初のレクチャーだと、三人だと怖いんですよね。

 私もそれに賛成しまーす」


 友人がそういうと流れもそうなるわけで。

 3:3:2のパーティはこんな感じとなった。


3 探偵 先輩

3 新人

2 友人


 そんな感じでゲームは続く。

 食料を集め、水を確保し、サメの攻撃を回避しながら、脱出手段を探す私達に第一の殺人が発生したのはそんなときだった。


「○○さんが狼よ!」


 友人が叫び、集まってみると、友人が血まみれのバットを持って疲れ果てていた。

 その下には、○○さんが血の海に沈んでいた。


「襲ってきて……もみ合いになって……返り討ちにして……」


 新人が友人の肩を抱いて慰める。

 ゲームとは言え、アイドル同士のこの手の絡みは実に尊い。

 おっと。話がそれた。


「真偽はひとまずおいておいて、捜索を続けましょう!

 このままだと、大嵐が来る前に逃げられなくなるわ!!」


 先輩の声で探索は続く。

 一人の死亡で、パーティーはこういう形になった。


3 探偵 先輩

2 新人

2 友人


「で、探偵さんはどう考えています?」


 先輩が話を振ってくる。

 彼女が黒か白か分からないので、私はそういう対応をしながら考えを口に出す。


「そうだね。

 友人の言葉が真実ならば、狼は一人しか居ない事になるから狂人を作りにかかるだろうね。

 逆に、友人が狼ならば、今の所は動こうとはしないだろうね」


「その理由は?」


「狼も逃げるためにはボートを探すなり、隠した現金を回収するなりで人手が必要だからさ。

 むしろ、今、殺した事で村側に警戒感が走ったから、この殺人は悪手だろうな」


 何か言おうとした時に、もうもう一人から声があがる。

 それが、この事件の決定的な転換点となった。


「見て!

 お金が!お金が入ってる!!

 私達大金持ちになっちゃった!!!」


 その瞬間がとても長く感じた。

 五秒?十秒?

 警戒していた先輩は動かなかった。


「殺すなら今ですよ?」

「村ですからそんな事しませんよ」


 警戒を解く。

 そのタイミングで次の犠牲者が出たのは、このゲームの容赦なさと神の采配を信じたくなる。


「誰か来て!

 ××さんがサメに食べられて……」


 新人の声に私達は現金をそのままにして現場に駆ける。

 その現場は海岸で、××さんの血と遠くに食べたらしいサメがまだ遊弋していた。

 二人の犠牲者が出た。

 それは、この犠牲者を犯人に仕立て上げて、狼がのうのうと逃げ出せることを意味する。

 ここで問題なのは、見つかった現金である。

 現金で狂人にできるのは一人。

 救助後の投票で狼と狂人が結託して犠牲者になすりつけても、村側が狼を指名すると一人犠牲になりかねない。

 現金が見つかった以上、狼側は更に殺害を進める可能性があった。

 そして気づく。

 目を離したらいけない人間から視線を離してしまった事に。


「あれ?

 探偵さんと一緒だった先輩と△△さんが居ないけど?」


 しまった!!!!!


 慌てて現金が見つかった場所に戻ろうとすると、後ろから心臓を一突きされた△△さんの死体が発見された。

 先輩と現金は案の定消えていた。


「これで、先輩が狼と確定しましたね」


 新人の声が震えている。

 残り五人。

 狼は確定で一人。

 最悪のケースとして、友人が狼として中に狂人が作られていたならば、既に人数は逆転している。


「あれ?

 どうしてみんな来ないんだろう?」


 あ!?


 この時、私は詰んだ事を悟った。

 虚構の南の島の空はまだ青かった。

 探偵らしく犯人を指摘しよう。


「君が狂人だったという訳だ」


「はい。正解です」


 多分、先輩と友人が狼。

 第一の殺人が起こった時、新人が友人に駆け寄って抱いて慰めたが、その時に『狂人にならないか?』と取引を持ちかけた訳だ。


「その時は現金は見つかっていなかった。

 にもかかわらず、君は友人を狼だと告発しなかった。

 何故だ?」


「簡単な事ですよ。

 最初の殺人の時、友人は犯人逃亡用のボートを見つけたんですよ」


 ああ。

 その可能性は失念していた。

 三人までなら逃げられることが確定している上に、隠していた現金まで回収できた。

 だったら、完全勝利を目指したくなる訳だ。


「そして、ボートで逃亡だと全員死んだことになって、強盗事件は闇の中。

 私はお金がもらえますし……ね♪」


 新人の手には拳銃。

 私の手には何もない。


「なんで私がヘボ探偵を自認しているか知っているかい?」

「どうしてです?」


 私は嗤う。

 彼女も笑う。


「こういう時に、逃げられないからさ」

「なるほど」


 バンッ!



「「「「「「「「おつかれさまでした~!!!」」」」」」」」


 ゲーム終了。

 見事狼側の完全勝利と相成った。


「探偵さん。

 見事な探偵でしたよ」


 先輩が私を褒めるが、私からすれば褒め言葉というより煽られているとしか聞こえない。

 新人が私に向かって楽しそうに告げる。


「生配信も高評価と視聴がいいみたいですし、探偵さんこのままデビューしませんか?」


「え!?

 配信???

 してたの!?!?」


 私のびっくり声に、友人が微笑む。

 こいつら、知っていたな。


「ええ。

 練習とはいえ、録画していたら面白くなるかなって。

 実際、面白くなったからゲリラ生放送に切り替えて」


 さすがバーチャルアイドル抜け目ないなぁ。

 私は精々ヘボ探偵で十分だ。



 これが私ことバーチャル探偵迷路真酔の第二回目の事件というわけだ。

 たいして面白くもない事件だったろう?

 これは一応忘備録というという事で語っているから、そんなに見る人も居ないだろうが、ここまで見てくれた人で面白いと思ったならば、評価とブックマークをよろしく頼むよ。



 では諸君。


 次があるかわからないけど、この電脳空間のどこかで会えたならまた面白くもない事件を語るとしよう。

やっていたゲーム

 『Project Winter』。

 別名雪山人狼。

 まんまは面白くないので、夏の孤島に舞台も変えてしかも狂人のシステムを追加してみた。

 こういうのは流行っている時に書きたいものである。

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