タイムトラベラー、困惑する
仕事が終わったのは夜の七時、祥子にとっては数年ぶりの時間外労働だった。帰り際に吉岡が「明日、祥子ちゃんと後藤君の歓迎会だから空けておいてね」と言って可愛らしくウインクをした。とはいえ空けるも何も、タイムトラベル二日目の祥子には会う人などいるはずがないのだが。
祥子は歓迎会という言葉に胸が温かくなった。人に歓迎されることなどいつぶりだろうか。しかし、それと同時に一つ気がかりなこともあった。
祥子が所属する、広告代理店「原広告社」のイベント部門は、クライアント相手という仕事の特性上、土日に休みが取れず、不定休であった。明後日が来てから初めての休みとなるのだが、問題はその日にちだった。
二〇一八年十一月二十七日――祥子の両親が初デートをした日だった。
母の古いアルバムを祥子は確認していたのだ。ついでにタイムトラベルに際しても持ってきた。
祥子は母親を救いたいという思いを、心の中では鎮めていた。だが、そうではなくともせめて一目見たいと思っていた。若き日の母を見たところで、懐かしみたいのか、赦されたいのか、よく分からないけれど。
両親はその日、みなとみらいでデートしていたようだった。祥子の住むアパートの最寄り駅からは電車で一時間だ。祥子は思案を巡らす。
「タイムトラベル、旅行なんだもん。観光くらいしなきゃ、ね」祥子は駅からアパートへの帰り道、誰に言うでもなく、星空に向かってそっと呟いた。




