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タイム・トラベル・パラドックス  作者: 岡田 希望
11/20

ニート、応募する

予定欄の真っ白なカレンダーが、自分を社会不適合者だと嘲笑うかのように見ている気がして、祥子は目を逸らした。「あの日」以来、祥子は仕事を辞めた。上司は気の毒そうに祥子を一瞥して、何も言わずに辞表を受け取った。以来、貯金を切り崩しながら、細々とした生活を送っている。噂というものは伝わるのが早いもので、祥子には会う友人もいなくなった。

 自業自得だと、祥子は思う。母を死に追いやったのはこの私なのだから。

 生涯独りで生きていくのだろうと、祥子は考えるようになっていた。母の人生を奪った代償だ。

 祥子は冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐと、一息で飲み干した。ふと思い立ち、メールをチェックする。

 迷惑メールの間に、一つ異質なメールを見つけた。差出人が「厚生労働省職業安定局」とある。タイトルは「タイムトラベル・インターン」。祥子はメールを開いた。

 「この度、厚労省主催でタイムトラベル・インターンを実施することとなりました。過去へと赴き、一ヶ月の職業体験を通じて、キャリアアップしてみませんか」

 以下、文章が続く。祥子の視線は「過去へと赴き」の一点しか捉えていなかった。

 過去、それはすなわち母が生きている時代のことではないか――祥子は職業体験のことなど目もくれず、申し込み手順に従って参加申し込みをした。

 母に会いたい。母を死ぬ運命から助けたい。祥子は、タイムトラベルに対する懸念やメールの不信感などは全く頭になかった。インターンによって自分が幸せになりたいなどという考えも、勿論一切浮かばなかった。

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