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タイム・トラベル・パラドックス  作者: 岡田 希望
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フリーター、意を決す

MBSラジオ短編賞にも掲載しています。

上記は字数制限により、前編のみの掲載ですが、こちらはフルバージョンとなります。

20XX年 11月15日


携帯電話の着信音が、枕もとから鼓膜を震わせる。

 後藤正治は短い呻き声を上げ、携帯を手に取った。こんな朝早くに誰だよと思いつつ画面を見ると、時刻はとうに十一時を回っており、電話は見たことのない番号からだった。

 正治はしばし思案した後、通話ボタンを押した。若い女の声だ。

 「厚生労働省職業安定局の村田と申します。後藤様のお電話で間違いないでしょうか」

 正治は一瞬訝りながら「はい、そうですが」と返事をした。

 「この度は厚労省主催のタイムトラベル・インターンへのお申込み、誠にありがとうございます。厳正なる審査の結果、後藤様は当選されましたのでお電話差し上げました」

 正治は頬をつねってみた。どうやら夢ではないようだ。

 タイムトラベル・インターン――ここでようやく正治は、半年前に出した職業訓練の申込書の存在を思い出した。

 タイムトラベルとは、すなわち過去と未来に行き来することである。この技術は、正治が子どもの頃に完成された。光より速い粒子の発見だか何だか、正治にはさっぱりであったが、アニメの世界が現実になったと当時世間は大騒ぎしていた。

 結局、元の世界に戻れない危険性があるとかで、一般向けには使用されないと法律で定められ、世間の関心はあまりなくなった。しかしここに来て何の狙いがあってか、厚労省主催でタイムトラベルを利用した職業訓練の募集が行われたのである。

 「つきましては、参加の可否を三日後の午後五時までにこちらの番号までお掛けいただくよう、お願い申し上げます。何か質問はございますか」

 質問なら山ほどある。どの時代に行くのか、何をするのか、そもそも本当にタイムトラベルなんて出来るのか、そして何故自分が選ばれたのか。

 「タイムトラベルって、どういうものですかね」正治は散々迷った挙句、意味の分からない質問をしてしまった。村田がクスリと笑う。

 「それは参加を承諾された後にご説明申し上げます。要項をメールで送信させていただきますので、ご確認いただいたうえで、参加の可否をお伝えください。また、この電話の内容は絶対に他言することがないよう、お願い致します」

 通話が切れた後も正治はしばらく画面を見つめていた。タイムトラベルという、およそ聞き馴染みのない言葉だけが頭の中にこだましている。

 どうしようかと思いながら、正治の内心ではもう既に行かない理由が見当たらなかった。

 正治は二十七歳独身で、彼女もいない。一浪一留の後に、適当に潜り込んだ食品商社での激務と上司のパワハラに嫌気がさし、半年前にフリーターへと転身した。それと同時に、二年間付き合ってきた恋人、美香にふられた。いい歳をした甲斐性なしと付き合う理由などないのだろう。以来、アルバイトを掛け持ちしながら、特に目的もなく日々を過ごしている。タイムトラベル・インターンの申し込みをしたのは退職時の勢いであったが、正治にとってはタイムトラベルでもしない限り、今の自分の生活に何一つ希望が持てないのもまた事実であった。

 タイムトラベル、してみるか――正治は携帯をベッドに放り、声を上げて伸びをした。大きな屁が開始のゴングのように部屋に響いた。


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