一生届く事の無い想い、幼馴染はきっと近くて遠い。
とある田舎の少年が六歳の時、
隣にとある家族が引っ越してきた。
少年の名前は『飛高 悠平』。
悠平の家に、隣の家族が挨拶に来た。
「となりに引っ越してきました、平津です」
そんな風に隣人が母に挨拶しているのを悠平は隠れながら見ていた。
そうすると悠平の母は。
「わざわざありがとうございます、後ろにいらっしゃるのはお子さんですか?」
そう言うと、隣人の後ろから一人の少女がでてきた。
そうすると母は隣人に対し言った。
「ウチの子供と同じくらいですかね、お名前はなんて言うんですか?」
そう悠平の母が尋ねると、少女はしっかりと挨拶をした。
「はじめまして、まどか、六歳です」
少女の名前は『平津 茉佳』。
彼女の挨拶はまだまだぎこちない、と言うか少女らしいものだった。
そうすると母は少女にたいして言った。
「すごいね、自分から挨拶できるんだね! ちょっと待っててねー!」
そう言うと母は悠平の方に来て、悠平の手を取った。
そして悠平も負けじと言った。
「ひだか ゆうへい、六歳です、はじめまして」
それが悠平と茉佳の出会いだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
それから一日後のお昼。
悠平は早速隣に住む茉佳の家を訪ねた。
インターフォンを鳴らすと茉佳の母がでてきて、悠平に言った。
「こんにちは 悠平くん、どうしたの?」
そう言われると悠平は茉佳の母に言った。
「まどかちゃん居ますか?」
悠平がそう言うと、茉佳の母は嬉しくなった。
越してきたばかりの土地で茉佳を訪ねてくれる子がいる、
それがきっと茉佳の母を安心させた。
それから悠平に茉佳の母は答えた。
「待ってて、茉佳なら今部屋に居ると思うから呼んでくるね。」
そう言うと茉佳の母は悠平をまたせ、茉佳を呼んだ。
それからしばらくすると、茉佳が悠平の前に現れた。
悠平は茉佳へ言った。
「まどかちゃん、あそぼ!」
退屈していた茉佳は、悠平の誘いが嬉しかった。
そして茉佳は悠平に言った。
「うん、遊ぼう!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
それから一ヶ月。
悠平と茉佳は毎日遊んでいた。
その為 母親同士も隣人と言うだけではなく、
子を持つ母同士と言う関係にもなっていった。
ある日、悠平と茉佳が遊んでいる時に悠平は茉佳に尋ねた。
「なんでまどかちゃんは、ここに引っ越してきたの?」
そう言われた茉佳は寂しそうな顔をした。
茉佳は悠平の質問に答えた。
「ママがパパと喧嘩したの、そしたらママがパパと暮らせないって」
どうやら茉佳の両親は離婚をしたらしい。
茉佳は母親の元で暮らす覚悟をきめ、
そして茉佳の母も茉佳を女手一つで育てることを決意。
悠平は茉佳の寂しそうな顔を見かねて言った。
「パパと遊べないなら、俺が遊んでやるよ!
だから悲しい顔しないでよまどかちゃん!」
茉佳は悠平の言葉が嬉しかった。
それは 両親の事で茉佳の心に空いていた穴が、
少しずつ埋まっていくような そんな感覚だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
引っ越してきてから半年。
二人は同じ小学校に通うことになった。
それは悠平と茉佳の母親同士がおそらく一緒に決めたのだろう。
そして小学校入学当日。
二人はもちろん、一緒に学校へ向かった。
学校へ着くと、
二人は母親に連れられて体育館へとはいっていった。
入学式の独特な雰囲気と、
二人はもちろん 子供達も緊張した面持ちだった。
随分時間が立つと、入学式が始まった。
始まってからの二人の緊張した顔が、
母親二人には微笑ましいものであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
入学してから半年。
二人がお昼休みに遊んでいると、一人の少女が話しかけてきた。
「いつも二人で遊んでるよね、茉佳ちゃんと悠平くん」
少女の名前は『河瀬 エリナ』。
悠平はエリナの言っている意図を読み取れなかった。
しかし茉佳はエリナが自分たちと遊びたいと思ってる、と認識した。
そして茉佳はエリナに言った。
「あなたも一緒に遊ぼうよ、お名前は何ていうの?」
エリナは驚いた。
自分は嫌味を言ったつもりなのに、
まさか『一緒に遊ぼう』と言われるなんて思わなかった。
しかしエリナには友達がいなかった。
そして少女は茉佳に言った。
「・・・エリナ、エリナって言うの」
そして茉佳は少女らしい健気な笑顔でエリナに言った。
「エリナちゃん、一緒に遊ぼう!」
それから三人は家が近いこともあり、
毎日お昼休みや放課後、三人で遊ぶようになった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そして三人が小学五年の時。
悠平は最近、
自分が同級生の男の子から嫌な目で見られ始めている事に気がついた。
それは悠平が女二人の中で、
いつも男一人でいる事に違和感を感じた男の子が噂し始めたのだ。
エリナと茉佳は、それなりに男子人気も高く。
そんな二人の中に悠平が居ることをよく思わない男の子も多かった。
しかし、悠平は気にしなかった。
エリナと茉佳と遊んでいる時間が純粋に楽しかったからだ。
そしてある日。
悠平がいつも通り茉佳やエリナと話していると一人の男の子が話しかけてきた。
「なあ 悠平、お前茉佳とエリナどっちが好きなんだ?」
悠平は意味がわからなかった。
悠平は友達として二人の事を好きだし、
どっちが好きとか嫌いとか何故そういう事になるのかが分からなかった。
そして悠平は男の子に行った。
「どういうことだ?
俺はどっちかが嫌いなんて事は無いし、どっちの事も好きだぞ」
そう言うと男の子はニヤリとした。
そして男の子は教室中響き渡る声で言った。
「おい! 悠平は二股男だぞ!」
悠平はその言葉を聞いた瞬間、怒りに駆られた。
そして怒った悠平は男の子の事を殴ってしまった。
殴られた男の子は号泣した。
茉佳とエリナはすぐに悠平を止めたが、悠平は止まらなかった。
そうすると周りが先生を呼び始めた。
先生が到着すると悠平を押さえつけた。
結局ふたりとも先生に指導され、
悠平と男の子はお互いに謝り、仲直りと言う形になった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そして小学校を卒業式。
卒業式は無事成功した。
練習した合唱を披露し、茉佳、悠平の母親はもちろん。
そこにいる卒業生両親皆が感動するものとなった。
しかしエリナは小学校の卒業式をとても寂しく思った。
なぜなら、エリナと二人は別々の中学に通うことになったのだ。
悠平、茉佳は近所の中学校へ。
エリナは私立の中学へと通うことに。
卒業式終了後、エリナは涙ながらに二人に言った。
「二人とは別々の中学だけど、また大きくなったら会おうね。
それと茉佳ちゃん、あの時私と遊んでくれてありがとう・・・」
きっとエリナはあそこで茉佳に遊んでもらっていなかったら、今の自分はいないと思った。
そんな涙ながらに話すエリナにつられ、茉佳も泣きながらエリナに言った。
「ううん、私こそありがとう・・・。
中学は違ってもずっと友達だよ、絶対にまた会おうね!」
そんな二人を見かねて、悠平は涙を堪えながら言った。
「あぁ、絶対にまた三人で遊べる時がくるよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そして悠平、茉佳の中学校入学式。
小学校とは違う中学の雰囲気に二人は驚いた。
小学校とは違って、先輩達がすごく大人に見えたのだ。
そんな緊張感の中、無事入学式を終えた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そして二人が中学一年生の時。
悠平と茉佳に、新たな気持ちが芽生え始めた。
悠平と茉佳は、中学に上がってからもよく二人で居たのだが。
それ以外にも二人に同性の友達も増え、そこで良く二人は聞かれる事があった。
『悠平くんと茉佳ちゃんって、付き合ってるの?』
お互いに恋愛感情として見たことがなかったので、
すこしその言葉に最初は違和感があっただけだったのだが、
次第にお互い意識し始めるようになってきた。
そして それと同時に二人が『恋愛的』な事を意識し始めると、
『喧嘩』が良く起きるようになった。
昔からあまり喧嘩はなかったのだが。
ふたりとも思春期であり、ちょっとした発言に敏感になってきたのだ。
例悠平が茉佳と昼飯を食べている時。
とある男子が悠平と茉佳に言った。
「なあ、お前ら付き合ってるのか?」
そう言われると悠平は恥ずかしくなり、その男子言った。
「そんな訳ないだろ。
『こんな』やつ、全然タイプじゃねーし」
その発言を聞いた茉佳は、悠平に言った。
「そんなの私も同じだし!」
そこから二人の言い合いとなり。
あまり口を聞かなくなり、一緒に登校することも無くなった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そして二人が中学二年生の時。
口を聞かなくなった茉佳に対し、悠平は少し申し訳無さを感じ始めていた。
あの時何故、自分はあんな事を茉佳にいったのか。
そう考え始めた悠平は、まどかを『ある所』へ誘おうとした。
そしてその年の夏。
悠平は隣の家を訪ねた。
インターフォンを鳴らすと、茉佳の母親が出てきて悠平に言った。
「あら 久しぶり、最近茉佳が悠平くんの事気にしてるみたいよ」
そして茉佳も悠平と同じく、申し訳無さを感じていた。
そして悠平は茉佳の母親に言った。
「そのことなんですけど、茉佳居ますか?」
昔のように、茉佳の母は茉佳を呼んだ。
そうすると、ゆっくりとまどかが玄関に出てきた。
そして悠平は茉佳に言った。
「お前さ、今度の八月十五日暇か?」
茉佳は少し戸惑った。
自分が悪いことをしたのに、何故悠平はいつものように話しかけてくれるのか。
そんなことを疑問に思った茉佳は言った。
「・・・怒ってないの?
私があそこであんな事言ったの」
悠平はその言葉を聞き、茉佳も自分と同じ気持ちだった事を察した。
そして悠平は茉佳に言った。
「あれは、俺が悪かっただろ。
それに、そんなことダラダラ引きずってても仕方無いかなって・・・」
茉佳もその言葉を聞き、悠平の気持ちを察した。
そうすると茉佳は笑いながらに悠平に言った。
「そっか、そうだよね。
ごめんね、私あんなこと言って」
そして悠平も同じように茉佳に言った。
「お前が謝ること無いよ、俺こそごめんな」
そんな事を言うと、二人はその状況が可笑しくなって笑った。
そして茉佳は言った。
「可笑しいね、私達がこんな事気にするなんて。
八月十五日、何も予定ないよ」
そして悠平は勇気を出し茉佳に言った。
「その日、近所で祭りあるじゃん?
そこ、もしよかったら二人で行かないか?」
悠平の誘い、それは祭りでのデートだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
二人が中学二年生の時。
八月一五日、祭り当日。
茉佳は祭りに行く準備をしていた。
悠平に少しでも可愛く見せようと、浴衣を来て、髪もいつもとは違う。
そして、待ち合わせの時間に悠平が家を訪ねてきた。
茉佳は少し緊張した。
自分の浴衣姿を見た悠平は、どう思うのか、どう言ってくれるのか。
そんな事を気にしながらも、玄関を開けた。
浴衣姿の茉佳に、悠平は一瞬ドキッっとした。
いつもの茉佳とは違う、髪、服装。
そんな茉佳に悠平はときめいたのだ。
それを指摘するのが恥ずかしい悠平は茉佳に言った。
「それじゃあ、行こうか」
それを聞いた茉佳は、少し残念そうに言った。
「うん、行こっか」
そして暫く歩くと、祭りの会場へとたどり着いた。
暗い時のお祭りは、特別に楽しそうに見える。
たくさんの人が居て、屋台が道を作り、祭りの灯りが夜を照らす。
それをみた茉佳は悠平に言った。
「いいね、お祭りって」
そして悠平は茉佳に答えた。
「うん、いいね」
きっとその言葉には
悠平と茉佳、『二人でいるから』いい、そんな意味が込められていた。
そして、屋台を一通り周り、人気の無い所で買った食べ物を食べる。
お互いに買ったものを交換したりしていた時。
茉佳は悠平に言った。
「ねえ、悠平口開けて?」
そう言われると悠平は口をあけた。
そしてまどかは悠平に自分の買ったたこ焼きを食べさせたのだ。
悠平は恥ずかしかった。
いや、多分嬉しかった。
茉佳とお祭りに行き、恋人みたいな事をして。
そして悠平は気付いた。
自分が、茉佳を『恋愛的』に好きになっていることに。
そしてまた、茉佳も気付いていた。
自分が、悠平を『恋愛的』にすきになっていることに。
きっとそれは、今に始まったことじゃない。
昔から、悠平に『パパと遊べないなら、俺が遊んでやるよ!』そう言われた時からずっと。
悠平の事を想っていたんだ、そう気付いた。
そして祭りも終盤に差し掛かる頃、二人は花火を見ながら帰っていた。
暗い夜の空を照らす花火に見惚れながら。
二人で花火を見ながら帰る。
その時間がきっと、二人にはとてもいい時間であった。
その時、それは起こった。
花火を見ながら 車線を歩いていた茉佳が、轢かれたのだ。
悠平は頭が真っ白になった。
意味がわからなかった。
悲しいとか焦りとかそういうことでは無く。
車から人が降りてきて、すぐに警察と救急車を呼んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
後日、病院にて。
茉佳の死亡が確認された。
茉佳が事故により死んでしまったのだ。
昨日から悠平はわけが分からず、頭が真っ白になっている。
そして死亡が確認された時、茉佳の母が悠平に言った。
「ごめんね、悠平くん。
きっと茉佳のことでいま責任がいっぱいだよね」
茉佳の母親は、交通事故の相手から大まかな話を聞いたようだ。
しかしあれから、悠平の口から事故当時の事は何も話されていない。
と言うか悠平はまだ理解をしていない。
しかし、そんなことを言った茉佳の母親の目は何処か虚ろだった事はハッキリと分った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
それから数日。
悠平は茉佳が『亡くなった事』の意味をようやく理解した。
茉佳の母親の言った『責任』の意味。
茉佳を守れなかった自分の愚かさ。
亡くなった意味を知って、ようやく自分の罪の重さを理解した。
感情が爆発し、悠平は自分の部屋で発狂した。
そうすると、心配して母親が部屋にかけつけ。
悠平を抱きながらこう言った。
「悠平、やっと気付いたんだね。
大丈夫、今はそれでいいから少しずつ前へ進んでいこう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
あれから一年、悠平が中学三年の夏。
悠平はどうにか登校できる精神状態まで戻った。
しかし、きっと悠平が学校で明るく話すことはないだろう。
勉強はできても、きっと友達はもう作れない。
悠平はそこまでの精神状態に陥ってしまったのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そして受験が終わり、中学卒業の時。
悠平は中学の卒業式をサボってしまった。
茉佳をおいて、自分だけが卒業することへの責任が強すぎた。
それを突きつけられるのが辛かった。
現実から悠平は逃げたのだった。
それから数日後。
別の日に悠平は卒業をした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
悠平の高校の入学式。
悠平の母が、『入学式だけはでろ』とのことで。
悠平はいやいやながらにも入学式に参加した。
入学式を終えると、一人の女の子が悠平に言った。
「悠平くん・・・?」
聞き覚えのある声につい、悠平は振り向いた。
そして、振り向くとそこにはエリナが居た。
別の中学に通っていたエリナが居たのだった。
エリナを見ると悠平は言った。
「久々だね、エリナ」
その言葉だけで、エリナは悠平が変わってしまったことを察した。
エリナは茉佳が死亡してしまったことを知っている。
エリナはもちろん、茉佳の死を悔やんだ。
そしてエリナは悠平に言った。
「悠平くん、その、茉佳ちゃんの事なんだけど・・・」
「うるさい!」
エリナの言葉をかき消すかのように悠平は怒鳴った。
エリナは驚いたが、悠平を気にかけ言った。
「ごめんね、悠平くん。
同じ高校になるなんて奇遇だね・・・」
エリナは雰囲気を変えようと、別の話題にするが悠平の態度は変わらなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
悠平とエリナが高校に入学してから半年。
エリナは同じクラスになった悠平に毎日に話しかけていた。
反応こそ無いが、別に嫌がる気配はないのでいつも話しかけていた。
今日もいつものように朝、エリナは悠平に言った。
「おはよう、悠平くん」
そう話しかけるといつもは反応しない悠平が言った。
「・・・なんで毎日話しかけてくんの?」
悠平はエリナを睨めつけながら言った。
その言葉にエリナは大きな声で答えた。
「悠平くんのこと心配だからに決まってるじゃん!いつまで気にしてるの?
茉佳ちゃんだって悠平くんがそうなる事を望んでると思ってるの!?」
教室は騒然とした。
そして悠平も驚いた。
いつも優しく話しかけてくるエリナが。
いつもこんな思いで自分に話しかけているなんて、思っても居なかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
それから一ヶ月後。
あれから悠平はエリナに少しずつ心を開いていった。
こんなになった自分をまだ友達と思ってくれているエリナに心を打たれていった。
そして今日もエリナがいつものように悠平に話しかける。
「おはよう、悠平くん」
そう言われると悠平はエリナに答えた。
「おはよう、エリナ」
エリナは、久々に悠平答えてくれた事が嬉しかった。
そして思い切ってエリナは悠平に言った。
「ねえ、悠平くん今日一緒にごはん食べない?」
悠平はエリナに答えた。
「別にいいけど・・・」
エリナは驚いた。
ここまで変わってしまった悠平が、少し前へ進んでくれたこと。
そして、自分に心を少し開いて居ることを感じた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
悠平とエリナが高校二年生の春。
あれから 悠平とまた同じクラスになり、話すようになってくれた。
昔のように明るく話してくれるわけではないが、一年前のように無視したりはしなくなった。
そしてまたエリナは勇気を出して悠平に言った。
「ねえ、今度外に出て一緒に遊ばない?」
悠平はエリナに答えた。
「いいけど、何すんの?」
悠平は別に断る意味も無く、エリナの誘いを普通に受けた。
しかし、エリナはとても嬉しかった。
きっと一年前のままなら、遊びに誘っても遊んでくれなかっただろう。
だから、エリナは誘いを受け入れてくれたことがとても嬉しかった。
そして何より、悠平が前へ進んでくれていることが嬉しかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そして当日。
エリナは悠平と遊ぶためにお洒落をした。
可愛らしい服を選んで、化粧もして。
そんなことをしてるうちに、エリナは思った。
「もしかしてこれって、デート・・・?」
そう思うとエリナは急に恥ずかしくなった。
別に悠平を『恋愛的』に見ているわけでは無いが、
男と二人っきりで遊ぶ事が『デート』だと意識してしまったのだ。
しばらくして、落ち着いたエリナは待ち合わせの場所への向かった。
待ち合わせの場所に付くと、そこにはもう悠平が居た。
「ごめん、ちょっと遅れた?」
そうエリナが言うと悠平は答えた。
「丁度いま来た所だよ」
悠平は三十分程前からついていたが、エリナに気を使わせないためにそう答えた。
「それじゃあ、行こうか」
そして、二人は久々に遊んだ。
田舎で遊ぶのではなく、少し遠出して都会で。
ショッピングや、カラオケ、ゲームなど高校生らしい遊びをした。
十分に遊んだ二人は電車に乗り、二人で帰った。
そこでエリナは悠平に言った。
「ねえ、今日は楽しかった?」
悠平は答えた。
「・・・うん、楽しかったよ」
そう言われるとエリナは笑顔で言った。
「そっか、それなら良かった!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そして高校三年生の夏。
あれから悠平とエリナの距離はどんどん縮まっていった。
そしてエリナは思い切って『あの日』の夏祭りに誘うことを決意した。
八月十日
エリナは悠平に勇気を出して言った。
「ねえ、悠平。
八月十五日、夏祭りに行かない?」
悠平は一瞬困った顔をした。
怒った顔でも、悲しい顔でも無く。
そして、悠平は答えた。
「うん、夏祭り、行こうか」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
当日。
八月十五日
それは茉佳の命日でもあり、霊が一時的に帰ってくる日。
悠平を心配した茉佳は、この日だけと言うことを条件に様子を見に来た。
そして茉佳は悠平を見つけた。
そこにはエリカと二人で祭りを楽しんでいる悠平が居た。
茉佳は、安心した。
いや、少し寂しい気持ちにもなった。
そして茉佳は悠平に近づき、話しかける。
「悠平~、聞こえるか~」
聞こえるはずかなかった。
霊体化して様子を見に来ただけなので、悠平やエリナには自分の声は届かない。
悠平のほっぺをつねったり、足を引っ掛けてもみるが気付かない。
そしてしばらくすると、
昔茉佳と悠平が一緒に食べ物を交換したりした『あの場所』に二人が座った。
茉佳はそれをしばらく見ていた。
そうすると、悠平がエリナに言った。
「俺、茉佳のことがすごい好きだった、だから俺はこんなに変わってしまったし。
これからもずっと責任を負い続けなければならないと思う」
悠平の言葉を聞いた茉佳。
茉佳は固まった。
悠平が変わってしまったこと、悠平が責任を負ってること。
それは、自分のあの時の不注意のせいだ。
そう思った茉佳は涙を浮かばせ、聞こえるはずもない声で悠平に言った。
「悠平、私も悠平のこと大好きだよ。
ごめんね、最後にちゃんと伝えられなくて。
ごめんね、死んじゃって・・・」
そう茉佳が言うと、悠平は立ち上がり周りを見渡しながらいった。
「なあ、いま茉佳の声が聞こえなかったか・・・?」
そう言うと悠平は冷静になり再び言った。
「そんな訳無いか・・・。
けどもしかして、どこかで茉佳が見ているのかもな」
そんな言葉を聞いて、茉佳は少し笑った。
そして、花火を見ながら悠平がエリナを送る帰り道。
悠平はエリナに中学生の『あの時』の事を話した。
そしてエリナは改めて悠平の気持ち、責任感を知った。
そして、エリナが花火に見惚れていたその時。
悠平が急に抱きついてきた。
そう花火に見惚れていたエリナは、車に気づかず轢かれそうになったのだ。
そして悠平はエリナに言った。
「よかった、今度はしっかり守れた・・・」
そう言うとエリナは泣いた。
「ありがとう・・・。
それとごめんね、ごめん・・・」
そう泣きながら言うエリナを悠平は慰めた。
そうして無事エリナを家まで送り、家に着いた悠平はベッドに横たわった。
「今日も残り一時間か・・・」
そう悠平は言うと、眠りにつく。
茉佳は涙ながらに悠平の前で名前を呼んだ。
しかし、眠りに就こうとする悠平には声は届かない。
残りの十五分。
茉佳は諦めていた。
霊が人間に干渉できるわけがない、そう察した茉佳は最後。
悠平の手を握った。
・・・そして悠平の手に涙を流した瞬間、それは実体化した。
その涙に気付いた悠平は目を覚ます。
手に違和感を感じ、手のあたりを見ると・・・。
悠平の前に、涙を流す茉佳の姿があった。
「まど・・・か・・・?」
悠平は驚いた。
何故茉佳がここにいるのか。
しかしそんなことはどうでもよかった。
「茉佳、今日はずっと居てくれたんだな、ごめんなきづけなくて」
そう言われると茉佳は涙ながらに言った。
「うん、そうだよ、ずっといた、早く気付けバカ」
そうして落ち着いた二人は、残りの十分。
積もる話もあるが茉佳は自分の現在の状況を話す。
「そっか、あと十分しかいられないんだな」
「そう、だからね、私の言いたいこと、聞きたいこと言ってもいいかな?」
「もちろん、いいよ」
「まずあそこでエリナちゃんと話してたの、聞いてたよ」
「あぁ・・・、やっぱ聞いてたんだ・・・」
「うん、聞いてた。
そして私も悠平のこと、好きだったよ、ううん大好きだった」
「あぁ、俺もこれからもずっとお前を想い続けるよ」
そんなことを言うと、お互い恥ずかしくなり沈黙になる。
「ねえ、高校生になって友達ちゃんとできた?」
「中学2年生からずっと引きこもりだったからな」
「やっぱり、そうだと思った、エリナちゃんとは?」
「友達だよ」
「そっか、友達なんだ」
茉佳は、悠平がエリナと付き合ってないと知り少し嬉しくなった。
しかし。
「けどね、私はもうきっと悠平の前には現れないんだと思う。
だからね、私の事気にしなくたって良いんだよ」
茉佳の姿が少しずつ、薄れていく。
「悠平は前を向いて、たまには私のことを思い出してくれれば、それでいいから」
「おい、もう消えちまうのかよ!?」
「そうだよ、だからね、最後にひとつだけ言わせて」
「最後なんて言うな!!」
「大好きだよ悠平。
だから、幸せになってください」
そう言って茉佳は最後まで笑顔で何処かへ消えていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
悠平とエリナの高校卒業式。
エリナは最後悠平に『ある事』を伝えようとしていた。
そう、エリナは悠平に想いを寄せていたのだ。
だから卒業式が終わった後、エリナは悠平に告白をするつもりでいた。
そして、無事卒業式が終わった後。
悠平を呼び出したエリナは思い切って、悠平に言った。
「悠平くんの気持ちはわかってる、そのつもり」
エリナの言葉が一瞬詰まる。
「だけどね、このまま引きずっててもダメだと思うんだ」
エリナは悠平に想いを伝える。
「だからその…
私で不満じゃなければ、私が悠平くんのこときっと幸せにするから!」
悠平は、エリナ言葉を真摯に受け止めた。
その上で、悠平は言った。
「ありがとう、エリナ・・・」
「ううん、私こそ無神経なこと言っちゃったよね・・・」
「けどな、俺は中途半端な気持ちで君とは付き合えない」
「え・・・?」
エリナは固まった。
「俺の中の一番は茉佳だし、これからもきっとエリナは俺の一番じゃない」
「・・・」
「だから、これからも友達で居てくれないか?」
エリナは、悠平に絶望した。
エリナは、悠平があの時から一歩も進んでないことを知った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
それから悠平が社会人になった時。
悠平は、あれから就職して社会人となった。
会社では優秀な成績を収め、社内では同僚の女の子から飲みに誘われたりする。
しかし、悠平は女の子からの誘いを全て断っている。
そして、あれから悠平はエリナと連絡も取っていない。
きっと悠平はこれからも女性と付き合う事も無いだろう。
なぜなら、悠平の中の一番は一生『平津 茉佳』だけなのだから。
エリナのアフターストーリーを書きました。
エリナのその後が気になる方は是非お読みください!
https://ncode.syosetu.com/n2182el/