エンカウント
記録開始_ファイル_No3
俺は二人、見ず知らずの人間をこの手で殺した。
だが妙に冷静でもあり、罪悪感に押しつぶされそうな、奇妙な感情が続いている。
だが俺がそうして考えている間にも食料は減っていく、俺に残された二人の妹達を守るためには俺が出向かなければならない。
かけがえの無い妹たちの笑顔を守るためにも。
先日入手したナイフ、ナタ、バックパックを身に着け、ハッチを開ける。
周囲の安全を確認し、静かにハッチを閉める。
その時ふと蘇るあの感触に妙な昂ぶりを覚えた、人殺しは好きじゃないが、生きるか死ぬか、あの冷静でありながら興奮した状態、今までの自由を標榜しながら上位の人間だけが甘い汁を吸う社会では味わえなかった感覚だ。
一瞬だったが言葉にできない快感だった、だが忘れたい部類の快感だ、頭を冷やそう。
気持ちを入れ替え街に向かう。
前回収穫のあった町の方向を目指し歩いていると奇妙なものが目に入った。
足跡がある、恐らく獣のモノだろうが妙に足跡が深く、そして爪痕が異常に長い。
明らかに普通ではない、放射線は生物の遺伝子を傷つけ変異させるが恐らくそういったものではない、そう直感的に感じた。
恐ろしくもあったが、足跡を頼りに町の方角へと進み、あの奇妙な足跡の主を一目確認したかった。
今思えばやめておくべきだった。
慎重に、かつ警戒を怠らずに神経を張り詰めて足跡を追った。
足跡の主は町外れにある倒壊したビルの隙間に居るらしい、そこの手前で足跡が途切れていた。
最初は気づかなかったが、辺りには肉の腐敗臭と妙に甘ったるい、だがそれでいて気色の悪い臭いが立ち込めていた。
その時強烈な殺気と視線を感じた、体は硬直し、胃酸が湧き出て来る、確実に殺される、そう思った。
俺は3人も殺したんだ、獣に食われようと文句の言える立場ではない、そんな事を考えていた。
だが結末は大きく違っていた、1機の小型飛行機、恐らくだがプレデターのようなものだろう。
それが俺の頭上をものすごい速さで通り過ぎて行ったと思ったら倒壊したビルの瓦礫の山は木っ端微塵に吹き飛び、竜巻の様な炎に包まれていた。
だが足跡の主はまだ息絶えてはいなかった。
奇声を上げながら飛び出してきたそれは、先の爆撃で大半の四肢は損失していたものの、頭と左腕だけは残っており、這い出てきた。
その生物を目の当たりにしたときこの世のモノとは思えなかった。
目が6個ほどあり、口は蛇が獲物を丸のみする時のように大きく開き、返しのようになった細かい牙が幾重にも重なって生えていた。
加えて腕は異常に短く、しかしその短さとは裏腹に、長い爪を持っていた。
そこで俺の記憶は途絶えている。
目を覚ましたときには廃ビルの1室に横たわっていた。
あれは現実だったのか、今でも自信が持てない。
こうして記録をつけている間も現実と幻の間にいるような気分だ。
もし現実だとしたら、あの奇妙な生物、それを攻撃した無人飛行物体、頭の処理が追いつかない。
俺たちが置かれている状況は核兵器によるモノでは無いのか?
そんな疑問が頭から消えない。
だとしたらこの世界の破滅の原因は何なんだ!?
疑問は尽きないが幸いにして生きて帰れた。
だが疲労が限界だ。
この辺りで記録を終了する。
記録終了_松下ユウキ