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鬱病勇者の記録ファイル  作者: サニー
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本性

記録開始_ファイル_No2

4日目から書くと言っていたが、無理だった。

それどころかあれから何日経ったのかもわからない。

理由は...罪悪感だ、父親を殺した罪悪感。

いくら憎んでいたとは言え俺はその父親を殺した。

我に返ってからはその罪悪感に押しつぶされそうになり体が震え、冷や汗が止まらず、食料も喉を通らないのに吐き続けた。

どれだけ発狂していたのかわからない、気づいたらタオルケットをかけられ寝ている俺の横に妹達がいた。

俺はまず妹達に謝った、父親を殺して済まないと...それでも優しい笑顔で迎えてくれた妹達に年甲斐もなく泣き付いた。

妹達には弱みを見せたくない、その思いで生き続けてきたが、そんなモノは脆く崩れ去った。

そんな情けない兄でも妹達は何も言わず、受け止めてくれた。

ひとしきり泣いたあと、何日ぐらい寝ていたのかと聞いたら「兄ちゃん、2週間以上うなされながら寝てたよ」と答えが帰ってきた。

ああ、そんなに寝ていたのか...その答えと妹達の様子を見るに食料が足りていない事は確かだった。

明らかに痩せ細っている、自分が更に情けなくなった。

兄なのに妹2人に満足に食料も与えられなかった事に自分に対する怒りさえ覚えた。

俺はまず食料を探す為に外に出る事を決めた、当然妹達には止められたが背に腹は代えられない。

それに2週間経っているということは死の灰も過ぎ去った後だろう。

半ば強引にハッチを開け、朦朧とする意識を抑え込み、一人食料探しの旅に出た。

だが勇んで外の世界に出たものの、余りの凄惨さに縮み上がった。

そこら中に転がる男か女かも判らない死体、それにたかる野犬やカラス、蝿、湧き出る蛆、また吐きそうになったが、もう情けない姿を見せる訳にはいかない。

必死に恐怖、不安、震え、吐き気を抑え込み、街の方を目指して歩いた。

そう遠くない場所の筈なのだが、見るもの全てが俺の恐怖心を掻き立て、街に着いたときには、まるでフルマラソンをしたのかと言うほど疲弊しきっていた。

取り敢えず俺は安全な水、缶詰などを探し、食料品店に入ったが、まぁ案の定どこも荒らされていた。

ふと何かの気配を感じ、近くにあった懐中電灯を握りしめ、気配の正体を探った。

2人組の男だった、バックパックにナイフ、大きめのナタを手にしており、相手もこちらの気配を感じてこの店に来たようだった。

今思えば目の錯覚かも知れないが、その時は明らかな殺意を感じていた。

わかっていたことだ、こんな状況になったら殺るか殺られるかだ、それからは記憶が曖昧なのだが、本能的に動いたのだろう。

懐中電灯を相手の目に向かって当て続け、接近し、両手の親指を男の目に突き立てた。

もうひとりの男も抵抗はしてきたが怯んでいる隙に懐中電灯で喉を殴打し、あとは同じ様に殺した。

我に返ったとき、後悔はあまり無かった、何故かはわからない。

その後は淡々とバックパックと刃物を手に取り、血に濡れた手を拭い、そそくさと家に帰った。

取り敢えず食料と水は奪ったバックパック入っていたこれで妹達に食わせてやれる。

帰り道は早く感じた、妙に冷静だったからか。

2人この手で殺したのに。

何とか家に帰り着き、何事もなかったかのように妹達に食事を取らせた。

2人の命と引き換えに獲た食料と水だと気付かれないように。

今日はこれで記録を終了する。

思い出すだけで死にたくなる。


記録終了_松下ユウキ


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