パープル・マン
「オシャレンティウス、こんなところにいたのか」
向こうからダウンジャケットを羽織った男が駆けてくる。
彼はオシャヌス。10年以上の付き合いになる、旧知だ。
「どうしたんだオシャヌス。ジャケットでも買いに来たのかな?」
この通り私はダウンジャケットを中心としたマーケットを展開している。ローマのオシャレ界隈では知る人ぞ知る布屋だ。
「何を言っているんだ。今日はローマ相撲の開会式じゃあないか。今日店を開いても誰も来ないぞ。異常な強さの男が新潟から青森に転生したらしいぞ」
そうだった。何をやっているんだ私は。
ローマ相撲とは体を打ちつけ合い、ダウンジャケットで仕切られた土俵から相手を押し出す格闘技だ。
大半のローマ市民はダウンジャケットとローマ相撲を嗜んで過ごしている。
「こうしてはいられないな。開会式用のダウンジャケットを君にも仕立てよう。」
私がダウンジャケット市場で成功を収めることができたのはこの仕事の速さによるものだろう。
ジャケットの1ブロックごとに毛糸を詰める。この作業において私の右に出るものはローマ広しといえどもいないと自負している。
「君の作業はロボットのように正確だな」
「ロボットってなんだよ」
「いい機会だから教えてやるよ・・・機械についてな」
開会式ではローマ相撲士たちが今か今かと開会を待っていた。
相撲士たちはお気に入りのコートを羽織り、下着はパピルスを束ねた『真和紙』と呼ばれるものだけだ。
『真和紙』は相撲士たちの強さ・・・つまり階級によって、色、形、素材が決められている。
最強の相撲士は紫色の真和紙を使うことになる。紫色が許されるのは頂点の男だけだ。
しかしローマ史上紫の真和紙を腰にすることができたのは一人だけ。
そう、それが僕
井上 英 なのだ