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魔法少女がいる世界で  作者: ぽんこつ白水
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妹は魔法少女

初めまして、ぽんこつ白水と言います。初めての投稿となります。短くて読みずらい部分もあると思いますが、よろしくおねがいします。

朝の時間、重いまぶたを擦りながら右手でフォークを使い食パンを口に運びながら、左手でベーコンを掴んで食べていた。そんな寝ぼけた時にたまたま見たニュースだった。

『魔法少女現る!?』という文字は当時中学生1年生だった自分は夢を見ているのだろうと勘違いして、食事後は手と顔を洗い二度寝した。その後母にこっぴどく叱られて学校に遅刻ギリギリで着いたことは、初めはかなりバカにされた。一ヶ月も経てば弄られることは無くなったのだが、恥ずかしいという感情はこの記憶を頭に深い爪跡を残した。高校3年になっても当時のクラスメイトに会うことを体が拒否している。メールやSNSで誘いが来ても返事は「用事があるから無理」と短く簡潔に拒否の文面を打ち込んでは送信している。人付き合いの悪さはあの一ヶ月で形成されたと独り言を呟きながら溜め息をつき、スマホをインターネットに繋げる。

『今月4体目 マジカルセイバー大活躍!! またもや魔獣を捕らえる』というネットニュースの一文が目に止まる。画面をタッチしてその内容を読む。『昨夜未明、〇〇町に住む70代の男性を襲った魔物ですが、今朝〇〇町〇〇公園にてマジカルセイバーに捕えられたとの事です。マジカルセイバーと言えば、この半年で実力を付けている魔法少女であり、将来・・・・・』

初めの数行を読んだところで部屋をノックする音が聞こえたので画面をホーム画面に戻す。

「どうぞー」と間の抜けた声で返事すると、ドアノブをゆっくりと回し部屋へと顔を覗かせる人物が俺に一言、

「部屋汚いよ」

いきなりの正論に俺は目を逸らす。ある程度、足の踏み場を確保しているとはいえ、本や通学カバンが散らかっているため反論の余地は無い。

「人の部屋の中見ていきなりそれかよ」

聞こえないように呟いたつもりだったのだが、あいつはそれを聞き逃さなかった。

「そんな事言わずにさっさと片付けなよ。教科書破れたらどうするの? 貸してなんて言えないクセに」

またも正論。ぐうの音も出ない。

「休日の朝からネットサーフィンする時間があるなら、部屋をキレイにする時間もあるはずだよね? 少しだけ手伝うからさっさとやるよ」

部屋に勝手に入ってきたそいつは床に置いていた(と俺は主張している)教科書を勉強机の棚へと直す。

「・・・・・朝からお節介どーも」

呟きながら俺も整理を始める。カバンはS字フックに掛け、ベッドのシーツを整える。10分もすれば汚部屋から至って普通の学生らしい部屋へと姿を変える。

「ありがとうな、光」

短く簡潔に感謝の言葉を妹に伝える。

「どういたしまして。私にかかれば、町の平和もお兄ちゃんの部屋も守ってみせますとも」

金の髪をたなびかせ、翡翠色の目をこちらに向ける。その顔は自信に満ちていた。

妹は、この町の平和を守る魔法少女なのだ。


魔法少女という存在は5年前から突然現れたそうだ。あのニュースを切っ掛けに世間に広くその存在を知らしめた。日が経つごとに人数は増え、半年後には50人の魔法少女が日本で暮らすことになった。漫画やゲームの存在が現実に現れたと小さな子どもは喜んでいた。彼女らが暮らす地域では警察の手に負えない凶悪な犯罪者をいとも容易く捕らえたという。犯罪者はなりを潜め、魔法少女はその人気を集めていく。そんな存在を黙って見過ごせるほど甘い世界ではなかった。悪魔だと罵る者もいた。この世界を乗っ取ろうとする邪悪だと言う者もいた。そんな負の感情を利用して『魔法少女狩り』が決行された。集団で取り囲み身動きが取れないように縛り上げ監禁し、衰弱死させるといった非人道的行為によって魔法少女はその数を減らした。当時は確認できるだけで10人だけだったという。

こうして魔法少女が世間から疎まれ蔑まれ、死に追いやられてから1年が経つと新たな存在が世間を騒がせた。それは『魔獣』の出現だ。地球に存在する生き物から架空の存在まで様々な見た目をしたそいつらは人々を喰らう存在として恐怖の渦に飲み込まれた。体長が2メートル程の魔獣ならば数人の成人男性がバットで袋叩きにすれば傷を負わすことができるのだが、魔獣も一筋縄では討伐することは出来ない。空を飛ぶモノもいれば、火を吐いたりするモノ、手が刀のように切れ味を持つモノもいた。

そのような状況の中、真っ先に魔獣を討伐したのは魔法少女であった。傷口から血を流す者、片目に深い傷を負った者、負傷しながらも彼女たちは平和の為に己の身を犠牲にして戦った。ここで初めて魔法少女と人との壁が無くなったという。

彼女たちは将来と少々の自由を引き換えに、魔獣から国民と平和を守る魔法少女として生きることになった。


「何読んでるのお兄ちゃん?」

横から妹の声が聞こえたので本を閉じ表紙を見せる。

「なになに? 『魔法少女は我々の味方である』ってなにこれ、変なタイトルの本だね」

「だろ、変だから気になった」

本を陳列棚に戻して光に声を掛ける。

俺はこのときまで本屋をふらついていた。光がここの社長と話があるからと、訳もなく俺を連れてきた。暇だったのでレンタルコーナーや週刊雑誌を散策していたところ、さっきの本を見つけて読んでいた。

スマホを取り出して時間を確認する。現在は10時50分、社長が待つという談話室に光が入ってから30分、自分は本屋で暇をつぶしていたということになる。

「ところで、用事は済ませてきたのか?」

光はリュックサックから封筒を取り出し、中に入っていた紙を俺に見せる。

「今日の用事はこれで終了。来週の土日はここで本の宣伝をすることになったよ」

「お前は本当に世話を焼くよな。誰彼構わず」

そう言うと光は俺に顔を向ける。

「誰彼構わずじゃないよ。この町の役に立ちたい、それだけだよ」

俺から顔を逸らし真剣で、先程と違う低い声に思わず言葉が詰まる。フランクで人当たりの良い妹とは違う、寂しげな表情が目に映る。流石に気まずくなり話題を振る。

「そういえば、二人っきりで出かけるなんて初めてじゃないか?」

光はこちらに顔を向けた。先程までの影がある表情をでは無く、いつも通りの明るい表情でこちらを見る。

「そうだよ、だってお兄ちゃん出不精じゃん」

「そ、そりゃそうだけど。それにお前もお年頃だから俺から誘うのも何だかおかしな話だろ」

光から笑みが零れる。そして口元を手で覆っており肩を震わせている。

「確かにそうだよね。お年頃の妹を誘うお兄ちゃんは居ないよね」

慌てて話題を切り出した俺が可笑しく見えたのだろう、今は耳が赤くなるほど光は笑っている。

光がここまで笑ったのはいつぶりだろうか? 記憶に残っている光の表情を脳裏に浮かべても合致するものは無かった。

俺は光が笑い疲れるのを待ち、久しぶりに2人で雑談をしながら帰路についた。


・・・・・魔法少女とはその名の通り女性しかいない。服や装飾品を瞬時に身にまとう『変身メタモルフォーゼ』と魔法少女毎に異なる『魔法』と言われている力を持つ。『変身』状態では身体能力は飛躍的に向上され、個人差はあるが、150ccバイクと同等の速度で走る者や100キロのベンチプレスを片手で上げる者、秒速120mもの弾丸を見切る者様々である。

では『魔法』とはいかなる力なのか。多少の違いはあれど、全く同じ力は存在しないと言われている。水を操るにしても、水場で無ければその力を発揮できない者もいれば、砂漠でも難無くその力を振るうことが出来る者もいる。魔法少女の個性とも言うべき部分である・・・・・


時刻は21時。今日は家に帰ってから再び部屋に篭った。訳もなくネットサーフィンをして時間を潰し、夕食を食べてからはまた部屋へと戻った。

携帯を手に取る。スマホの通知にはSNSから数少ない友人から短いメッセージが表示された。

[おはよう、京殿]

[おはようではないな秀一。また魔法少女について調べていたのか]

秀一は俺と同じく魔法少女のニュースを見て以来、ネットニュースやまとめスレ、掲示板のアングラまでガッツリと調べるようになった。本人曰く、「いくら何でも突然過ぎて理解が追いつかないからさ。魔法少女もその周りも。だから俺が納得するまで調べ続けるんだよ」との事。このように時間の感覚を忘れるほど熱が入るので、度々学校に来ないこともある。

[そんなことは無いさー、いつものようにネットをさ迷っていただけさー]

[ならさっさと寝たらどうだ。明日は学校だぞ]

[授業とか眠くなるからパスだよ]

このように登校拒否の旨を伝えることも多々ある。

[・・・・・その時はノート見せてやるから来てくれ]

いつも折れるのは俺の方だ。数少ない友人が休むなど、学生生活が息苦しくなって仕方が無い。

[了解しました京殿!! お迎え_| ̄|○)) よろしくお願いします ((○| ̄|_]

いつものようなやり取りを終え、リビングへと向かう。麦茶が飲みたくなったからだ。

階段を降り、リビングに向かうと風呂上がりの光がテレビを見ていた。魔法少女が手を取り合って大型の魔獣を討伐したというニュースであった。光はいつになく真剣にテレビに目を向けていた。俺は台所に向かい冷蔵庫から麦茶をとりだしてコップに注ぐ。それを2つ用意し、テレビをじっと見ている光の首にコップを近づける。首にコップが触れると猫がその場で跳ねるかのように体ごとコップから離れる。そしてその犯人、すなわち俺を見て頬を膨らます。

「サイテーだよお兄ちゃん。妹の反応見て楽しむなんて変態だよ」

「いや、真剣にテレビ見てたから肩が張っているだろうと思ってやっただけだ。ごめんな」

驚いた顔に少しだけ愉快な気分になったのは口が裂けてもいえないが。

納得したのか、コップを受け取って飲み干す。喉を鳴らして息を吐くところは、麦茶ではあるが結構絵になる所と感じる。メーカーの人が見れば清涼飲料水のCMのオファーが届くだろう。

「ねぇ、お兄ちゃんって私のことをどう思ってる?」

突然の質問に、俺は目を丸くする。今までこのような質問を受けたこともなく、ましてや妹からこのように話すなんて思ってもみなかったからだ。

俺は軽く握りこぶしを作り口に当て考える。ニュースキャスターが原稿を読み上げる声だけがこのリビングに響く。妹の様子は顔をそらし、両手を太ももに挟んだ状態で待ち続ける。時間にして10秒程であったがそれよりも長い時間考え続けたように錯覚する。不安そうな表情を浮かべる妹に問いの答えを伝える。

「自慢の妹だけど、やっぱり魔法少女として生きることには不安を感じてるように見えたよ」

今度は妹が目を丸くする。そして頬を紅く染めて人差し指で触る。見たことがない表情で面を食らった。

「ま、まあ可愛い妹だからな、何かあるなら話したほうが楽だろう。こんな出来の悪い奴でよければ」

思わず本音を漏らしてしまったが、妹は気にすることもなく話し始める?

「さっきのニュース、魔法少女たちが魔獣を討伐するって内容だっんだけど、あれ見て何だか気持ち悪くなっちゃったの」

先程見ていたニュースの事だった。大まかな内容も流して見た程度だが覚えている。

「大型の魔獣だったんだろ、協力しなきゃならない程強かったってことだろ」

感想を伝えるが、的外れだったのだろう首を横に振った。

「私が感じたのはね、気味の悪さなんだ。映っていた魔法少女ね、笑いながら戦ってたんだよ?」

「でも、戦う事が好きな魔法少女もいる可能性もあるだろ?」

妹が深く息を吸い呼吸を整える。妹の昔から不安から来る本音を伝える時はこの癖が必ず見られる。俺も握りこぶしを2つ握り構える。

「相手を殺すことが当たり前になるなんて絶対にあっちゃいけない事だと私は思う。それが魔獣であれ動物でも、生きている命を危険だからって理由で奪うのは絶対に駄目だよ。そうやって命を奪われたら、死んでも『危険なモノ』としてみんなに残るんだよ」

涙を流しながら紡ぐ言葉には、妹の優しさを垣間見た。朝のネットニュースを思い出す。妹が魔獣を捕まえたことを。マジカルセイバーの名の通り、妹は剣を武器に戦う魔法少女だ。その妹が魔獣を討伐でなく捕らえると報道されているということは命を無下にしてはいけないという心が働いているということだ。

涙を流す妹のために急いで風呂場に行きタオルを手に取る。リビングに再び戻りタオルを渡すと、顔を上げることなくタオルで顔を覆っていた。そこからはヒィッヒィッと咽び泣く声が微かに聞こえた。

10分経つと、タオルを肩にかけ顔を上げる。目は赤くはれており肩で呼吸していた。

「ありがとう、お兄ちゃん」

少しだけしゃがれた声が聞こえる。

「やっぱり、お兄ちゃん優しいね」

「やっぱりって、まあ、中学生は確かに荒れていたけどさ」

首を横に振っている。

「それだって、秀一さんがいじめられていたからだよね」

1度も、両親にも話したことが無い秘密を妹の口から伝えられる。相談を受けた時のように目を丸くした。いや、その時よりも大きくしていたと自負できるほど驚いた。

「秀一さんから聞いたよ、何度も助けてもらったって。感謝しきれないって」

秀一が話したと分かると体の力が抜けたような脱力感に襲われた。 いつも昔から誰に対しても口が軽い秀一はクラスの人気者の秘密をクラス中に暴露したことが原因で4人のグループでいじめを受けていた。中学1年の末期の頃であった。仲裁に何度も入ったがその度に俺も標的にされていた。ある日、体育館の裏側でそのいじめグループが秀一にナイフをチラつかせて、制服に切りつける様子を見た俺はカバンを投げつけてグループ全員に襲いかかった。3人は逃げたのだが、残った1人が逆上して殴りかかってきた。そこからは、やってはやり返すが何分も続き、教員が数名止めに入るまで続いた。そこから先は記憶が曖昧であるが、俺はいじめグループ4人の証言を元に判断した教師によって1ヶ月の謹慎処分と前科持ちになった。恐らく俺がナイフを所持していた事になったのだろう。後から聞いた話だが、秀一が何度も教員に直談判したのだが聞き入れてもらうことは無かったそうだ。

「相変わらず口が軽い奴だよ」

呆れる俺に対して妹は笑顔を見せる。

「あの時はすごく不安だったんだよ? お兄ちゃんがナイフで傷付けて暴力も振るっていたって聞いた時は優しいお兄ちゃんじゃなくて、人を傷付けてるのが好きな人なのかって。でも、秀一さんから本当の事教えてもらった時はすごく嬉しかった。やっぱり優しいお兄ちゃんなんだなって知って、安心したんだ」

妹は立ち上がったと思うと、俺に近づいて胸の中に飛び込んだ。驚愕と混乱と、頭から香るシャンプーの匂いが頭の中を一杯にした。

「だからね、今の私が魔法少女として頑張れるのは、お兄ちゃんがいるからなんだよ」

小さく、くぐもった声で向けられた言葉。

この時の妹の表情を伺うことは出来なかった。

魔法少女が結果的に社会に認められた経緯が抜けていると思います。簡単に説明すると、魔獣と呼ばれる存在に唯一、現代兵器を大量投入すること無く対抗できる存在として国が『特殊災害対策機関』を急遽立ち上げ、そのメンバーとして魔法少女が所属することになります。また、魔法少女はこの機関に所属することが義務となっており、それを怠った場合、他の魔法少女による処罰の対象となります。

魔獣は現代兵器で対抗することは出来ますが、コストやリスクの面で魔法少女を宛てがうことになったというのが理由になります。

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