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ルークとの別離

 

 そこまでは良かったんだけど、その取り潰した奴の爵位をそっくりくれるって話になってさ、そんなの邪魔だから要らないとも言えなくてさ、授爵する羽目になったんだけど、一計を案じて子供にさせる事にしたんだ。

 つまり、生まれてくる子供は生まれながらの貴族って事になり、良識ある人の元でそれなりの知識を授けてもらう事にしようと思ったんだ。

 必然的に奥さんも居残る事になるからそこで僕は単身赴任みたいな位置取りのまま、単独に戻って旅を続ける予定だったんだ。


 普通はね、旦那よりも子供を選ぶものだから、僕は何とも思わなかったんだけど、ルークの母さんはそうじゃなかったんだって思ったんだ。

 あんなにルークが尽くしたと言うのに、今ではもうルークの事を覚えてすらいない。

 だからあの人が変わっていただけで、本来はこうなんだろうと思ったのさ。


 それはそれとして、せめて産まれて来る子の顔だけでも見てと言われ、魔導具三昧の日々のうちにいよいよ出産の運びとなり、男児出産となりました。

 だけどさ、産まれた瞬間、僕の中から何かが喪われたんだ。

 そうして僕の子には彼の雰囲気が纏わり付いていたんだ。


 そして僕は悟ったんだ。

 ルークが宿ったんだと。


 そうか、君は母に忘れられ、母の面影を追い求めるうちに、遂にはそんな事になってしまったんだね。

 僕に何の相談も無く、僕の子供に憑依するようになった君はもう、僕の知っているルークじゃないのかも知れない。

 確かに僕は君に憑依のような事になったけど、君のは少し違うと思うんだ。

 だって赤子の生命力を吸うが如くなそれは、僕の子を殺してしまうだろう。


 今ならまだ間に合うよ。


 戻って来て、ルーク、お願いだから。

   

 ・ 


 ・ 


 ・


 聖魔法射出銃を構える。


 懇願しても戻らない彼。


 そして……


 どうしてこんな事になったんだろう。

 僕が魔導具を開発したのは、君を消す為じゃなかったと言うのに。

 そもそも僕は君の為に、こうして懸命に生きてきたのに。

 どうして……どうしてこんな事に……ねぇ、ルーク。


 僕は間違っていたのかい?


 ~☆~★~☆


 僕の子は何とか生命を繋ぎ止め、それからは順調に育っていった。

 ルークの気配はあれっきり消え、僕が殺したのだと思った。

 それからというもの、旅に出る気力も無くなり、その町で彼女と子供と一緒に暮らすようになる。

 幸いにして預金は使い切れないぐらいあり、それなりの屋敷で悠々自適な生活になっていた。

 僕は日常のあれこれから逃げるように、更なる研究に明け暮れるようになり、妻は息子と共に日々を楽しく生きていた。

 子供の調子が悪いと聞けば万能薬をこっそり飲ませ、快復したのを遠目に見てはまた研究三昧の日々になっていた。


 そうして時はあっという間に過ぎ、息子はいよいよ15才の誕生日を間近に控え、成人の儀式を行う事になる。


 もとより会話の無い親子に情は無いと思われていたが、父は子をいつも見守っていたのは誰の知るところにもなかった。

 そんな父親が疎ましくなったのか、母を後見にしての追放宣言となる。

 成人までは我慢していたけど、もうアンタなんて要らないと。

 妻を見るとそれに同意をしているようで、それならそれで構わないと思った彼だった。


 それから屋敷から彼の姿は消え、離れの研究室の中のあれこれも消えていた。

 更に言うなら商業ギルドから預金も消え、ありとあらなる痕跡が消えていた。

 そうなると屋敷の維持費は若い当代の肩に圧し掛かる事になり、そこで初めて全ての資金が彼から出ていたのを知る。

 貯めてあったはずの資産も全て彼の資産であり、若き当代が関するところにはない。

 順調に代替わりをすれば手に入ったかも知れない資産の全ては、浅慮にも追い出したが為に消え失せた。

 そうして当代は領地を切り売りする羽目になった挙句、国に返還しての年金生活になってしまう。

 折角彼が息子にと渡した貴族位も、名誉貴族と変わらない事になってしまっていた。


「あれで良かったのかの」

「さすがに増長しては国の為になりますまい。それぐらいなら消えてしまえば良いのです」

「厳しいのぅ」

「向こうから歩み寄る事も無かったのです。自業自得ですよ」

「普通は親から歩み寄るものじゃがの」

「甘いですな。親は子に生きていけるだけの物を渡すのです。それに対する礼は必要でしょう。当然の享受などと思われたのでは、結局将来が不安になるだけ。出来の悪い子は切り捨てるようでなくては、次世代の王は育ちませんぞ」

「おぬしぐらいじゃよ。このワシに諫言してくれるのは」

「それで、効果はどうでしたか」

「まさに国宝よ」

「あれはもう飲まれましたので? 」

「とんでもないのぅ」

「数年後にもう1本。それで後の行き先も見えるでしょう」

「何を渡せば良いのじゃ。おぬしは金もあれば地位は要らぬという有様じゃ」

「そうですな。民の顔から笑顔が消えぬようにしていただければそれで」

「あい分かった」

「それではこれで」

「ほんに残念よの」


 はぁぁ、結局、こうなっちまったのか。

 来ると期待していたのに、結局来なかったな。

 妻が止めていたって証言もあるけど、それでも来ないといけないよ。

 だから資産把握も出来ないままに、軽薄にも追い出す事になっちまうんだ。

 まあ、その屋敷と敷地はくれてやるからさ、代わりの資産は全て接収したさ。

 さすがに押し掛け女房に全てを奪われるとか、ちょっとあり得ない話だよね。


 結局、この街で15年か。


 過ぎてしまえば早かったと思うけど、傷を癒すには短かったかも知れない。

 今でも当時の事を思うけど、あんな子じゃルークを殺した甲斐が無いよなぁ、なぁ、ルーク。

 あんな蔑んだ目とかさ、本当にどうしてあんな子になっちまったんだろうな。


 あれ、何か作動したぞ。


 あらま、殺意捕縛魔導具が作動するとか、また珍しいな。

 放置していたらそのうち餓死するだろうけど、餓死した後で魔物の巣にでも捨ててやれば、証拠隠滅になって終わりだしな。

 殺意ってのは相手の命を奪おうとする決意の事だ。

 奪う以上は奪われる事も覚悟する必要がある。

 成功しか考えないような抜け作なら、自業自得と諦めてもらうしかない。

 確かに表向きは平和な世界だけど、命が軽いのはテンプレなのさ。

 だからさ、殺そうとする者を放置する事は、殺しても良いって許可を出しているに等しいんだ。

 僕もさ、殺れるものなら殺ってみろとか、そんな事を言うつもりは無いからさ、殺そうと来る者は確実に反撃するよ。


 それがこの世界の正当防衛の形なら、それに沿うだけさ。

 

余りのルークの変貌の果て、彼は遂に決断しましたが、その後遺症は大きかったようです。

でもどうして急にそんな事になったのでしょうね。

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