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お風呂はいかが

風呂付宿、金貨1枚。

 

 門番の宿舎に風呂が出来たという噂は瞬く間に広がり、銀貨10枚で利用出来るとあって、それなりの人気を呼んでいるようだ。

 昼過ぎまでは女性用、それからは男性用の風呂になる。

 それと言うのも男連中は昼間は仕事をしているのであり、その隙にちょろりと風呂に入れるよと女連中にけしかけたら反応が良かった為だ。

 彼女も門番の仕事をしなくても良くなり、もっぱら番台で過ごしている。

 夜半まで営業して最後の湯に浸かり、掃除をして宿舎に戻る。

 そうして翌日は商業ギルドに赴いて、売り上げをギルド預金に納める事になる。

 そして水石鹸の補充として品を受け取り、魔石も交換になる。


 実は商業ギルドと部隊長が差っ引いた残りの儲けは彼女の懐に入る事になっているが、その事は商業ギルドとの契約満了の時まで知らされない事になっている。

 現在彼女は宿舎の食事と風呂だけで暮らしており、門番の仕事が無いので給与はかなり下がっている。

 それでも風呂のある生活が嬉しいようで、そこに文句は無いんだけど、やっぱりタダ働きは拙いって事で、後々、譲り渡す事になっている。


「確かにあれは人気が出るでしょうな」

「白金貨クラスになるかな」

「そうですね、どれぐらい使えるかにもよりますが」

「経費は水石鹸と魔石だけだな。まあ、掃除は必要だが、10年は余裕で使えるぞ」

「そこまで丈夫なら言う事はありませんな」

「要は使用者次第です。荒いのが荒く使えばどんな建物でも」

「成程ね。確かにそうでしょうな」

「ちなみにあいつはミリアズとは関係無いからな」

「ほお、そうなると君の発明かね」

「かつて、ミリアルークスという商標があったのをご存知ですか」

「おお、聞いた事はあるぞ」

「私がそのルークです」

「何と」

「かつて彼女に多大な恩を受けましてね、数年間は共同開発という事で、彼女に恩を返していたのですよ」

「するとこれからは君と彼女は別口になるのだね」

「私のほうはもうあんまりはやらないのですが、今回は門番の彼女の紹介がありましてね」

「それはそれは」


 そうして細かな契約が結ばれたんだ。


 1.売り上げの1割は門番の隊長へ。

 2.純利の半分を商業ギルドへ渡し、消耗品の費用とする。

 3.残りの利益は貯蓄とし、契約満了で彼女に手渡される。

 4.契約期間は1年間とし、それからは商業ギルド直轄となる。

 5.風呂のシステム一式とその立ち位置は、その時点で商業ギルドの権益となる。

 6.彼女に対しては役得として無料で利用してもらう。


 それは良いんだけど、前にも言ったと思うけど、ルークの顔がアレだから変装必須なんだけど、風呂上りでバレちまってさ。

 そのせいか、彼女は時々宿舎に戻らずに僕の住まいに来るんだよ。

 そうして朝帰りになるんだけど、そのままずるずると関係を続ける気は無いんだけど、彼女はどういうつもりかな。

 最初は男勝りな感じだけどサッパリした感じの女だと思っていたのに、妙に誘惑して来ると言うか、少し困っているんだ。

 それでも色々な研究をするのにもちょうど良いと、街の外の僕の住まいで毎日の研究をやっていたんだ。

 そうしたらさ、街の次期領主が僕の事を知ったらしくてさ、またぞろ雇い入れの画策を始めたんだ。


 本当に貴族ってのはロクなもんじゃない。


 雇われたいなら自分から売り込みに行くだろうし、そうしないのなら雇われたくないって分からないのかな。

 街の外なのに税金がどうのこうのと言い始めて、街に入るのに金を出せと言う始末。

 それなら他の商人にも言うべき話だし、そもそも探索ギルドの恩恵で何処でも街に入る金は要らないはずなのに。

 結局、他の者にも示しが付かないとの事で、街に入るのに銀貨1枚の徴収を始めたんだ。

 そうしたところが流れの商人達がこの街を迂回するようになってさ、かえって税収が落ち込んだって当たり前の話さ。


 楽市楽座だからこその経済発展も、消えたら無くなるのは当然だよな。


 どうやらそれで僕を召抱えようとしていた次期さんは廃嫡になり、またぞろ元の領主に戻って税は撤廃になったらしい。

 目先の利益に走った結果は本人の廃嫡とは中々に厳しいが、善政を敷いていた領主だから世間の評判がきつかったんだろう。

 そこまでならまだ良かったんだけど、どんな世界にも逆恨みってのはあるようで、僕が素直に召抱えられなかったのが原因と言い出して、僕に対して損害賠償なんて言い出したんだ。


 だけどそんなの知った事ではないから当然、突っぱねるよね。


 それから怪しい人がうろつくようになり、その排除に苦労する事になった挙句、牢獄魔導具を作る羽目になり、これがまた領主が絶賛してさ、高く買い取ってくれる事になったんだ。

 所持者に対する殺意を感じると魔導具が発動して、殺意の対象を捕縛する魔法が込められた魔導具になる。

 試しに着用して街をうろつくと、6回発動して呆れたもんだ。

 そうしてそのまま衛兵の詰所に行って、殺されそうになったから捕らえたと言って、牢屋に向けて【解放リリース】とやったんだ。

 その事が領主の耳に入ってさ、それを譲ってくれって話になって、商業ギルドで査定してもらったら、黒金貨25枚なんて事になっちまったんだ。

 確かに要人が持てば絶大な効果を生むし、警備の穴対策にもなる。

 お転婆な娘を持つ親も、装備させれば安心するだろうし、貴族連中がこぞって欲しがる事になるだろうと言うのが皮算用の中身だ。


 さすがに黒金貨25枚はきつかったようで、商業ギルドとの共同経営みたいな事になり、領主とのパイプが広がったとして、別口でギルドからの礼金みたいなのが入ったんだ。

 それと共に風呂の分も合わせ、黒金貨28枚はそっくりギルド預金に入る事になり、帳簿の上では僕の資産が増えた事になっていた。

 本当は全部出して物品倉庫に入れたいんだけど、ギルド預金は多い程信用の元にもなるからおいそれと出せない罠になっている。

 もっとも、既に3桁な僕の預金だし、少しぐらい出しても問題無いんだけどね。


 実は牢獄魔導具だけど、いくら権益を得たからと言って、そう簡単に作れると思わないほうがいい。

 あれは僕のイマジネーションを元にした、特殊な空間拡張技術が元になっているから、いくら理論を説いても肝心のイメージが無いと行使出来ないんだ。

 イメージ自体は簡単なんだけど、現物を知らないと多分無理だろうね。

 僕はかつて、インセクトワールドオンラインをやった事があってさ、人間に見つからないように探検をしたり暮らしたりする虫になったゲームをやったんだ。

 その時に仮想的に人間の大きさになる魔法みたいなのを使ってさ、身体が人の大きさになるってのを体験したんだ。

 まあ、虫と言っても小さな人間の格好だから、単に大きいか小さいかの違いでしかなかったんだけど、小さくなったり大きくなったりって体験がさ、今に生きているって訳さ。

 すなわち、超小型の人が入る容器を拵えて、そいつを人間大に広げる空間拡張の魔法を設置したんだ。

 だから殺意を持った存在は、いきなり身動きの取れない場所に押し込まれた感覚だけど、小さくなって容器の中に閉じ込められていたのさ。

 だけど相対的に人の大きさが変わったのではなく、あくまでも空間拡張技術の中にあり、いわばマジックボックスの中の等身大の人型牢獄の中に転送したみたいになっているのさ。

 その理論は既に受け渡したけど、果たして実用化出来るかどうかは開発者のイマジネーション次第になる。

 まあその人型牢獄を1ダース入れたマジックボックスと言えば理解が早いかな。


 ああ、勘当息子だけは別だよ。


 あいつはツイスタースネークって名前のヘビのおやつになっちまったんだ。

 ちなみにそのヘビはさ、まるでマンホールのフタみたいに丸まっているヘビでさ、言わば地雷みたいな存在なのさ。

 うっかり踏むと襲うんだけど、近くを通るぐらいじゃ反応しないんだ。

 しかも手で持ったぐらいじゃ反応しなくてさ、あくまでも上から踏まれないと反応しないって変わったヘビなのさ。

 殺意の6人が消えた後、勘当息子が直々に抜刀してさ、周囲の人が危険だから街の外に逃げてさ、そいつの足元に投げたんだ。

 そしたら見事に踏んでさ、パックリと食われてしまったと。


「ツイスタースネークカモン」


 実は僕の使い魔と言うか、ペットになっているんだよね。

 色の名前を付けるとヤバそうなので付けないけど、どんな名前にしようかと検討中なんだ。

 ああ、この枕、ひんやりとして気持ち良いな。


「マクラ、そのまま待機」


 人のネーミングセンスを言えないな、こりゃ。

 

イエロースネーク……げふんげふん。

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