転生のはじまり
ここが……
今までのVRゲームとは全然違うはじまり……
だって、今までは名前を決めて種族を決めてって……なのに、僕は今、町の片隅でいきなり……
僕? あれ? 僕の名前、何だっけ?
「ルーク、何しているのよ、こんなところで」
あ、そうだった。僕はルークだったんだ。
僕はここ、カイラスの町の宿屋の息子で、今日は初めての学校からの帰り……
「もう、学校から帰ったら手伝い、忘れてないよね」
うん、そういう約束で僕は母さんにおねだりしたんだったね。
勉強がしたいから、文字を知りたいから、計算を覚えたいから……それが宿屋の仕事に役立つからと、僕からおねだりした学校だったんだ。
母さんは計算だけ出来たら良いと言って、商業ギルドの講習だけで終わらせようとしたんだけど、僕が文字を覚えたいって言ったから、その交換条件で宿屋の仕事もやるからって。
どうしてぼんやりしてたんだろう。
母さんにすぐ仕事をやるからと、僕は慌てて家に走り出した。
「いらっしゃいませ。お待たせしました、お泊りですか? 」
お客さんが来るたびにこの台詞……そしてお客さんを部屋に案内して、毎回同じ台詞を言う。
部屋の調度の説明と注意事項を伝えた後、また入り口付近で待機する。
本当は他の仕事もあるんだけど、僕が受け持っているのはお客さんの案内役。
母さんは料理と洗濯があるから、こうしてお客の案内も同時にするのは本当に大変で、だからそれを僕がする事で助かると言っている。
小さな宿屋だから人を雇う余裕も無くて、父さんは今、大きな街で働いている。
次は何時お休みをもらえるか分からないと言っていたけど、僕は別に寂しくはないからって言ったんだけど、父さんはどこか寂しそうだったんだ。
聞き分けの良い子ってのは拙かったのかなって思ったんだけど、親の為にお芝居をするのも何か嫌だなと、あの時はそう思ったんだ。
だけど本当はそうしておけば良かったのかも知れない。
だって、父さんはあれっきり……そう、3年経った今も帰って来ないんだ。
もしかすると、僕じゃない他の子と一緒に暮らしているかも知れない。
その子は寂しがり屋とかで、離れるとちゃんと寂しがってくれる子かも知れない。
だって、僕は……僕にはそういうのは分からないんだ。
寂しいって何? それってどんな感じ? どうしてそんなに泣いているの?
僕にはそういうのは分からないんだ……あの時から。
あれ? あの時って何時なの?
変だなぁ、今日の僕はとっても変だ。
おっと、お客さんだ。
「いらっしゃいませ、お泊りですか? 」
今日はお客さんが多いな。
頑張らないと……