東の国へ
西の国の予定が東の国になりました。
こんなつもりじゃなかったのに、ルークを萎縮させちゃったのかな。
まあなぁ、こんな境遇でいきなり何かをやれと言うのも無理があるか。
うん、ならさ、世界の色々を見に行こうか。
そうして本当に悠々自適になったらまた交代するからさ、のんびりと生きてみるといいよ。
だってここは君の世界なんだしさ、君の身体なんだしさ。
僕は元々この世界に、死にに来たようなものだ。
だから長いチュートリアルみたいな境遇でも構わなかったんだし。
でも、交代になったのなら君の為に精一杯生きてみようと思えたんだ。
あれが僕の身体なら、今頃はもっと違った結果になっていたと思うよ。
ルークの深情けで領主の病は快方に向かっているようで、長居は無用と街を出る。
僕ならそのまま見捨てるところだけど、ルークはやっぱり優しいね。
でもワイバーン特急便は目立つから禁止な。
発想は良いんだけど、他人の目をもっと気にしないとね。
自分が持ってない物を欲しがるのが人間なのさ。
だからね、僕はずっと向こうで苛められていたんだ。
だからこそ、僕は常に人の目を意識して行動していたんだよ。
その僕から見ると君は実に危うくてさ、中からハラハラしながら見ていたんだよ。
つまり、僕が捻くれていて君が素直って事だからさ、ルークが気に病む事は無いんだよ。
世間がルークみたいな人ばかりなら、君は本当に自由に生きられたのだから。
それが理想とも思うからさ、僕は君の事を大事に思うのさ。
僕は自分ではやれない事をやれる人は尊敬したいしね。
それにしても、族長の娘の事は気にも留めてなかったね。
そりゃ僕で相対した訳だけど、あれを感じて何も思わなかったのかな。
君がそっち方面に疎いなら、僕もこのままの路線で行くけどさ、伴侶が欲しいならちゃんと自己主張はしないとね。
君が選んだ娘なら僕も大事にするし、ずっと君が出たいと思うなら、僕は裡で眠りに就くよ。
それこそが僕の希望でもあるのだから。
とは言うものの、経験ぐらいはしておくべきかな。
本当はルークで経験させてあげたいけど、その手の知識皆無だとコロリとやられる可能性もある。
人間の半分は女だけどさ、やっぱりルークみたいな人ばかりじゃ無い訳でさ、金があると知られたら、離してくれなくなるかも知れないのさ。
幻影系の魔法でフツメンに……ルークって実はかなりのイケメンでさ、だからこそ変な虫が付く羽目になるのを怖れて変装必須ではあったんだ。
それが後に幻影系の変装魔法になったんだけど、小銭の財布とフツメン魔法で下町のそれ系の店で初体験をあっさりと済まし、念の為に万能薬を飲んで話は終わった。
そういや近所のお姉さん、あれからどうなったのかな。
怪我していた僕を介抱するという名目で、僕の身体を撫で回していたよね。
その時に初は捨てる事になったんだけど、それからしばらくはお姉さんと行為をしてたんだけど、そのうち居なくなったんだよね。
僕は僕で発散になっていたから文句無かったんだけど、世間はそうじゃなかったって事かもね。
あれで発散の場を失った僕は、遂に耐え切れなくなってあの世界から消えたいと思うようになったんだっけ。
通報した奴、馬に蹴られて死んじまえよ。
なんて今ならそう思えるんだけど、当時はそんな余裕は全く無かったな。
だからって訳じゃ無いけど、手練手管に惑わされる事もなく、速やかに終わらせて外に出たって訳だ。
まあ、ルークにはカルチャーショックになったかも知れないけどさ、くっくっくっ。
まあ何だ。
子供を作る行為に快楽を伴わないと、人間なんてすぐに滅亡しちまうと神様が思ったんじゃないかな。
あちらの世界の事はともかく、こちらの世界じゃそれで通らない事もないんだし。
全ては神様の差配なされた事と思ってさ、後々はやってみるといいよ。
夫婦になればあれを当たり前のようにやる事になるんだしさ、だったら慣れておいたほうがお得ってもんさ。
何ならルークが慣れるまで通っても良いんだよ、くすくす。
まあ、僕はどちらでも良いけど。
西の国に行く予定が東に興味が向き、街から街は空を飛んだり走ったりしながら、夜は夜で空中浮遊の魔法で漂ったり、土遁の術みたいな魔法で潜ったりしながら旅を続ける。
物品倉庫の中には干し魚や料理をわんさか入れてあるのと、水魔法が得意なので飲み食いに困ったりはしない。
食べた後は肥料の材料にしたり硝石の材料にしたりと、実に無駄の無い事になっている。
その手の魔法の確立の恩恵で、トイレ魔導具も作れたりした。
だから用を足す時にはそれを出し、肥料と硝石の製造魔導具に分けられて備蓄する事になる。
ゆくゆくは店でもやる時にこれを据えて、お客には喜ばれて肥料造りになると良いとも思っていたり。
まあ時々、森の中の腐葉土や魔物の骨を粉砕して足してやっているんだけどさ。
そうしてやって来ました東の国。
山岳地帯と言う事もあり、海の魚は干物が何とか届くぐらいで、それもやたら高いのが特徴。
その代わりに魚と言えば湖か川から獲れるのが当たり前になっていて、魚料理と言えばそれが材料になっていた。
商業ギルドで会員証を出し、海の魚が生きたまま手に入ると囁けば、すぐさま応接室に通される。
僕は仲介と前置きをしたうえで、カツオンとマグロンとハマチニシンがかなりあると告げる。
あのね、魚の名前はさ、かつての誰かが付けたんであって、僕じゃないんだよ。
酷いネーミングセンスと言わないでくれるかな。
僕も初めて聞いた時、我が耳を疑ったぐらいなんだからさ。
いくらハマチの形状でニシンの味だからと言って、ハマチニシンは無いよね。
ならハマチの味がする魚は無いのかと言うと、ハマチニシンモドキって魚が居るんだよ。
まるで本末転倒みたいな話だけどさ、先にハマチニシンが定着した後でハマチそのものが獲れてさ、モドキが付いちまったらしいんだ。
冗談みたいな話だろ。
それはともかく、水槽に入れた魚を見せてやれば、かなり興奮していたんだ。
かなりの値が付くだろうと、そのまま競売に出す事になったんだけど、でかい水槽に全部入れて欲しいと言われてさ、そこで水棲生物用のマジックポーチと吹いて、物品倉庫からつらつらと水槽に入るだけ出したんだけど、ポーチを欲しがって参ったよ。
あんまりしつこいから隣国の王都のギルド長が権利を持っているって言ってやったらさ、そこで矛先が変わって助かったんだけど、あいつに矛先を向けちゃって悪かったかな。
まあ、傍らのやり手の奥さん? いや、秘書かな。
彼女が巧い事やりくりするだろうし、欲しいなら発注すれば良いのさ。
もう魔導具屋の彼女は商業ギルドの懇意になっているんだし、言えば開発ぐらいはしてくれるさ。
ミリア魔導具店なら大丈夫さ。
困ったら彼らに押し付けてます。