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俄かなる交代劇

少しの予定が長引いた話。

 

 師匠との生活も何だかんだで長引いて、僕は19才になった。

 海辺の民との契約で魚も大量に仕入れられるようになり、師匠の備蓄もかなりの量に……いや、僕が作った料理の数々な。

 師匠は役得なのか、やっぱり倉庫は持っていて、僕の料理を備蓄したいと言い出したんだ。

 それで海辺の民と契約する羽目になり、修行してんのか料理してんのか分からない日々になったんだけど、それでも一通り作って修行は終わったんだ。

 確かにHPポーションもMPポーションもエリクサーも若返りも大量に拵えたんだけど、それ以上に料理を作った気がする。

 それでさ、ちょっと変わった魔法の開発をやっちゃってさ、師匠が少し呆れていたような……


「生活魔法なれば聞いた事もあるがの、台所魔法と言うのは初じゃの」


 そう、キッチン魔法の開発である。

 師匠の言によると、魔法の基礎は普通、1年もやれば上等らしく、さしもの師匠も基礎3年だったようで、8年の僕には驚いていた。

 実は基礎は長くすればする程、自由度が広がる事が後に分かったようで、だからこそ常人の3倍の基礎をやった師匠はオリジナル魔法の開発もやっていたとの事。

 だからこそ僕の魔法の開発自由度は前代未聞と言われ、その気になって研究して確立したのがキッチン魔法になる。

 かつてはあちらの世界で見た台所用のあらゆる道具の数々の効果を、魔法で再現するのがキッチン魔法だ。


 泡立て魔法は言うに及ばず、ジューサーや肉挽器などの道具の効果も魔法で再現し、アイスクリーム魔法も確立した。

 更には蒸留器の効果も魔法で再現し、ワインからブランデーを造る事にも成功している。

 そうしてエールじゃない麦からの酒である、下面発酵のラガービールの製作にも成功し、それを元にしたウイスキーにも成功した。


 いやね、別に僕が呑み助って訳じゃないんだよ。


 実はお師匠さんが酒に興味を示してさ、すっかり気に入っちまったのさ。

 だから、料理とは別に酒の備蓄もしたい、などと言い出してさ、余計な仕事が増えちまったのさ。

 当初はHPポーションを極めたらお暇しようと思っていたのに、あらゆるポーションを極める羽目になった挙句、料理に酒にと寄り道の結果、1年が2年になり、そして3年目って具合にずるずると長逗留になっちまってんのさ。


 え、今? 属性魔法と回復系の魔法を教わっているよ。


 もちろん基礎だけどさ、僕のイメージにそれがプラスされてさ、実に良い具合に確立していくのさ。

 動物に効く回復魔法は実は植物にも効くようでさ、文字通りの促成栽培がやれる魔法も出来たんだ。

 庭に植えて【大地活性】これでタネの周囲の環境が良くなって、発育が実に順調になるのさ。

 後は【転化肥料】大気中の元素から肥料成分を抽出すると共に、大気中のマナを植物に与える魔法になるんだけど、これも実に調子が良い。

 もっとも、室内でやる時は空気成分が怪しくなるから、換気は必須になるけどね。

 この世界の大気にも窒素は大量に含まれているようで、イメージのままに肥料の抽出は巧く行ったんだ。

 後は魔物の骨を砕く魔法も確立し、肥料は実に栄養たっぷりになったんだ。


【粉砕魔法】は元々、みじん切り魔法から派生した魔法になるんだけど、果物の破砕にも使えるからと、色々と発展形を考えていた矢先、肥料にも応用出来そうだと思って出来たのが【骨粉魔法】になる。

 魔物の骨にはマナ成分が浸透しているから、肥料にマナを含ませるのに役立つんだ。

 この世界の畑には栄養素が殆ど無く、畑は休ませないと連続では作れないのが常識になっている。

 もとより栄養素よりマナのほうが重要なようで、1年休ませると畑にマナが浸透し、また使えるようになるらしいのだ。

 いわば自転車操業な畑作のようで、肥料の概念も殆ど無く、だから腐葉土とかも取り放題になっていた。

 そんな訳で特製肥料の大量生産になった訳だけど、師匠の家の周辺の大量の腐葉土はこうして利用されるようになったんだ。

 師匠も畑作に興味を持つようになり、巷から色々な種や苗を仕入れ、庭先に作った畑であれこれと育てるようになったんだ。

 もちろん、特製肥料もかなり渡してあり、師匠の畑は栄養たっぷりになっている。


「これがエールの魔導具で、こっちが蒸留器の魔導具、これが野小麦の魔導具で、これが魚を焼く魔導具、これで良いかな」

「ほんに研究家じゃの。おぬしのお陰で色々な楽しみが出来たわい。ほんにご苦労じゃったの」


 ここに来て早6年の歳月が流れ、24才になった僕は世界を見て回ると師匠に別れを告げる。

 さしもの領主も諦めたろうと、生まれ故郷を見に戻ろうと思っている。

 そこでもし、ルークが目覚めるようなら、そろそろ交代しても良いしね。

 狩りの技能も磨いたし、魔法もあれこれと使えるようになったし、資金も大量で資材も大量だし、商売がやれそうな品もあれこれ入れてある。

 だからもし、目覚めても苦労をする事は恐らく無いからさ、今度は失敗するんじゃないぞ。


 人は他人を羨んで、すぐに貶めようとするのだから。


 かつてのルークの故郷に辿り着くと、裡でうごめく感じがする。

 そうしてかつての宿に泊まり、そのまま深い眠りに就く。

 色々あって疲れたし、しばらく交代で良いからさ……ルーク。


 ~☆~★~☆


 長い長い眠りから目覚めた気持ちだけど、僕の家だよね。

 でも、記憶が……僕の中の人が色々してくれたみたいで、僕は自由を手に入れているみたいだ。

 母さんは心の病気のせいで、僕の事を忘れちゃったみたい。

 それは悲しいけど、仕方が無かったんだと今ならそう思えるよ。

 人は他人を羨んで、すぐに貶めようとする……か。

 それでうっかり問題を解いたのが全ての発端なんだね。


 あれから16年も過ぎているのか。


 もう宿の客は知らない人ばかりになっているし、近所の人達も見覚えの無い人達ばかりだね。

 かつての学校も場所が変わったのか、何かの建物になっていたし。

 そういや領主様が病気になって代替わりになって、療養はしているけど先が怪しいとか噂になっていた。

 何かの病気らしいけど、国の王様に何かを頼んでいて、それが成されないと困った事になるってさ、中の人が拵えた薬で治りそうだよね。

 おっと、ここで素直に持って行ったりしたら、また前みたいになっちゃうのか。

 気を付けないと、中の人の苦労が無駄になっちゃうところだったな。


「ちわぁ、ワイバーン特急便です」

「当館に何用ですかな」

「王都よりの特急便を承りまして、こちらにお届けするように言付かっております」

「それは、もしや」

「詳しい事は存じませんが、王宮からの命を受けまして。えっと、こちらになります」

「こ、これは」

「こちらに受け取りをお願いします」

「は、はい……ああ、旦那様、これで、これで」


 ふうっ、変装してやってみたけど、これで治ると良いよね。

 確かに拘束は嫌だったけど、流されても良いかなって思っていたんだし。

 中の人が頑張ってくれなかったら今頃は……でもその場合は助からなかったって事だから、これで良かったんだよね。

 一族にはならなかったけど、目を掛けてくれた恩返しになったかな。


 でも、ワイバーン特急便かぁ、空も飛べるようだし、そんなお仕事も面白そうだな。


 確かに大きな街と街は魔導飛行船で結ばれているけど、荷物1つ手紙1つ届けるのに持って行くのも大変だよね。

 まずは商業ギルドと提携しての荷物運搬代行……ああ、中の人じゃないと拙いかな。

 中の人と同じような人達みたいだし、僕じゃ違うと思われそう。


 だって発想とかよく分からないし。


 母さんと父さんの様子も見たし、故郷の様子も見たし、領主様への恩返しもやったし、もう思い残す事は無いかな。

 うん、だからね、中の人。

 ずっと君で良いよ。

 だって僕じゃあこんな事、きっとやれなかったろうし。

 これからも僕は中から見ているからさ、色々な物を見せて欲しいんだ。

 僕ではやれそうにない凄い事を、ずっとずっと見せて欲しいんだ。


 だから、起きたらまた君は……そして僕は……

 

師匠と過ごした6年の年月は、ある計画を狂わせたようです。

その結果がどうなるのか、これから出て来ます。

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