解放されし才能
お師匠様との邂逅は、中の国の野草採取の頃です。
好きなだけ汲めと言われ、樽に入れていくんだけど、あのお兄さんは今、双子の白黒姉妹と湖で戯れている。
実は取り成したんだけど、それも芝居の内と言うか、姉妹に頼んでおいたのさ。
また悲しい話を仕入れて来るから、お兄さんを何とかして欲しいって。
とは言うものの、悲しい話のストックは残り少ない。
しかもだよ、こっちに来てもう10年以上が過ぎてさ、あんまし覚えてないんだよ。
更に言うなら広く浅くの弊害であらすじぐらいしか分からない話が多くてさ、多分にアレンジされている話になっているんだ。
特に今回のフラ犬だけどさ、生きている間は認められず、死んだ後に認められた画家ぐらいしか覚えてなくてさ、話の構成が大変だったんだ。
しかも、こちら風の話にアレンジするものだから、もはや元の話の原型すらも無いだろうね。
まあ、素材は大量に得たから、もう当分来なくて良いと思うけど、また無くなったらその時は……参ったなぁ。
「やっほー」
「上級かの」
「何とびっくり最上級」
「素材を揃えたと言うか」
「だから貸してね、調合セット」
「アレはどうした」
「うえええ、500本も渡したのにもう無いの? 」
「当たり前じゃ。あれからどれだけ過ぎたと思うておる」
「まだ1年ぐらいだよね」
「日に2つなれば1年であらかたじゃ」
「もったいないなぁ。あれ、卸価格でも高い場所だと5本が金貨1枚だよ」
「ぼったくりじゃの」
「ここなら金貨50枚だね。こんな山奥で貝とか、何処のギルドに頼んだら運んでくれるのよ」
「なればの、おぬしに術を授けようの」
「え、何、唐突に」
「マジックポーチは知っておろうの」
「そりゃ素材満載で持っているけどさ」
「あれは紛い物での、中の時が過ぎればどのような品も朽ちようの」
「もしかして、勇者が持っていたとかいう、アーティファクトの話? 」
「あれは実は術での」
「そんなのどうやって伝授するのさ」
「しばらく動くでないぞ…… タカマガハラニ・カムヅマリマス・カムロギカムロギノミコトモチテ・スメミオヤ・カムイザナギノ……」
なんか急に真剣な表情になったのは良いけどさ、それって祝詞だよね。
この世界の何処に高天原があるのか、ちょっと聞いてみたくなるよね。
それにしてもだよ、今までずっと異世界気分だったのに、ここで急に仮想世界な雰囲気になったよね。
師匠が急にNPCに見えてきたんだけど、どうしてくれるのよ、この雰囲気は。
「……キコシメセト・カシコミカシコミ・マオス」
あ、終わったみたい。
けど、何かが変わった気はしないんだよね。
「ほれ、唱えてみるがよい」
「え、何を」
「おぬしの能力を現す呪文じゃ」
「え、まさか、あれ、使えたりするの? 」
「何じゃおぬし、あれを使った事は無いのかの」
「だってさ、やって出なかったら落ち込むんだよ、あの手の奴は」
「良いからほれ、出してみるがよい」
中二病な台詞だから今まで封印してたけど、本当に出るんだろうな。
「ステータスオープン」
出ねぇじゃねぇかよ。
うううう、恥ずいぃぃぃ。
「何を顔を真っ赤にしておるのじゃ。しかもあれは何じゃ。ちゃんと諸元開示と唱えぬか」
うえっ?
まさかの日本語。
それで祝詞なのか。
仕方が無いなぁ。
「諸元開示」
名前 ルーク
種族 人族
年齢 18
階級 平民
等級 87
体力 かなり高い
魔力 とても高い
筋力 かなり高い
防御 それなりに
敏捷 それなりに
相変わらず数字は出ないのね。
「金貨1枚儲かった」
「神殿こそがぼったくりじゃの」
「これって誰の諸元も出るの? 」
「じゃからぼったくりと言うておる」
「うわぁ、酷いなぁ」
「知らねば使えぬ術じゃて。それよりその下の表記を確認するのじゃ」
あれ、まだ何か書いてあるな。
術式 調合術・魔法術・戦闘術・生産術
特典 物品倉庫・精神耐性・痛覚耐性
才能 風魔法の才能・水魔法の才能
称号 『竜を泣かせし者』『世界樹からの搾取者』『貝の天敵』『逃亡者』『才子』
「何かやけに増えているんだけど」
「解放じゃ」
「どういう意味なの」
「今までのおぬしに隠れておった術の数々も、これでようやっと解放になったのじゃ」
「もしかして、あの、マオスとか言うのが」
「一番最後だけ覚えたのかの。呆れた奴じゃ」
もしかして、勇者の解放とかもやっていたのかな、お師匠さん。
こんな山奥で、誰も来ないだろうに、それでも待機みたいにずっと待っているとか、僕なら耐えられそうにないよ。
「良いか、生きた魚を持って来るのじゃ」
「どうして街に引っ越さないの? 不便でしょ、ここ」
「神との約定なのでの、下山すれば我が命は容易く尽きようぞ」
「僕は勇者じゃないよ」
「分かっておる。ワシの気まぐれじゃ」
「しばらく来れないけど、次に来る時には生魚だね」
「うむ、たんまり持って来るのじゃ。そして料理を作るのじゃ」
寂しいんだろうね、やっぱり。
それにいくら約定でもさ、使命とか思ってないと気力が尽きるよね。
まあこれも何かの縁だしさ、可能な限りは訪ねるよ。
マジックポーチの素材やアイテムを全て物品倉庫に移し、すっかり空になった愛用のマジックポーチ。
最上級ポーションも可能な限り作り、お師匠さんの合格をもらいました。
「おぬしもようやっと一人前じゃの」
「やったね」
「ついてはの、少しばかり置いてゆくのじゃ」
「うえっ」
「良いな」
「ういっす」
苦労した素材で225本作れた最上級ポーションのうち、100本を師匠に渡しておく。
「おぬし、そんなに良いのかの」
「無くなったらまた造ればいいんだよ」
「そうかの、なればありがたくもらっておくぞぃ」
「焼き魚と魚フライ、どっちが良い? 」
「持っておるのかの」
「薄塩の干物だよ」
「なれば焼くのじゃ」
「あいよ」
魔導炊飯器に野小麦……つまりお米を入れて炊く。
後は魔導魚焼き機に薄塩の干し魚を入れて焼く。
この手の魔導具は彼女の店に発注した品であり、改良を重ねてかなり気に入った品になっている。
実はあいつらもこれを欲しがり、ついでに権利も欲しがったけど、彼女に全て委譲したから残念でしたになっている。
その代わり、改良版なこれはタダで作ってくれたのだ。
後の儲け確実だから気にするなと言われ、ありがたく予備も含めてもらいました。
「おぬしまた腕を上げたかの」
「独り暮らしだったからねぇ」
「そろそろ娶らぬのかの」
「いや、そういうのはいいや。独りのほうが気楽だし」
「おぬしがそれで良いのなれば構わぬがの」
確かにルークはこの世界の人だけど、今は僕が表なんだ。
そして僕は異邦人な訳で、娶るならルークの意見を取り入れないとね。
そのルークは未だ眠ったままなんだし、となれば独りで構わないさ。
それにさ、僕も何時までも若い訳じゃないしさ、年を取ったらここに来るからさ、死ぬまで良いよね。
そういうのも家族が居ないほうがやり易いでしょ。
でも、ルークが目覚めたらその限りじゃないけどね。
等級がやけに高いようですが、10年間の日課として、周辺の魔物退治は彼の気分転換にもなっていたのです。
その途次で探索ギルドへの加入もやってまして、階級もそれに従って昇りました。
ちなみに階級ですが、GからSSになってます。
探索ギルドは権力者から身を守る為に、当時の有力な探索者が集まって出来た組織であり、組織員のプライベイトは極力詮索しない事になってます。
なのでルークの事が領主に伝わる事は無かったのでした。




