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新たなる旅立ち

時の経つのは実に早いですねぇ(汗

 

 干し貝作りもいよいよ終わり、これからは集落の儲けになると、来年からの作業に皆の意欲は高い。

 王様御用達はもとより、国内需要に交易品目にと、コンスタントに高く売れるようになったからだ。

 もう補助通貨は完全に子供の小遣いと化し、それぞれの世帯には金貨の備蓄もある。

 実はあちこちの海岸沿いの少数民族への技術供与があり、見返りはあるものの皆で幸せになろうという計画の元、それが成されたのだ。

 なのでますます豊かになり、集落の中には商業ギルドの支店も出来ている。

 生鮮トラックならぬ生鮮馬車が行き来して、国中の関連商店へ運搬が成されている。

 それでも無理なら干し魚になりはするが、薄塩の干し魚はそのまま料理に使えると、世間の奥様連中の受けも良いらしい。


 それはそうと。


 魔法の基礎も8年が過ぎた頃、遂に魔法を発動する事になった。

 それと言うのも恒例の狩りで変異種に遭遇し、絶体絶命の危機でやむなく発動してしまったのだ。

 本当は10年間の基礎のつもりが、2年短縮になったけど命には代えられないと思っての事。

 もちろん基礎はやりながらでも魔法のイメージの構築も日課になっていたので、即座に無詠唱で発動する事が出来た。

 それは良いのだが、オーガの変異種だったのに、ウィンドカッターってやったら2分割になっちゃってびっくりしたよ。


 基礎8年の効果は凄まじいと、改めてあの本に感謝を捧げたものさ。


 更に言うなら本当に自由自在な発動がやれてさ、風の刃で剥ぎ取りがやれるんだよね。

 だから獲物から離れて解体がやれるから、返り血を浴びる事なくバラせたのさ。

 んでもってバラした素材は水魔法で汚れを洗い流してさ、とにもかくにも解禁となったからには、これからドンドン使おうと決めたのさ。

 基礎はとりあえず終わって次は魔法の熟練だと思ったのさ。


 あれから2年が経ち、魔法はかなり熟練したと思っている。

 だけど上を見れば恐らくキリが無いはずで、もっともっと精進しようと思っている。

 風の刃も使い道が他にもあり、そのせいで他の……ああ、使えば分かるか。


『エアウイング』……風の刃を翼のように身体の左右に展開する魔法。

『テイクオフ』……いわゆる離陸になるんだけど、一連の動作を無意識にこなせるように訓練したんだ。


 ああ、気持ちが良いな。


 初夏の大気の中をのんびりと飛ぶ。

 赴くままに無意識に魔法の制御が成され、まるで元から空の住人のような気分になる。

 10年の狩りの成果はレベルに如実に現れ、集落の周囲の危険な魔物もいなくなり、僕の副業として小遣い稼ぎとなった挙句、ランクCになっている。


 8才でここに来て早10年。


 母親は結局、病んでいたのだと思う。

 だってもう、僕の事なんて記憶の欠片にも無いようで、出会っても他人を見るような目付きだったんだ。

 あれで僕の奥底でうごめいていた気配が止まったから、ルークはまた絶望したんじゃないかと可哀想になった。

 結局、実家の宿は商業ギルドに委ね、人を雇って継続になっているとの事。

 干し魚や干し貝を優先的に回すので、それなりに繁盛していると聞いた。


 実は父親に会い、母の事を頼んでおいた。


 どうにも僕の事を覚えてない風な母親の様子に、やはり何かおかしいと思ったらしい。

 後は王宮からの名誉貴族の話を父親に回し、商業ギルドとの契約って表向きの立場を与え、共に幸せに暮らすようにと言っておいた。

 その時に、今の境遇の話をされたので、つい僕の借金にされたけど払っておいたからって言っちゃったんだ。

 やはり何かの裏を感じていたようで、済まないと連呼されたけど今更の話だからと伝えておいた。

 なのでもう、領主に対して後ろ暗い事は無いから、安心して暮らして欲しいと告げて親と別れたんだ。

 だから今、僕の父親は名誉貴族となり、母親と悠々自適の中にある。

 本当に色々な事があった10年だけど、そろそろ旅立ちの時だろうね。

 ほとぼりが冷めるまで最低10年と言われ、少数民族の集落に逃げ込んで10年。


 当時8才の僕は18才になった。


 3年前に成人の祝いを集落でしてくれて、族長の娘からのアタックを交わし続けている。

 それはまるで鈍感主人公のように、朴念仁のように。

 そのせいか、精神耐性のスキルでも付いたかのように、クールに流せるようになってきた。

 抱き付かれても自然に流したり、寝所に潜り込んで来ても放置して熟睡したり、色仕掛けに気付かない振りをしたりと色々だった。

 ありがとう、ケイト。君のお陰で精神修養が出来たと思うよ。

 さあ、準備も整っているし、このまま一気に南下しますかね。


(ルークが戻らないの……逃げられたな……そんなぁ……あいつはな、逃げるとなったらとことんだからな、当時の故郷の領主すら振り切ったんだ。だからもう無理だと思うぞ……何処に行ったの……それは言えんな……お願いよ、教えてよ……あいつなら中の国だろ……バカ、余計な事を言うな)


 ~☆~★~☆


 中の国上空をひたすら飛び、いよいよ南の国が見えてくる。

 最初は中の国の予定だったけど、やっぱり海の無い国はつまらない。

 それに遠征で散々、中の国の山菜は採取しまくったからだ。

 その時に珍しい薬草もいくらか得て、伝手もあったけどポーション作りがやれるようになった事もでかい。

 低級や中級のポーションはさ、備蓄するのには向かないんだ。

 特に低級は数ヶ月で変質し、半年で水になってしまう。

 中級も1年で性能が低下し、2年で確実に水になってしまう。


 その点、上級ポーションは何年備蓄しても殆ど性能が低下しない。

 ギルド支店でも数個の備蓄があるらしく、10年物とか20年物ってのがあるらしい。

 聞くところによると、上級ポーションの性能低下は50年らしく、100年で水になると言われている。

 そして現在、国宝になっている最上級ポーションは、大陸統一国家だった頃からの品らしく、数百年を経過して尚、その性能は低下してないらしい。


 僕は今、上級ポーションの製造法はマスターし、最上級ポーションの練習中になる。

 仙人みたいな師匠に習い、森の奥深くから希少な素材を集めまくり、製造の日々だったのだ。

 あの日はたまたま山奥に小屋を発見し、興味から訪ねてみればそんな人。

 調薬を少しでも教わろうと思ったら、これこれこんな素材を集めて来いと言われたんだ。

 魔物の巣のような場所からの採取は困難を極めたけど、魔法が解禁になっていたからそこまでの事もなく、集めまくって届けたらすぐさま作るぞと言われてそれから1ヶ月、寝食を問わない拷問みたいな教授の後、何とかものにして現在に至る。


 まあ、寝食を問わないと言っても、料理は僕が作っていたけどね。


 あの師匠、貝料理がすっかり好みになっちゃって、教授料に洗い浚い置いていけと言われて、手持ちの串を500本渡す羽目になっちまった。

 乾燥のままだと数年いけると言えば、後々の楽しみが出来たと嬉しそうだった。

 その見返りと言えば何だけど、ポーションの造り方を教わった事はありがたいと思っている。

 そして今、南の国に向かうのは、最高級ポーションの材料を集める為。

 高級ポーションは既に1000本になってマジックポーチの中で眠っている。

 最高級も1000本になるまで造ろうと思っているけど、中々に素材の入手難易度が高いんだよね。


 本当はこれ、ヤバいんだけど、エルフの集落の中心にある樹の天辺付近にうろがあるんだけど、そこに樹液が溜まるんだ。

 それをひしゃくで掬って壺に入れているんだけど、バレたら大騒動になるんだ。

 だってエルフは他の国との交流をやってないので、不法侵入扱いになってしまうから。

 だから早朝のまだ暗い頃に上空からの侵入でこっそり採取になっているんだ。


 次は更にヤバい素材だ。


 この樹木の新芽なんだけど、あんまり採ってうっかり枯れちゃったら大騒動どころの話じゃない。

 対人族全面戦争にもなりかねない話だ。

 なので気配を殺してこっそりと新芽を……

 散々採った頃に周囲の気配が賑やかになる。

 木々の間から下を見ると、みんなが上を注目している。


 ヤバい。


 幹に沿って上空に向けて飛んで飛んで飛んで……遥か上空で人心地付き、次なる採取場に向けて移動する。

 それは良いんだけど、次なる採取場はともかく、入手方法が大変なんだ。


「……そうして2人は抱き合ったまま、冷たくなっていったのでした」

「うっうっうっ、可哀想」

「うわぁぁぁぁん、可哀想だよぅ」


 今泣いているのは白竜と黒竜の化身なんだけど、それぞれの涙が素材ってふざけてるだろ。

 自分達を泣かしたら素材はくれてやると言われてさ、それから名作劇場の悲しい結末の話をしているんだけどさ、ネタが尽きそうなんだよ。

 今回は何とかフラ犬でやり過ごしたけど、次はどうしようかと思っている。


「お前、悲しい話、たくさん、知っている」

「私達、また、泣きたい、だから、また、来て」


 どうにも悲しい話が好きらしく、泣かせろ泣かせろと煩いんだよ、こいつら。

 それはともかく、あらかたの素材は集まったから、最後の難関に行きますかね。


「ちぃーす」

「また来たのか、おぬし」

「他の素材は揃っているよ」

「あやつらを泣かしたな。どのような事をしたのやら、人間風情が」

「あれ、聞いてないの? 悲しい話だよ」

「いい加減な事を抜かすでない。話如きであやつらが涙を見せるなどあり得ぬ。さあ、言え、言うのじゃ。どのようにして泣かせたのじゃ」


 この竜ってさ、あの白黒のお兄さんでさ、ちょっとシスコンが酷いんだ。

 だから毎回こんな話になっちゃってさ、説得するのが大変なんだ。

 え、最後の素材は何だって?

 うん、この竜が住んでいる湖の水なんだけど、説得しないと汲ませてくれなくてさ。


 でも、今日は秘密兵器があるんでした。


「「兄ちゃん、止めてぇぇぇ」」

「うっ、お前、達」

「来なくなったら困るでしょ」

「悲しい話、他に聞かせてくれる人居ないんだよ」

「彼を苛めるお兄さんなんて嫌い」

「大嫌いっ」

「うおおおおおおおお」


 効果はばつぐんだ。

 

彼の魔法がチート臭いのは、下積みの長さが原因って事になってます。

8年間の扱いの熟練と、オタクっぽい彼の濃厚なイメージのたまものです。


ちなみに彼の『ウィンドカッター』ですが、イメージの果てに風の圧縮と速度を増して切断力を限りなく高める為のあれこれをひたすら考えた結果です。

この世界の人では到底出ないイメージですが、彼の広くて浅い知識の中にはアニメや小説での魔法の知識が相当量詰まっているようで、それが長年のイメージで凝縮された結果なのです。


本来なら制限を掛けるのですが、彼は必死で全開で撃った結果でもあるようです。

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