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逃げた先では干し貝三昧

いよいよ逃亡ですが波乱はありません

   

 その日、何かしら買って来た事にして、ヨッパな彼は一足先に熟睡の中にある。

 僕は夜中の散歩という、日課をこなすんだけど、明け方に戻ってくるから見て見ぬ振りをしているようだ。

 そして今夜も床を抜け出して……


「また行くのかぁ」

「身体が鈍るからね」

「早く戻れよぅ」

「あいよ」


 着替えているとそのまま眠ったようで、すっかり諦めたと思っているようだ。

 既にダミーと荷物を入れ替えて、彼の所に置いてある。

 だから僕の荷物の中には、杖みたいなただの棒とか、本のような木の板とかが入れてあるだけだ。


「おまたせ」

「首尾は? 」

「すっかり諦めていると思ってるさ」

「まあ、普通は金貨100枚とかって言われたら、そのまま諦めるものよね」

「あいつ来たらお金と受け取り証よろしく」

「分かっているわ。何処に出しても通用するようなのを書かせるから」

「何年かなぁ」

「そうね、最低10年ね」

「やれやれ」

「頑張りなさいよ」

「ありがと」


 とは言ったものの、相談役におとなしくなると思うなよ。

 確かに干し貝は作るつもりでいるけどさ、そのノウハウを教えると思うなよ。

 海水を清水で3倍に薄めた塩抜きとか、言わないときっとそのまま干すよね。

 そしてきっと下味は付けないんだろうね。

 竹は無いけど木の串はあったから、大量に買い込んであるんだよ。

 住む所はあると言ったから、軒下に連ねて陰干しにしたいけど、天日のほうが美味しくなるはずだ。

 となると南側に干す事になるだろうけど、どれぐらいの大きさのハマグリもどきかな。


 ざっくりと天日で干して縮んだら、木の串に挿して軒下で乾燥させたほうがいいな。

 1串に5つ挿せるなら、10個で銅貨1枚として、金貨100枚だとどれぐらいになるかな。

 貝殻はそのまま補助通貨になるとして、銀貨1枚で1000個だから10万個で金貨1枚か。

 となると1000万個のハマグリもどきで金貨100枚になるな。

 この場合、補助通貨として返還になる額は、1つの貝から2枚の貝殻だから50個で銅貨1枚になる。

 1000万個の貝は2000万枚の貝殻だから、銅貨にして20万枚だから、銀貨にして200枚、つまりは金貨2枚か。

 となると金貨100枚で1000万個の買取契約にして、補助通貨の分だけ相手がお得になるって事だよな。


 果たして金貨2枚分お得になると話して、手伝ってくれる人は出るかねぇ。


 ~☆~★~☆


 案ずるより産むが易しか。


 結局、街での取引額より上げる事で、こちらに全て売るって事で決まった。

 わざわざ売りに行っての取引より、こちらで少し手伝うものの、高く買ってくれるなら文句は無いらしい。

 砂抜きの後で薄塩での塩抜きをした後、特製ダシで煮込んだ後で天日に干し、縮んだところで串に挿して軒下で完全乾燥させる。

 1串に2つが精々だった、干して縮んでも尚、でかいハマグリもどき。

 本当はただ、貝としか言ってなくてさ、名前が付いてないって言われてもさ。

 だからハマグリもどきって言っている訳なんだけど、それで定着しつつある今日この頃。

 後は貝柱を別口で干し、貝殻は手間賃として手伝いの人に渡す事で合意。

 一家で毎日、銅貨2~3枚の収益になり、交代制での手伝いになったのもありがたい。

 軒から紐を垂らして串の左右に縛り、つらつらと重なった串は天日の中で輝いている。

 あの輝きがくすんだ頃には完全に乾き、何年も腐らない干し貝になるのだろう。

 貝柱は小さいせいか先に乾き、大人連中が盗み食いするので困っている。


「金取るぞ」

「そう言うなよ。な、あんまり食わないから」

「どうだ、生より旨いだろ」

「ああ、驚いたよ。まさか干したほうが旨いなんてな」

「一通り終わったら後はあんたらの儲けだ。たくさん作って干してやれば内陸にも売りにいけるさ」

「腐らないと言うのも凄いな」

「今回はまだだぞ」

「ああ、分かっているとも。お前のが全部終わってからだな」

「ほれ、これだけあれば良いだろ」

「悪いな。これが酒に合うんだよ」

「はいはい」


 しょう油が無いから佃煮にするのに弱ったぞ。

 結局、試作品のしょう油もどきを出す羽目になっちまってよ。

 今、樽で仕込んでいるんだけど、3ヶ月は動けないのが困るな。

 場所が発覚したら逃げないといけないのに、干した貝だけならまだしも、仕込んでいるしょう油に困るよな。


 てかさ、そろそろ魔法も使いたいよな。


 もう自由自在に動くようになったんだけど、まだ無理かなぁ。

 中途半端になるのが嫌だから、ひたすら基礎をやっているんだけど、いい加減、魔法も使いたいところだ。

 水晶珠の色から見るに、火以外に適性があったんだ。

 もちろん、火も全然無い訳じゃないけど、水が一番強いって事は、必然的に火は弱いって事になる。

 色見と呼ばれる水晶珠の魔力の色を見る人が居て、頼んだら水が一番、風が2番、一番弱いのは火だと言われた。

 どうやら色々混ざっているようで、熟練すればどんな属性でも使えるようになるだろうとの事。


 要は努力あるのみって事らしい。


 いよいよ寒さも緩んできて、貝毒の季節がやって来る。

 そうなると収穫は終わりとなり、全て干したら仕事が無くなってしまう。

 集落全員で貝堀りを毎日やって、運ばれたのが総数で10万個ぐらいある。

 今年は途中からだから少ないけど、来年は50万個ぐらいは収穫出来そうだと言っていた。

 実は5個で銅貨1枚という、街の倍額での取引になっていて、だからこそ全員が協力してくれる事になっていた。

 貝を煮込んだのも手伝いの人で、来年からはもっと大量に拵える事になるだろう。

 彼らの儲けもかなりになったようで、街との取引で色々な品が買えると喜んでいる。


 実は街の彼らに対し、塩の作り方をレクチャーしたところ、干し貝よりも先に塩作りに夢中になっちまったんだ。

 まあそうなるだろうと思って出した案だけど、だからこそこちらはフリーパスになっている。

 奴隷の居る世界だから人足に困る事はなく、バケツリレーで陸地の塩水池まで海水を運び、そこから水路で塩作り工房に運ばれる事になり、工房ではスダレみたいなのに海水をぶっ掛ける毎日だ。

 塩がこびり付いたスダレを清水に入れて、そこで泥とかゴミを除去して再度乾燥させる。

 布を使ったろ過方式であらかた取れるようで、巷の塩よりも白い塩はそうして流通されるようだ。


 品質が上がってもお値段据え置きなのが受けたのか、かなりの需要があるとの事。

 まぁ、鍋で海水を沸騰させて作っていたのなら、経費は相当に削減されたはず。

 だから品質が上がってもお値段据え置きなんて事もやれるってものだけど、別働隊はしょう油に挑戦しているだろう。

 塩が自前ならしょう油も自前でやれるとあって、色々と忙しいと聞いている。

 更にはにがりの抽出にも成功し、豆腐に挑戦しているグループも居るらしい。

 もちろん、納豆の生産には既に成功し、今はリピーターを増やしているところだと言う。

 あれも好き嫌いがはっきり出る食い物だし、好きな人が多くなれば良いよね。

 それと、硝石丘もかなり作っていて、先々には火薬の製造もやってみたいと言っているけど、魔法のある世界だから需要がイマイチ不鮮明らしい。

 まあ、鉱山での発破の発想も出しておいたから、魔道具って言えば需要も出るかもね。


 やはり2割の約束のせいか、貯めてある金も相当に増えているようで、白金貨の上には黒金貨ってのがあるのを教えてくれたぐらいだ。

 どうやら白金貨も黒金貨もその材質は分からないようで、かつて古代遺跡から大量に発掘された通貨を国が全て買い取り、取り尽くした後で流通通貨として制定したらしいのだ。

 当時は大陸に国はひとつしかなく、だからこそ可能だった通貨統一。

 だけど今の国は五大国と少数民族の国が多数な大陸となっていて、今からやるなら絶対に色々と揉めただろうと思われる。


 国が分裂する時に白と黒の金貨は同数ずつ分けたと記録にあるらしく、そこに争いが無かった事を表していると言われている。

 当時、大陸統一国家のラストエンペラーの子供が5人居て、甲乙付けがたい優秀さだったが為に、大陸を5つに分割しての統治にしたらしい。

 そして東西南北の国とは別に、中の国と呼ばれているのが当時の第一継承者の王子の国となっているらしく、今でも何かをする時には主導権を握る事が多いらしい。

 とは言うものの、利権の無い集まりの音頭を取るぐらいの事で、国同士の利権の絡む話にちょっかいは出さないとの事。

 そして僕の居る国は北の国と呼ばれる、大陸北部を治めている国になる。

 北の国の西部に首都があり、その近くの港町が北の国の玄関口と呼ばれる、サライの街となっている。

 僕が……と言うか、ルークが生まれたのは南部地方と呼ばれる場所で、やはり海が近いのが特徴。

 王国の東部は高山地帯になっていて、主に工業系の町が多い。

 実は中の国は台地の上になっていて、天然の要害と言われている。

 そしてその天然の要害の直下に国と国を繋ぐ道があり、中の国をぐるりと一周している。

 だからこそ何かの会合の折には中の国が主導となるのであって、それ専用の街があったりする。

 そこは中立地帯となっていて、色々な集まりの会合が開催される街として、それだけで街の収益になっているとか。

 後は中の国を取り囲んでいる道には駅馬車が巡っていて、主要5大国での共同経営になっているらしい。

 ただ、その途中にある休憩所は自由参加となっていて、小国や近場の集落の面々の稼ぎ場になっているとか。

 それにしても、普通なら利権の争いとかもありそうなものだけど、表向き、この世界は平和なのだ。


 まあ、裏とか知りたくもないんだけどね。

 

お貴族様は下々の事に詳しくありません。

特に少数民族は搾取先ぐらいにしか思っておらず、排他的とも思っているようで、まさかそこに逃げているなどとは思いもよらないらしいです。

実は少数民族の内訳は、そうやって逃げた人達が意外と多いのです。

なので彼も比較的安易に受け入れられたようです。

なによりまだ幼い子供ですしね。


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