逃亡は計画的に
改訂 サブタイ
「おい、どうにかなりそうなのか? 」
「ほい、金貨10枚」
「んなっ、もうかよ」
「元々、口約束での契約だけど、返してもらってないとか惚けても無駄だからね」
「いやそんな事はしないがよ、どうして無駄なんだ」
「ほら、ここに金貨10枚が」
「おいおい、たった1日で金貨20枚も稼いだのかよ」
「自由が欲しいって意味、理解してくれたかな」
「しかしな、今更は無理な話だ」
「ふーん、なら、次はどんな重荷を被せるんだい」
「やれやれ。こんな事は言いたくなかったが、お前の親父の調査と今回の旅、合わせて金貨100枚は使っているんだ。もしお前がどうしても嫌だと言うのなら、その倍額の金貨200枚を差し出す事だな」
「白金貨2枚とまた阿漕だね。馬車代と宿代合わせても金貨60枚ぐらいだよね」
「オレの出張代とメシ代、酒代、その他もろもろだ」
「はぁぁ、参ったな」
「諦めろ。よし、明後日には出るからな、土産のひとつでも買っておけよ」
「はーい」
(ちょいと驚いたが、さすがにそれは無理だろ。まあ、捻出されても困るから倍額で保険にしたけどよ、金貨200枚を即日で稼げる才覚があるなら、ますます離してはくれんだろうな)
どうにも返して終わりになりそうにないな。
どのみち金貨100枚が申告額なんだし、逃亡してその倍額ってのが妥当な線だろ。
となればだ、どうせ倍額払うなら、逃亡した後に払えば良いだけだ。
うん、もう仕方が無いよな。
どうあがいても無理みたいだし、ここはもう諦めるしかあるまい。
最悪、4倍まで言われても払えるんだし、ここはおとなしく逃亡といきますか。
土産を買ってくると彼に伝え、そのまま商業ギルドに向かう。
僕の事で何か調査が入ったら、お金を渡して欲しいと告げる。
「どういうこった」
「どうにも奴隷にされそうでね、夜逃げしようと思うんだけど、借金とか言われたら犯罪人になるからさ、何か言われたら預かっているって言って払って欲しいのさ」
「そのこころは? 」
「時間稼ぎだよ」
「本気なんだな」
「自由の無い奴隷になるぐらいなら、貧乏でも自由でいたい」
「ならな、サーケライド族は知っているか? 」
「海岸近くの少数民族だね」
「知っているなら話は早い。そこに行けば自由に暮らせる」
「ならさ、専属契約を結ばないかい」
「今度は何を作るつもりだ」
「横取りしない? 」
「ああ、約束しよう」
「貝を干すんだよ」
「あっ」
「干せば内陸にも貝が送れるし、生より美味しくなる場合もあるんだよ」
「ああ、確かにそうだろうな」
「この発案料はいくらかな」
「任せてくれるのか、うちに」
「僕が取引した後なら好きにするといいよ」
「うっく」
(こりゃ確定だろ。しかしな、よくそんなに思い付くな。こいつ何才でこっちに来たんだ。オレ達じゃ言われて初めて気付くが、そういう発想が中々な)
「お前さ、この世界をどう思う」
「面白いと思っているよ」
「どんな理由だ」
「苛め」
「そうか。しかし、それならもう無くなったろ」
「表向きはね。現に自由を奪って奴隷にしようと思っている奴が居るしさ」
「どんな奴だ」
「うちの街の領主様」
「そりゃ出世と言わないか」
「それが好きな人ならそうだろうね」
「何だ、貴族になりたくないのか」
「うっかりと才覚を見せてね、後悔しているんだ」
「どんな才覚だ。あの遠心分離の方法以外にもあるのか」
「連立方程式が卒業試験と言われてもさ、そんなの知った事ではないんだよ」
「ああ、試されてうっかり解いたのか」
「加減計算がいくらやれるからと言って、いきなり連立方程式は無いよね」
「そいつはな、恐らくやっかみか何かでの話だろう」
「ああ、解けそうにない問題をわざと出して、貶めようとしたんだな」
「そうそう、そういうのもよくあるみたいだしな」
「どうせなら微積分にしてくれれば良かったのに、それか幾何とかなら手が出せないのに」
「そんなの国の学者でも解けるかよ」
「参ったな」
「まあそういう事なら何とかしてやろう。明日な、その集落に行く便があるんでな、お前、それで抜けちまえ」
「借金奴隷は回避してくれるよね」
「ああ、心配するな」
「とりあえず金貨100枚ちょうだい」
「先行投資か」
「まだ貝毒の季節じゃないだろうし、買えるだけ買い込んで全部干す」
「そうか、時期が限定されているのは貝毒のせいか」
「あれ、そんな事も知らないの? 」
「いや、言われて気付いた」
「こっちに何時来たの」
「もう3年になるかな」
「なのにどうしてマヨネーズが無いんだよ」
「いやな、遠心分離の魔導具の開発に手間取ってな」
「そんなの自転車もどきで樽を回してやれば、誰でもやれるでしょ」
「あああっ、そうかっ」
「やれやれ」
「お前、オレ達の相談役になってはくれんか。オレ達はな、言われれば理解するんだが、その発想が出なくてな」
「そうじゃないかと思ったよ。じゃあしょう油が無いのも同じ理由だね」
「あれは難しいだろ」
「納豆は? 」
「納豆菌はどうするつもりだ」
「米があるんだから藁もある。藁をお湯で湯掻いてやれば、納豆菌は目覚めるからさ、後は大豆の炊いたのを入れてやれば良いさ」
「そうか、湯掻くのか。それでやれなかったんだな」
「にがりの作り方は? 」
「おい、分かるのか」
「じゃあ豆腐も無いんだね」
「どうにも造り方が分からなくてな」
「海水で作った塩を海水に溶かしてやれば、上澄みにやたら塩辛い液体が出るよな」
「それで良いのかよ」
「もしかして、塩の作り方も知らないとか」
「海水を炊けば作れるだろ」
「おいおい、風で気化させる方法は知らないのかよ」
「お前、相談役、決定な」
「賃金は? 」
「そうだな。住まいとメシは問題無い。後はな、関連商品の総売り上げの5パーセントでどうだ」
「2割」
「おいおい、開発も何もかもオレ達がするんだぞ。それで2割は酷くないか」
「作れない品は売れないよ」
「くそぅ、足元を見やがるな。ああ、2割で良いさ」
「セメントの作り方とか、硝石の製造法とか、それを使った火薬の製造法に、後は石鹸なんかもあるし、美味しい商売がいくらでもあるよね」
「うおおお、マジかぁぁぁ」
効果はばつぐんだ。




