表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/24

立ち位置の問題

本日最後の連続投稿でございます。

 

 僕に対する試しも終わったようで、早々に宿に戻る彼に付いて行く。

 宿の部屋はいわゆるツインのようで、彼と同室になっている。


「おい、身体を洗いたいなら水を頼むんだが、どうするよ」

「井戸で洗ってきます」

「おいおい、頼めば良いんだよ」

「じゃあ水を汲んできますから、手間代を借金から引いておいてくれますか」

「あれは良いって言っただろ」

「そうはいきません。今回の旅費も含めて、僕の借金だと思っていますから」

「けどよ、借金ってのには利息が付き物だぜ。そんなチマチマと返してたら、一生掛かっても返せねぇぞ」

「それは何とかします」

「ほお、そんな方法でもあるのか」

「今、色々と考えてましてね」

「例えば? 」


 さて、コイツが聞いて独占する事になるのかな。

 後の破綻での責任を負うのなら、好きに稼げば良いだけだし。

 軽く触りを言って理解するならそれでよし、無理なら無理でそれで良し。


「そうですね、一番派手なのは経済の根本の破壊でしょうか」

「おいおい、何だそれは」

「くすくす。大儲けして破壊するって楽しそうでしょ」

「どうにも商業ギルドから狙われそうな話だな」

「いえいえ、ちゃんとあちこちの権力者を誘致して利益分配はやりますよ。安全の為に」

「おめぇ本当に8才かよ。そんな事を普通は考えられねぇぞ」

「背伸びしたい年頃なんですよ」

「だからそういう事を言うのが合わねぇって言うのさ」

「僕は商売のネタを提供し、僅かな儲けを得るだけになるでしょうが、それでも借金返済ぐらいにはなるはずです」

「そいつを領主がやったらどうなる」

「そうですね。税金を取らなくても破産しないかも知れないぐらいですか」

「おいおい、本気かよ」

「領主主導でなおかつ独占となれば、国に渡す税金だけ徴収するだけで済むかも知れません。そうなればあの街は」

「人がやたら増えちまうな」


 つまり故郷としての愛着より、目先の金を大事にする風潮か。

 それだけ税金が生活の負担になっているって事であり、その解消は故郷を捨てる程の事なのか。

 こりゃ相当に重税の領地もあるんだろうな。


「人が増えれば住居が必要。とればスラム潰して住居にすると」

「そいつは却下だな。あれも必要悪のようなものでな、無くす事は出来ねぇのさ」

「街の外に小さな区画を作ります。その中は非課税地区になっていて、人頭税は不要です」

「そこに引越しさせるのか」

「混ざっているから問題が起こるんです。住み分けにすれば問題は出ません」

「素直に引っ越せば良いけどな」

「おや、タダで住まいに住めて税金が要らない場所ですよ。衛兵も煩く言わないとなれば、彼らにとっては楽園ではないですかね」

「それだと大抵の奴が行きたがるぞ」

「ええ、行きたい人には全員行ってもらいましょう。そうすれば住処が足りなくなる事もありませんし」

「だからな、全員が希望したらどうするんだよ」

「そんなに働くのが嫌なら仕方がありませんね。そんな人達は区分けされた場所で飢え死にしてもらいますか」

「おいおい、メシが無いのかよ」

「経済活動をしないとお金にはならず、お金が無ければ食料は買えません。税金とは全く意味が違いますよ」

「区分け先には仕事が無いんだな」

「非合法な仕事ならあると思いますが、僕はそんな仕事は嫌ですね」

「そうか、スラムだったな」

「区分けされた地区のトップとの取引は、領主レベルでの話になるでしょう。もちろん領主様は代理人を立てる事になると思いますが、話し合いは食料などの取引となるでしょうね」

「あっちに出せる物があればの話だろ」

「無ければ作れば良いんですよ。町に流れ込む人達の中の、犯罪予備軍の摘発とかって労働の提供とかですね」

「そいつは衛兵の職務になるぞ」

「いえいえ、同類を見つけて引っ張っていくだけですよ。そうすれば衛兵の仕事の助けにもなりますし、町の治安が悪くなりません」

「そうだなぁ、まあ、伝えといてやるさ」

「話すなら貴方の意見としてお願いします。ただの発案で後々の問題の責任まで負わされたのでは敵いませんから」

「もうおめぇの事はガキとは思わねぇ事にするぜ。全く、そこらの奴と話してるのと変わらねぇじゃねぇかよ」

「それは食い物にしようと思っていて、当てが外れたと理解して良いのですか? 」

「んな事するかよっ、もう寝るっ」

「はいはい」


 ちょっと怒らせたけど、それも計算のうちさ。

 構ってくれるのはありがたいけどさ、恩に着せられるのは困るんだ。

 君とはビジネスライクな付き合いがしたいんでな。

 てか、そうしないと堀がすっかり埋められそうな気がするんだよ。

 ルークなら流されても構わなかったみたいだけど、僕はそういうのはごめんだ。

 こんな年齢で取り込まれれば、狭い世界で一生を終える事にもなりかねない。

 それはそれで幸せかも知れないけど、どうせなら広い世界を見てみたいよな。


 折角の異世界体験のようなものなのだから。


 ~☆~★~☆


 水浴びは翌朝に回し、彼が眠りに就くまで体内の魔力を感じて過ごした。

 まだ始めて10日弱って事もあり、自由自在には動かない魔力。

 それでも感じる事だけはやれるようになっており、その最初の一歩あればこそ、意欲も尽きそうにない。

 彼が熟睡したようなので日課をやり、明け方に戻って水浴びの後に就寝する。


 馴れ合うつもりのない彼の名は未だ尋ねる事はなく、お付の人って認識でやっている。

 なので呼び掛けも貴方で終わらせ、いよいよ王都の門を潜る。

 魔力を感じた頃から同じく感じている気配のようなものなんだけど、これって気配察知とかってスキルじゃないのかな。

 かつての父親の雰囲気と言うか気配と言うか、かすかな記憶を元にして王都をうろつく事になる。


 魔力循環をしていれば、身体の疲れも殆ど感じられず、力も妙に増えたように感じてしまう。

 もしかすると身体強化は魔法ではなく、単に魔力の循環でやれる事なのかも知れない。

 身体中の魔力を循環していくと、身体能力だけじゃなく、動体視力も上がるようだ。

 それと共に夜目も利くようになり、旅路の途中では深夜の散歩が楽しかった。


 全力で走るなんて事をしてみた事もあり、かつての僕よりも速く走れたような気がした。

 オタッキーな興味からの剣術もどきの棒振りも、思うままに動く身体のせいか単純に面白かった。

 広くて浅い経験の恩恵で、色々な技術の記憶がある。

 剣術は言うに及ばず、拳法もかじったし柔道もかじった。

 受身を知って苛めの損害が多少和らいだ事もある。

 当時は精神が脆かったけど、ルークとしての体験でその補填が成されたようだ。


 僕の今のレベルは14なんだけど、深夜の散歩で見かけた魔物が経験値になっている。

 いきなりは無理かと思ったけど、縄の先に石を縛って振り回したら意外と威力が強くてさ、相手は避けたつもりが足に巻き付いてすっ転んでさ、解こうとしているところで首を掻き切ったんだ。

 僕のあっちでの記憶が正しいなら、あれは多分オークって魔物だった。


 倒したらいきなり身体に何かが流れ込むような感じがしてさ、だからレベルアップかなと思ったんだ。

 はぐれのオークはあちこちに居てさ、こっちが小さいから足を絡めて倒す作戦が巧く行ってさ、倒れたらみんな縄を解こうとするんだよ。


 何とかの一つ覚えみたいにさ。


 んでオークの討伐証明部位ってのが右手の親指になっていてさ、それを切って袋に入れておいたんだ。

 実はさ、そのオークは肉が食べられないって事になっていたんだけど、頬っぺたの肉を切り取って売り込んでみたんだ。

 そうしたら初めて食べる味とか言われてさ、何処の町でも好評だったのさ。


 トントロって偉大だな。


 でまぁ、金にするのは簡単だけど、干し肉と交換してもらったんだ。

 だから僕の背負い袋の中には、干し肉がたくさん入っている。

 んで彼が試しをする前日に、神殿で調べてもらったんだけど、魔力の量だけじゃ無かったのね。


 名前 ルーク

 種族 人族

 年齢  8

 階級 平民

 等級 14


 体力 高い

 魔力 高い

 筋力 高い

 防御 低い

 敏捷 高い


 これだけの事が分かった。


 この高いとか低いって言うのは、年齢での平均と比べての話であり、平民の8才にしては防御以外が高いって結果になった。

 防御が低いのは食生活の弊害だろうし、体力が高いのは宿での仕事のせいだろう。

 気休めと言うだけの事はあり、数値じゃないから大人と比べてどうこうってのは分からないみたいだ。

 ただ、魔力が高いってのだけはありがたかったけど、それすら気休めでしかない。

 子供にしては多いけど大人と比べるまでもない数値の可能性もある訳だから。


 それと言うのも魔法自体に習得制限は無く、覚えたいなら何才からでも覚える事は可能らしい。

 ただし、あの本にもあったように、基礎をしっかり固めないと中途半端になるだけであり、とりあえず手に職の欲しい者達はその、中途半端でも構わないようなのだ。

 というかそもそも知らない可能性もある。


 実際、この王都の図書館でも調べてみたけど、あの本以外は手っ取り早い魔法の習得方法が書かれていた。

 酷い本になると、基礎などは魔法の練習をしているうちに自然と覚えるものだと断言していて、裏表紙にはこの国の宮廷魔術師と書かれていた。

 だからもし、僕が最初にこの本を見てしまえば、基礎の事など知らずに魔法の練習をしてしまっただろう。

 これがこの国のスタンダードなら、魔法使いの未来はかなり怪しいって事になる。


 そもそも、魔法を使わなくても身体強化がやれると分かってからと言うもの、僕はそこまで魔法が使いたいとは思わなくなっていた。

 MMOでよくある序盤の敵ぐらいは倒せそうな技能を得て、冒険者としてやっていけそうな目処が立ったからだ。

 もちろん、強い魔物は別として、雑魚な魔物に限っての話だけどね。


 手持ちの残金が気になるところだけど、今の手持ちは銀貨40枚そこそこ枚しかない。


 折れた杖に金貨1枚、背負い袋が銀貨25枚、剥ぎ取りナイフが銀貨15枚、仕分け袋が1枚銀貨1枚で30枚、買って銀貨30枚、ショートソードが銀貨85枚、図書館が5回で銀貨5枚、串肉を時々買って小金が減り、そして神殿で金貨1枚だ。

 後はあのお付の人に金貨1枚寄こせ、と言われて渡したままになっている。

 酔っ払っていた時だから、もう忘れているのかも知れないけどね。


 まあそれは全て出納表として紙に記してある。


 もし何か言われた時に困るから、これぐらいの用心は必要だよな。

 おや、3年前に感じた雰囲気のようなものを感じるが、やはりそう言う事になっていたか。

 ううん、どうすっかな。

  

しばらく充電します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ