悪夢との決別
僕がその存在を知ったのは、中2の夏休み前の事だった。
僕はずっと苛められていて、あの夏休みに世界から消えようと思っていた。
そうして色々と準備していたんだけど、それが全部無駄になっちゃったんだ。
つまり、僕はそのデスゲームに参加して、ゲームの中で消えようと思ったんだ。
だけど、僕の目論見は水泡に帰した。
何故だって?
だってその世界は……
僕にとって……
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余命いくばくもない老人や病人達。人生に飽きた人、自殺志願の人達など、リアルから消えなければならない人達向けのセカンドライフ計画。
記憶や精神を可能な限りコピーして構築されたと言われるアバターに憑依しての、第二の人生と言う名のゲーム。
その世界へのアプローチは基本的に、元の名前や家族の情報は消される事になりはするが、かつて生きてきた中での知識は持って行ける。
もちろん、それすら要らないというのも可能だし、転生すら可能になるシステム。
つまり、若い子は転移でも構わないが、老人には転生をお勧めすると。
そして一度ログインしたらもう、ログアウトの叶わないゲーム。
世界人口は留まるところ無く増えていき、かと言って産むなとも死ねとも言えない……そんな未来のものがたり。
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僕はずっと苛められていて……そりゃ最初は辛かったし痛かったし悲しかった。
だけど人間って慣れるんだなって、本当にそう思えたんだ。
辛さに慣れ、痛さに慣れ、そして悲しみとかは分からなくなった。
そのうちに辛いって気持ちも分からなくなり、痛みはただの刺激になったんだ。
それで気持ちは楽になったんだけど、どうしてだか気力が無くなっていったんだ。
毎日刺激はあるけど、気分はそんなに悪くない。
だってこれは当たり前の事なのだから。
当たり前の事なのに変に思ったりはしないよね。
だから僕は止まらない刺激の中でも気分は落ち込まない。
ちゃんと勉強もするし、テストだってきちんと解いている。
ただ、最近、どうにも物が無くなるのに困っている。
破れた体操服とかは別に良いんだけど、エンピツやノートが無くなると勉強にならないんだ。
でもそれもそのうち慣れて、頭の中のノートに記す事にしたんだ。
だから教科書の中身や黒板の文字を、頭のノートに記せばそれで良くなったんだ。
毎日の刺激の中でも僕は成績は落ちなかった。
でも気力はどうしても弱くなるばかり。
どうしてなんだろう、こんなに気分が良いのに。
そんな風に思っていたんだけど、遂に破綻って言うのかな?
今日は学校に行けなかったんだ。
行こうとしたら道端に刺激を与える人が居て、裏道に連れて行かれて強い刺激を与えられて、学校に行きたくても歩けなくて……
刺激の主はもう学校に来るなって言うんだ。
おかしいよね、授業料払っているのに来るなって言うんだ。
そういうの、詐欺って言うよね。
そう言ったらまた強い刺激が来たんだけど、そのうちそれにも慣れたんだ。
でも、もう気力が続かなかった。
家に帰って部屋に篭り、僕はVRマシンをセットして、誓約書にサインをしてイエスボタンを押したんだ。
本当は分かっていた……僕に何が起こっているのかを。
でもそれを理解する事は僕の崩壊を招く事。
だから必死で思い込んで思い込んで……それで成り切っていたんだね。
だけどその許容が遂に越えちゃったんだ。
人間には慣れもあるけど限界もあるって、その時に理解したみたいだよ、僕。
だから父さん母さん、僕はあっちの世界に行くよ。
行けばもう戻れない世界だから、あっちの世界で消える事にするよ。
だって何処でも世界は同じだから、行けばまた刺激はあるだろう。
でも、あっちなら迷惑にならない。
これに入る事は認められているし、保険金だってもらえるはずだ。
母さんがその保険に加入したのも知っているし、父さんがそのゲームの話題を食卓で出した意味も知っているよ。
辛いならとっととあっちの世界に行っちまいなって事だよね。
だって、刺激を与えているのは父さんの会社の上司の息子だから。
下手に止めたら失業の危機、だけど僕が毎日傷だらけになって帰るのを見るのは嫌。
大体、治療費も掛かるしさ。
だからもう諦めているんでしょ?
上司の息子は僕という獲物を見つけたせいで、上司の機嫌が良いらしいじゃないか。
金遣いもおとなしくなったし、家で当り散らす事もなくなったらしいね。
だから下手に転校もさせられないし、表沙汰にする事も出来ない。
だけどこのままだと僕は自殺してしまう。
そうなったら父さんも困るし、上司も困る。
だからあっちの世界に勝手に行っちゃったって事にすれば、少なくとも父さんは困らない。
巡り合せと諦めてそうしろと言うんだよね。
そういうメッセージなんだよね?
うん、そういう事ならそうするよ。
僕は向こうの世界で自殺する。
だから……さようなら。