#異世界で検索した地点から、本当に来ちゃいました。
※すみませんが、とりあえず表に出したかっただけで、ほとんどプロットに近いネタです(笑) メモみたいなものなので、オチはありません。
ハッシュタグの旅が流行ってるとテレビで見て、空想しちゃっただけ。
「最近、ハッシュタグの旅が流行っているそうです」
TVの特集で、ニュースキャスターが語るのを、流し聞きながら、織川ハルは熊の形をした座椅子にもたれて、スマートフォンを覗き込んでいた。
写真投稿型SNSの画面をスクロールしては、目当てのスナップ写真を眺める。
ハルの趣味は、旅行と、スマートフォンでのスナップ写真を撮ることだ。
バイト代のほとんどは旅行代に消え、スマートフォンの写真フォルダにはスナップ写真のデータばかり増えていく。
お金が無い時ですら、ハルは良い写真を求めて近場を散策するのだけれど、午後から暇にも関わらず、今日のハルは悩んでいた。
大学三年生になり、就職活動が始まる中、卒業論文の課題について本腰を入れて考え始める頃合いだ。
環境歴史学を専攻しているハルは、まだ書きたいものが思い浮かばなくて困っていた。
「うーん、気晴らしに近場を散策しようかな」
明日と明後日は土日だ。
近場に出かける程度の金もある。
「#い・せ・か・い」
スマートフォンの検索画面に、「#異世界」と入力したのはたまたまだった。
「あ」
手が滑って、エンターを押してしまった。
本当は、「異世界のような絶景」と書くつもりだったのだ。
すると、一件だけ画像がヒットした。
「え……あるんだ、異世界」
しかも、ハルの家から近い。
翌朝、土曜日。
朝七時に家を出たハルは、電車を二駅分乗って、「#異世界」で出てきた位置情報の場所にやって来た。
こんもりとした小さな山は、どうやら地元民のための神社らしい。
ハルは鳥居を見上げて、それからスマートフォンの画面に視線を落とす。
「よく出来た合成写真よね」
昨晩調べた画像は、森の中にあるツリーハウスが集う村の光景だった。百歩譲ってツリーハウスのホテルがあるとして、妖精みたいなものが飛び交っているのはやりすぎだ。
明らかな悪戯写真だったが、ハルの目的は気晴らしだ。
せっかくだから、異世界とやらを拝んでやろうとその場所までやって来た。
細い石段を上っていく。
薄暗くて、じめっとしている。
怪しい人がいたら危ないかもしれないとハルは念の為、防犯ブザーを手に持った。
「わあ」
階段を登ると、しめ縄のかかった洞窟が顔を覗かせた。賽銭箱が置かれているのを見ると、洞窟の奥にご神体があるのかもしれない。
「……ん?」
ふと、ハルは洞窟の横にかけられた看板を見つけた。
――異世界はこちら
なんとも下手くそな字で、こんなことが書いてある。
「悪戯じゃなかったんだ」
ハルはそのことにびっくりした。
ちらりと洞窟の奥を見る。暗くて何があるかよく見えない。
たたられては怖いので、賽銭箱に十円を放り込み、一礼二拍手一礼と、神様に挨拶してからしめ縄をくぐる。
一歩洞窟に入った瞬間、ハルは下へと落っこちた。
声を出す暇もなかった。
尻もちをついて、ハルは呆然とした。
「ようこそ~! 異世界への門へ!」
真っ黒な空間で、光り輝く門の前に立った十三歳くらいの少女が、クラッカーを鳴らして言った。
長い髪は真っ白で、金色の目を持つ少女は、金で飾られた白いドレスを着ている。どう見ても西洋人の少女であるが、その存在感はただ者とは思えないものがある。
「わたくしは、お前の世界から見れば、異世界にあるリスティアの女神よ。リスティアというの。ああ、やっと来てくれて嬉しいわ! #異世界だなんて調べる馬鹿、あなたが一人目だったから……。わわわ、ごめんなさい! なんでもないわ」
少女――リスティアは慌てて謝って、ちらりとハルの様子を伺った。
「……悪戯じゃなくて、本当に異世界があるの?」
ハルがなんとか絞り出した質問に、リスティアは大きく頷いた。
「ええ、そうなの。わたくしはね、この地球という世界の神を父に持っている女神なの。お父様に、上位世界の人間を一人だけなら貸してもいいよって許してもらったから、こうして罠を張っていたわけ。お前達の人気のウェブサイトを利用したのに、誰も調べてくれないんだもの、どうしようかと思ったわ」
ハルはリスティアが遠回しに馬鹿にしているのではないかと疑った。先程、馬鹿と言っていたのはちゃんと聞こえている。
「ねえねえ、お前、わたくしを手伝ってくれないかしら。わたくし、まだ生まれたばかりで、世界自体が未熟なのよ。それで、周りの神たちが馬鹿にして笑うのよ!」
リスティアは憤慨したように言って、目の前に画面を作りだした。
そこには、ハルが親しんでいる写真投稿型SNSのようなページが映し出されている。
「ジンスタグラム?」
そのウェブサイトの名前も、なんだかどこかで聞いたような名前だ。
「インターネットがあるのは人間だけではないの。これはわたくし達神の間のインターネットでね、これが最近流行りの写真投稿サイトなのよ」
「神様も写真って撮るんだ」
思わず呟いたハルは悪くないと思う。リスティアは当然だと頷いた。
「ここで、自分の世界の絶景を投稿して、自慢しあうの。わたくしも何枚か投稿したのに、皆、ひどいのよ! 『ありきたり』とか、『そういうの、見飽きた』とか、そういうことばっかり言うの! イイネなんてお父様からの一つだけなのよ。生まれたばかりの世界だからって、ひどいでしょ!」
幼い女神は怒って、大人げない神々の文句を言うけれど、子どもが癇癪を起しているだけにしか見えず、全然怖くない。
「だからね、わたくし、人間の手を借りて、リアルで超絶カッコイイ写真を撮って、皆からイイネをたくさんもらうって決めたのよ」
リスティアは胸を張って言い切った。
付き合いの良いハルは、その場に正座した姿勢でパチパチと拍手する。
「それで、どうして自分の世界の人に頼まないんですか?」
ハルの質問に、リスティアは目を逸らす。
「わたくしはまだ未熟なの、世界も同じなのよ。時代としては、お前の世界でいう中世かしら。そこにはね、わたくしが統制しきれないエネルギーの片鱗――魔物がいるのよ」
「あ、私、帰ります。死んじゃうんで」
ハルは即座に立ち上がり、その場でお辞儀をして立ち去ろうとした。だが、リスティアがハルの腰にタックルしてきた。
「待って待って! 下位世界の人間だと、絶景なんてある所に行ったら、確かにすぐに死んじゃうのよ。でもね、上位世界の人間なら違うの。わたくしの世界に来たら、頑強で魔力も豊富で、病気もかからないわ。そこにわたくしの加護を与えたら、ほぼ無敵よ!」
「でも、だって、写真投稿サイトで、イイネをもらうためだけなんでしょう……。くだらない」
「お願いー! お父様には、『地球の人間が自分から望んで来た時だけ許可する』って言われているの。別に、引っ越せって言ってるわけじゃないの。お前がわたくしの世界にいる間、この世界でのお前の時間は止めるし、用が済んだらちゃんと帰すわ」
「……それって本当?」
ハルはリスティアの言葉に食いついた。リスティアはぶんぶんと大きく頷く。
「当然、わたくしの世界にいる間、お前は不老よ。死んだらどうしようもないけど、まず、死ぬことはないでしょう」
「それは良い話ね。どんな感じの中世か分からないけど、その時代の環境には興味があるわ。それに、卒論のテーマを考えるのに十分な時間が取れる!」
じっくり考える時間が欲しかったハルには、素晴らしい提案に思えてきた。
返事をひるがえし、リスティアの手を握る。
「行くわ、女神様! 私がその世界で、素敵な写真を撮ってきてあげる!」
「本当!? やったわー!」
リスティアは嬉しそうにその場で飛び跳ね、再びハルの腰に抱き着いた。
「では、お前の名前を教えて」
「織川ハルよ」
「オリカワ・ハル、お前に、わたくしリスティアの加護を授ける」
契約終了だとリスティアが告げた時、ハルの背中が一瞬熱くなった。
気にするハルに、リスティアは目の前に武器をいくつか出現させて問う。
「さあ、わたくしの世界で最強の武器をあげるわ。――どれがいい?」
ハルは武器を眺めて、一つを手に取った。
◆
ハルが異世界リスティアに来て、そろそろ二ヶ月が経つが、いまだにイイネが付かない。ジンスタグラムの神々を甘く見すぎていた。
「まったく、ムカつくわ。なんなの、『ありきたり』って! あれじゃ女神ちゃんだって怒るわよ! ね、ユヅル」
「ニャーン」
ハルの足元で、気品のある真っ白な猫が鳴いた。金色の目をした猫は、とても可愛らしい。
ハルが選んだ聖なる武器は弓だ。
白に輝く聖なる弓は、魔法の矢を打つ武器だという。弓としての姿だと尋常ではないパワーがあるので、使わない時は白猫の姿をしている。
ハルは弓にユヅルと名付けた。
「私の中では最高の出来だったのに!」
街道を歩きながら、ハルは我慢出来ずに文句を言った。
リスティアに来てすぐ、中世ヨーロッパのような雰囲気に似た町を訪ねたハルは、素晴らしい朝焼けをバックにした城の写真を撮り、ジンスタグラムに投稿した。
ハルの中では改心の出来のそれを、神々は一蹴したのである。
「この世界で特有のものを撮ればいいのかな。うーん、何があるのかな。魔物とか?」
そういえば未熟な世界だから魔物がいるのだと、出会った当初にリスティアは言っていたではないか。人造物より魅力的かもしれない。なんという盲点。
この辺りにいる、見た目が綺麗そうな魔物といえば、鉱龍だ。鱗が鉱石のようになっている魔物である。かなり強い魔物なので、リスティアの人々で倒せるとしたらほんの一握りの兵士だけだろう。
「よーし、ユヅル! リアルで超絶カッコイイ写真を撮って、女神ちゃんを喜ばせるわよ! そして、イイネを獲得してみせる!」
「ニャアン!」
気合を入れ直したハルは、さっそく魔の山へと出かけていって、鉱龍の一種、オパール・ナーガに戦いを挑んだ。
湖から飛び上がるオパール・ナーガは、日の光に輝いて虹色に輝く。
まさにそのタイミング、ハルは両手でカメラのサインを作って、写真を撮った。そのままオパール・ナーガの巨大な口に飲み込まれたかに見えたが、ユヅルで口を閉じさせないようにつっかえ棒にして、そのまま体内に向けて魔法の矢を連射する。
オパール・ナーガの死骸が湖にぷっかりと浮かぶその背中の上で、空中にデータフォルダの画面を呼び出したハルはにやりと笑った。
ようやくついたイイネは三つ。
リスティアは大喜びしたが、ハルはこんなものではまだまだだと燃えた。
「ぜったいに、イイネを千は稼いでみせるんだからー!」
人気ユーザーに輝いて、そして堂々と元の世界に戻る。
目標を新たに、ハルは再び異世界を駆けた。
……終わり。
はーい、まじでプロットでした、すみません!
ギャグです、ギャグ。
ジンスタグラム → 神スタグラム みたいな(笑)
反応を見たくて、表に出してみただけです。
評判が良かったら、真面目に書いてみてもいいなーとは思うけど、お遊びですね。
とはいえ、世界観はなんとなく作りましたけど。真面目に書くなら、恋愛の相手も作らんといかんな、こりゃあ。たぶん王子かな。
ただ写真撮りまわるだけの異世界トリップとか面白くないっすか? ぷぷぷ。
・2016.8/25追記。
アルファポリスさんの方の投稿システムにて、長編版の目次を作りました。亀更新ですが、ご興味あれば覗いてみてください。
一応、urlはこちら:http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/156073888/
HPからも飛べます。