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彼の世界で  作者: 風鈴
1/2

私は猫で、ご主人様のペットです

目の前で寝息を立てている男の横で私は視線を上げる。その顔をじっと見つめて

いると、もぞもぞと彼の手が私の体を無意識に包むと彼の側へと引き寄せる。

私はこの男のペットで猫である。彼の住む、この部屋に来たのは1ヶ月ほど前。

明け方近くになると、彼の手が私を引き寄せるのも慣れて来た。


無意識なのは分かっている。それでも彼に求められて私は本来の姿に戻って

彼の腕を枕に彼を抱きしめた。猫の手が足が人のそれに変わる。顔も耳と尻尾が

ある事と背中から尻尾にかけて体毛がある事以外は此方の女性と変わらない事は

近所の塀を散歩している時に銭湯という場所で観察して確認済み。


そう。いつもは猫の姿なのだが、犬獣人で異世界人。それが私。

もともと彼の方が異世界人だったのだけど、彼が異世界に戻る時に付いてきた。

だから、今はこの世界にとって私の方が、異世界人になった。


そして、こうして人化している事は彼にも内緒にしている。


「うっ、うぅぅん」


「にゃあ」


彼が目を覚ますより早く、猫に戻る。


「んっ、おはよう。みぃちゃん」


「にゃあ」


ご主人様は、目を擦りながら欠伸を1つすると、着替え始める。私は、そっと

その場から離れて台所へと移動する。彼の住むワンルームは台所とお風呂と

トイレは一緒になっている。


こうして台所で着替えを待つと、きっかり5分程で台所へ移動してくると

既に着替えを済ませていた。


いつもの様に冷蔵庫を開ける彼が牛乳パックを手にして食パンを用意する。

トースタ―に2枚入れて焼き上げる間に冷蔵庫からマーガリンを取り出して

机に用意して深底のお皿に牛乳を入れて足元の私の前に置く。


チン


カリカリと音がしてくる。マーガリンを焼いたパンに塗る音だと知っている

私は、ミルクをぺろぺろと舐めて待つ。


「おまたせ」


マーガリンを塗ったパンが入った皿をミルクの皿の横に置くと、彼はもう一枚

を口に咥えたまま、用意したマーガリンと牛乳を冷蔵庫に戻していく。


ガリッ、ガリッ


私はパンを抱える様に両手で持って食べ始める。彼が今朝の歯磨きを始める頃

やっと私は食べ終わると、再びミルクで喉を潤すと彼が一度部屋に戻る。


それを横目で追って私はドアの前に座って待つ。彼はカバンを肩にかけて戻る

と、靴を履いてドアを開ける。


「じゃ。行ってくるよ、みぃちゃん」


「にゃあ」


パタン、カチャカチャ


ドアを閉める音がして、彼の足音が遠ざかるのを確認すると私は人化して

お皿を持ち、残ったミルクを飲みほしてから洗い物を始める。


誰に見られると言う訳ではないが、流石に全裸のままではとエプロンで

前を隠す。これは元々彼が使う目的で買った物らしいが、使ったのはたぶん

初日だけだったのだろう。随分と使われた形跡がなかった物を発見して洗った

後に私の普段着となっている。


正直に彼に人化できる事を伝えれば、普段着ぐらい用意してくれるとは思うが

学生である彼の負担になりたくないので黙っていた。


手際よく洗い物を済ませると、彼のランニングシャツとトランクスを穿いて

Tシャツを選ぶ。彼がGパンで古くなったものをゴミ袋に入れたのをそっと

足の部分を切り取り短パンにして残しておいたのを穿く。

このままだと、お腹周りが緩いのでベルトの代わりに雑誌を縛る紐を編んで

作った太めのリリアンを通して蝶結びで止める。


彼のちょっと大きいサンダルを借りて、外に出る。もちろん合鍵も用意済、

これは土魔法でコピーしておいたもの。


私が向かったのは、近所の商店街のパン屋さん。ここでバイトを始めたのが

2日前。ショウウインドを見てた時に店のマスタが話しかけて来てお金が無い

と知るとパンの耳を一杯入った袋をもらった。そしてバイトをしないかと

誘われたのだ。私はこの世界では何をするにもお金が居る事は知っていたので

バイトと言うのが最初意味が分からず、会話から働くって事だと理解すると

少し頭を悩ませた。確か履歴書とか言われても困るのだ。


「履歴書とか要るんですか」

「そんなもん、いらねぇよ。

 アレだって、ただじゃねぇーんだ」


困惑する私の顔を見てマスタは、そう言って笑うと質問して来た。


「名前は」

「アレス」

「年は・・・まっいいか。16以上?」

「はい」

「良し合格」


こうして、私は彼が大学へ出かけた一人の時間にバイトを始めた。私はパン屋

の裏口から入ると、メイド服に着替える。この服はパン屋のマスタが初日に、

連れられて三軒隣の洋服屋さんに用意してもらったのを今もらってきた。


「おーい。青さん」

「はいよぉ。ってパン屋かい。なんだい」

「家の制服をこの子のサイズでお願いしたいんだが」

「おお、どれどれ。うん、これなら規格で合いそうだ、明日までに用意

 しとくよ。明日、取りに来な」


異世界では、まるで当たり前の様に毎日着ていた服に、どことなく似ている

デザインだったので、マスタ曰く制服と言う物らしいけど、私はメイド服だと

思っている。その服に着替えると店に回ってマスタに挨拶する。


「おはようございます」

「ん、おはよう。おっ似合っているね」

「有難うございます」


私はぺこりと頭をさげてから、パンを焼きあげているマスタの横でトレイに

種類毎により分けていき、所定の位置に置きだす。


「すごいな、まだ教えていないのに、よくわかるな」

「昨日、見てましたから」


私は半日もそれらを見ていた。もちろん店の外からではあるが、こうして

こっち側になって冷静に考えると、外から半日もじっと見てられたら、流石に

私でも声を掛けたくなる事に気がついてちょっと恥ずかしい。


「あっ、これは昨日はありませんでした」

「おお、流石だね。これはこっち、ケーキ棚の方」

「これは、ケーキの分類なんですか」

「そうだね、生クリームを使っているから」

「分かりました」


カラン


「いらっしゃいませぇ~」


私は店のカウンターへと急ぐと、お客様がトレイにパンを乗せて来るのを待つ


「マスタ、ずいぶんかわいい子を雇ったんだな」

「家の看板にしょうと思ってさ」

「そっか・・・うん。そうだね」


馴染み客なのだろうと思う中年の男性が少しだけ微妙な微笑みをしてから

改めて笑顔をになって笑いかけて来た。


「780円になります」

「んっ、あは、それだと消費税がないね」

「おいおい、暗算か。なら、それを100で割って8をかけた分を足した

 金額が正解だよ」

「842円と言う事ですか?」

「おおお、すごいね。暗算得意なのかい」

「安産?うーん、分かりません。姉と違って私は・・・」

「ああ、あれだ身内が凄すぎて、自分が平均以上とか気がつかないパターン」

「おお、正解」


マスタがトレイに並んだパンを1つづつ、電卓を使って確認して言った。


「じゃあ、こう言うのはできるかな」


店のマスタが、1つづつ100で割って8をかけた分の少数点以下を切り捨て

してから合算すると言ってきたので即座に答える。


「841円です」

「うん、OK。それが請求金額になるよ」

「分かりました」

「おおおお」


魔法の演算はもっと複雑なのでとは答えずにおいた。この世界では魔法は

存在しないという概念があり、また使える人も居ない。その為、使えるとか

そう言った話はしてはいけない位は知識として此方に来る前に知らされていた。


それからレジの使い方も教えてもらい、ちっさな紙を渡す必要があるから

レジスターというものを使う事を必須とされると知った。


ちょっとだけ微妙な違和感を感じつつも私のバイトは夕方に終わり、制服を

着替えてマスタに挨拶して帰ろうとした時に呼び止められる。


「はい」


小さな紙の袋を手渡されて中を見ると、お金が入っていた。


「バイト代」

「ありがとうございます」


挨拶をしてから初めてのバイト代を大切に持って彼の部屋に戻る。

鍵を開けて中に入ると、押し入れの箱の中に服を仕舞って全裸になると胸に

埋まっている様に見える四角いルビーの様なものに手を触れる。

その宝石が体から離れると彼女の首輪にぶらんと戻ると、彼女の体も女性から

猫へ姿を変える。


ガチャ


ドアの鍵が開く音にビクッと体を震わせてから、私はドアに向かって走り出す


「ただいまぁ~」

「にゃあ」


彼は私をひょいと抱えると、一緒に奥へと進み。カバンを置くと風呂場へと

行くとトイレの上に私を置く。彼が服を脱ぎだすのを見ながら私の鼓動は

ちょっと早くなっていくのを感じつつ、いつもと違う彼の行動に首を傾げて

いるとドアを閉めた。


風呂場との仕切りであるカーテンを開けると私を抱えて中へと運ばれる。

温かい水がいきなり頭からかけられてビクッとする私に何か付けてると

白い泡が私を包んでいく、その一連の動作を見ながら、私はこの世界には

魔法はないと聞いていたのに、火も使わずにお湯がでるこの道具は魔法と

異なる物だと思うと不思議でならない。

全身の泡がシャワーで流されていき、今度は彼が自分を泡だらけにしていく

そして彼が自分の泡を流し終わるころ、お風呂の中にはお湯が溜まって

彼が私を抱いたまま、その中へと入ると曲げた彼の2本の膝の上に置く。


「ふぅー、今日は大変だったよ」

「にゃあ」


彼は学校で起こった事を私に話しかけてくる。その内容は言葉は分かっても

単語としては意味不明なものが多くて殆ど理解できないが、彼の言葉を聞く

だけで私は幸せを感じつつ、と、視界に彼のアレが入ってしまい、ドギマギ

して体の方向を変えようとする中、体が硬直してしまう。

今、方向を変えると、アレに向かって自分のお尻を向ける事になるという

事実に気がつき、慌てて止める。まだ口の方が・・・って何を考えているの

私は、ちがう。そういう意味呪なくて、体を支える前足で顔を塞ぐ私の行為が

さらに事態を悪化させて、アレに向かって滑り落ちる。

溺れるっと感じて私は混乱したまま人化を彼の前でしてしまった。

彼の股間の上に跨る格好で、全裸の女性型となった私は胸を彼に押し付ける

様に頭に抱き着いてしまう。


「溺れる助けて、ご主人様」

「うっむむむ・・・」


胸に顔を埋めていた彼の意識がなくなりぐったりとした事で、息が

できなかった事を理解した私は我に返って必死に誤魔化す事を考える。


が、思いつかずに猫に戻る。


と、ガバッと顔を上げた彼は、辺りをきょろきょろと見渡してから私に

向き直るとため息をついた。


「やべ、眠ってたか」


どうやら夢だと勘違いしてくれたのかもしれない。と期待していると風呂から

上がって体を拭き終ってから、真剣なまなざしで私に話しかけて来た。


「もしかして、みぃ。元の姿に戻れるの?」


彼の真剣なまなざしに耐え切れなくなった私はコクリと頷く。


「もしかして、毎朝もどっている?」


完全に寝ていると思っていたので、そっ、そこまでバレているとはと首を横に

向けてしまう。


「否定はしないんだね」

「はい」


観念した私は、人化して答えた。


「こら、こら」


今度は、彼が横を向いてしまった。

彼から、彼の下着と服を渡されて、着替えると、ため息混じりに考えてから

私に向き直る。


「よし、まずは下着と服だ」


彼に連れられて、私は下着と服を買いに出かけた。流石に下着は自分で買って

来なさいと言われて彼は店の前で待っていたが、いざ支払いとなって仕方なく

店の中に入って来て支払いを済ませて2人で出る。

洋服はワンピースを買ってもらって、着替えると買い物袋には彼から借りた物

を仕舞って彼の後に付いて行く。


尻尾があるので必然的にスカートになった。買ったばかりのズボンに穴を開け

るのも何か変な気がするので結果的にワンピースとなり、耳の違和感を無くす

目的でカチュームをして耳もその部品と思われる様にする事になった。


こうして近所で私はコスっ娘と呼ばれるようになるのだが、そこでパン屋の

マスタは耳も尻尾も不思議がっていなかった事に気がついた。


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