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キキキタン  作者: 荒薙裕也
序章
1/27

深淵の器

初投稿です。宜しくお願い致します。m(_ _)m

 私は器です――。


 深く、深く、底を覗こうとしても真っ黒な闇が邪魔して見えないほどに深い、深淵の器。

 でも、決して底がないわけではないのです。

 底はとても深くて、今は全くといってよいほどに見えないのですけど、底には確実に何かが溜まっていくのが判ります。

 今はそれこそ姿も見えないのですが、年月を追うごとに、それが徐々に増していくのが判るのです。


 ……私は、それが器いっぱいに溜まるのが怖い。

 私の中に溜まっているものは、恐らく人が手を出すべきものではないのでしょう。

 それは、私を時折訪ねに来る方の目を見れば分かります。


 狂気と焦がれに満ち溢れた目――。


 あれを野心と呼ぶのでしょうか?

 仔細までは判りかねますが、あれが健全であるとは、とても思えません。


 灯りも灯さぬ暗き部屋の中に格子戸で封じ、私の奥深くに『何か』が溜まるようにと、(まじな)いの呪を肌に書き連ねる――。

 その姿を、どこか諦めにも似た思いで見つめながら、私は死ぬことさえ許されずに、ただひたすらに器に何かが溜まるのを感じ、生き続けているのです。


「何故、私は生きているのでしょう……」


 暗く、人のいなくなった室内に自然と声が漏れます。

 それは、私が何度自問したか分からない問いではありました。

 ですが、それに対する答えは、もう既に出ております。

 私は器で――、器は勝手に壊れたりはしないのです。


「でも、それでは――」


 私は砂を喰む思いで唇を噛みます。


(――人の生ではありません)


 強く閉じた瞼が、目眩のように鈍い痛みを伴って私の頭蓋を締め付けます。

 いえ、それは本当は頭痛などではなく、私の心奥で起こった自身を嘆いた痛みだったのかもしれません。

 それとも、器の奥底に溜まっている『何か』の愉悦だったのかも……。


「はぁ」


 極度の倦怠感を覚えた私は、人知れずため息を吐き出します。

 私の中で溜まっていく『何か』――。

 それは、恐らく人の世に出してはならぬものです。

 だというのに、私にはまだ未練がある。

 自分の中に潜む危険性を知ってもなお、どこかで事態が好転してくれることを望んでいるのです。


「そんなこと、ありえないのに……」


 そう、この洞のような生活から逃れられたとしても、私の運命は変わらないのです。

 私の中にある『何か』は常に成長し続けている。

 それは、人の世にあるべき存在ではありません。

 排除されるべき存在なのです。

 

 そんな存在と一蓮托生な私。

 ならば、私の未来は排除されるべき運命。

 夢や希望なんてものは、遠き陽炎のように儚きもの。

 私の目の前に広がっているのは、この小部屋のように真っ暗な漆黒の闇ばかり。

 それが、私の未来――。


「私は存在してはならぬ存在」


 全てを諦めた私の声は、まるで嗄れたお婆ちゃんの声のようでした。


「排除されるべき存在……」


 そんな暗く冷たい声さえも私の中の器はそっと吸い込み、奥底へと沈めていきます。

 何でも吸い込む、深淵の器――。

 私はそんな器に恐怖を覚え、寒くもないのにぶるりと背を震わせ思うのです。


 あぁ、早く、誰か――、

               ――私を殺して、と。

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