単独行動
「ほう、皆殺し、ですか?」
「おかしいか? あの馬鹿共はそれが一番いい、根絶やしにしなければ残党が生まれる、ならば二次災害が生まれるよりも全ての宗教の人間を殺戮すればそれだけで片が付く」
士護帳の言い分は間違っては居ない、集団との戦争になる場合は、根絶やしにしなければ完璧に潰す事は出来ない。
もし逃走や降伏によって生かされた残党は、中には完全に"宗教"と言う火が消えていない人間もいる。
そうなればその人間から中心に、そこから新しく団体が出来て、一つの集団が完成する。
しかもそれが一人ではなく、二人、三人となれば、一人に付き百の集団が集まる。
それこそゴキブリと同じだ、完璧に叩き潰さなければ新たに他のゴキブリが湧いて現れる。
確実に、完璧に叩き潰さなければ、ゴキブリの集団は群れを成し、また他のゴキブリと接触し、一つの国へとなり得る事も有り得る。
そう言う意味であれば集団の"負け"とは、新たに集団が生み出す引き金だ。
けれど、他の人間が、今先程の言葉を聞けば、誰もが目を丸くするだろう。
たかが齢二十前半の男が、其処までの思考を成し遂げ、さらには人を殺す事に戸惑いすらない口振りなのだから。
「―――で、その宗教を根絶やしにするとして、部隊の編成は?第一から第六の数有数の図書長や副図書長の手を貸してもらおうと?」
魔道書を狙う人間、団体が現れるのはそう珍しい事ではない。
指定された"敵"を、第一から第六までの図書長と副図書長のいずれか数人の"魔道書"使いを同伴させる事で、初めて部隊の編成を終え、出撃する事が赦される。
しかし、現段階では相手の"宗教"の現在の兵数や、どのような魔道書を持ち合わせているのかも不明、現在位置でも分かればいい方だ。
さらには他の図書長達は自らの仕事に躍起になっている者も多く、集団の壊滅の手伝い、程度で集まるかどうかも分からない。
けれど士護帳は、まるで館長が場違いな事を言っているかのように、いともたやすく感情を大きく歪ませる。
「―――ククク、ハハハハハハハ!!誰が、誰が誰の手を借りるだと?笑わせるなサン・ジェルマン、私一人で十分だ、部隊など要らない、私はな、お前に許可を得るために此処に来たんだよ、殺戮をしても構わないと云う、"殺人許可書"をな」
久方ぶりだ、ここまで、この男が気分良く言葉を発するなど。
その姿を観るだけで自分自身がまるであの時代へと巻き戻された気分だ。
「貴方一人で、未知の軍団に向かい戦うとでも?」
「ああそうだ、私は私一人で軍団であり、一つの"国"だ、幾千幾万の戦争を目の当たりにし、闘争を続けてきた、時に撤退戦があり、時に侵略戦もあり、時に前線に出た事もあり、時には敗北を揺るがし死を味わった事もあった、けれど、辞められない、私は持て余している、この能力を、私を今度こそ、今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ、絶命を与える者がいると、信じている―――――あぁ、だが未練もある、ひとつの未練、これがある限りは、私は死ぬ事は出来ないのだがね」
まるで一つの呪いでもい言いたげに言葉を濁す。
愉しい、もしも彼が一人で、数も分からぬ軍団との闘争を行うとしたら、彼は紛れも無く一騎当千を行い国士無双を誇る行いを魅せてくれるのだろう。
「―――欲しいですか?出撃の合図を」
「あぁ、是非にも欲しい」
言葉は絆を生む、これは約束ではない、確固なる契約。
「―――欲しいですか?殺人許可書を」
「あぁ、それがあれば、私は三千世界何処に居ても確実に殺戮できる」
言葉は災厄を生む、これは契約ではない、絶対なる悲願。
「―――必ずも、いい朗報が聞ける事を、信じてもいいですか?」
「―――祈りは既に現実と化している、戦女神は微笑み、軍神は歓喜によって叫んでいる、これ以上の祈りは実現しない程に、貴様の悲願は叶うだろうよ」
言葉は願いを生む、これは悲願ではない、私情にして至上となった願望の実現。
「では、与えましょう、"殺人許可書"を、貴方の事ならば、全ての人間の死体を瞬時に処理しますでしょうしね」
これにて約束を終えた、これにて契約を終えた、これにて、願望は実現する。
「―――詠いましょう、殺すように」
瞬時、それは牙を剥く。
ケタケタと笑い出し、天を向いて地を蹴落とす。
「―――嗚呼、それが欲しかった、思う存分詠おう、敵の悲鳴はコーラスで、私の一振りは指揮者の一振り、泣き叫ぶ毎に観客は悦び、満足のいく大喝采が始まる」
「―――さぁ、宴は始まる、合唱は始まる、唄って躍って蹴落として、惨殺撲殺銃殺焼殺轢殺殴殺全ての殺戮を展開してやる、さあ、愉しもう」
「我は複合合成獣、全てを鵜呑み、醜き最強の獣也」