宣戦布告
真紅が広がる不気味な塗装が施された巨大施
設。
その中央に垣間見えるのは、えらく白髪が特徴的な老人。
此処は王立魔道図書館、十四階『館長室』。
第六階種別部署とは違い、"館長"のみ赦された図書館の"例外"を管理する、隔離領域とも呼べる場所である。
この十四階へ足を踏み込むには館長である事を認める特別な"魔道書"を使わなければならないために、本来通常業務をこなす社員は入る事すら出来ない。
「―――おや、久しいですねぇ……"今"では士護帳、と呼ばれていますか」
そう、隔離施設とも呼ばれたこの十四階へと足を踏み込むものは指で数えるほどしか居ない。
館長と対極的に立つ、士護帳荒哉も、またその隔離施設へ足を踏み込む一人でもあった。
「あぁ、実に久しい、今から数えて、二百年と十五日くらいか?」
「ふふふ、もうそんなに経過していましたか、まったく、年を取るとは素晴らしい」
年老いた老人は、さも昔を懐かしむように明後日の方向へ余韻に浸る。
何を思い出しているのか、時折だらしない顔へと変わるのは、つまりはそう言うことだろう。
「ほざけ"サン・ジェルマン"、貴様はそのなりで一体何世紀も生きてきた?」
けれど士護帳は昔の事など思い出したくは無いというつもりだろう、毒虫を噛み食った様な顔をして、強引にも話を切り上げる。
"サン・ジェルマン"と呼ばれた館長は、さも残念そうに顔を窄め、それでいて、よくよく考えれば、と言葉を口にする。
「貴方に言われたくはありませんね―――おっと、貴方はこの名を嫌っていましたか、それで、一体何のようですか?」
話を切り上げ、物事の事態を確認する。
士護帳は話が逸れてしまったか、とまた"士護帳らしき"何かへと変貌する。
「英知な貴様ならもう既に耳に入っているだろう、"宗教"、最近また馬鹿な奴らが馬鹿な騒動をおっぱじめるらしい」
「ほう、それはそれは、貴方は一体何処でそれを?」
どうやら"宗教"については既に知っているらしい、それ以前に、この話が出た時点で、館長は意外な顔をしていた。
「"魔道書"の使い方もロクに知らん小僧から尋常ならざる方法で聞きつけた、なあに、たかが六十億の中から一つ命が消えただけだ」
大きく舌なめずりをして、物事の表れを手で表現する、何かを理解したのか、少しばかり苦笑する館長は、その目の前に見える"怪物"に、自分が思える限りの評価を口にする。
「貴方は、そんな口振りで残りの六十億の人間の命を奪いそうでなりませんね」
さて、どうだかな、と、その冗談を間受けする士護帳、事実、彼は世界を変える程の力を持っている。
それは比喩でも例えでもない、絶対的な能力を持ち合わせる士護帳に、最早理屈など意味を持たないからだ。
「さて、その宗教の実態だが、実は奴らの目的は、一冊の書物が欲しいだけらしい、所謂"神"と言われるものだが、そこまではあの小僧に情報は持たせなかったらしい」
少しばかり残念そうに顔を鎮めて、けれど確かな成果はあったと口を歪ます。
士護帳は体内から一冊の本を取り出す。
それは魔道書ではなく、通常の、何処にでも売ってある世界地図。
それを広げてページを捲る、場所は日本、九州地方。
「そう、確か奴らは此処を拠点としている、それだけはコイツの頭の中から見えた」
「ほう、それは素晴らしい、で、貴方は拠点を知り、何をすると?」
「決まっている」
士護帳は、唄う様に言葉を踊らす。
「皆殺しだ」